鳩山首相の所信表明演説<要旨>  所信表明演説=中身あいまい

2009-10-27 | 政治

日経新聞 社説1 意欲見えても中身あいまいな首相演説(10/27)
 鳩山由紀夫首相が就任後初の所信表明演説に臨み、政治主導で「戦後行政の大掃除」に取り組む決意を示した。首相は「誰もが尊厳をもって、生き生きと暮らせる社会を実現することが、私の進める友愛政治の目標」と述べ、自らの政治理念である「友愛」へのこだわりもみせた。
 自分の言葉でわかりやすく語ろうという意欲は感じられた。各省の重点施策をたばねた従来型の所信表明演説のスタイルを排し、演説内容は「脱官僚依存」を印象づけた。
 ただ50分を超える長い演説を聞いても、政権が目指す国の姿が明確になったとは言い難い。
 首相は「人間のための経済」への転換を唱え「経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのをやめようということだ」と説明した。そのうえで雇用や人材育成の安全網の整備、食品の安全、消費者の視点重視などを強調し「国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済、社会への転換」を訴えた。
 一方で「日本経済を自律的な民需による回復軌道に乗せる」ことを最重要課題に掲げた。低炭素型産業を成長の柱に据えることや、規制の全面的な見直し、羽田の24時間国際拠点空港化などにも言及している。
 しかし演説全体の基調は、成長戦略を通じて国を豊かにするというメッセージ性が乏しい。首相は成長戦略をはじめとするマクロの経済運営の方針を早急に示す必要がある。
 沖縄・普天間基地の移設などの在日米軍再編問題では「地元の皆さまの思いをしっかり受け止めながら、真剣に取り組んでいく」と述べるにとどまった。
 普天間移設問題で米側は11月のオバマ米大統領の来日前の決着を求めており、安保摩擦は深刻だ。展望のないまま結論を先送りする首相の姿勢には危惧を抱かざるを得ない。
 インド洋上での海上自衛隊による給油活動は、今国会に延長法案を提出しないため、来年1月に中断することが確実な情勢だ。にもかかわらず「単純な延長は行わない」と繰り返すだけでは、アフガニスタン支援への本気度は伝わらない。
 日本郵政の西川善文社長の辞任を受け、鳩山政権は斎藤次郎元大蔵次官を後任に起用した。大物官僚の天下りであるのは明白だ。首相が天下りや渡りのあっせんの全面禁止を訴えても、これでは説得力がない。
 自身の個人献金の虚偽記載問題では「政治への不信を持たれ、誠に申し訳ない」と陳謝したが、今後の国会論戦では首相の説明責任が厳しく問われることになる。

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鳩山首相の所信表明演説<要旨>
2009年10月26日 中日新聞夕刊
 26日行われた鳩山由紀夫首相の所信表明演説要旨は次の通り。
 1、はじめに
 国民は政権交代を選択した。日本に民主主義が定着してから実質的に初めてのことだ。国民の強い意思と熱い期待に応えるべく「今こそ日本の歴史を変える」との意気込みで、国政の変革に取り組む。
 ▽戦後行政の大掃除
 鳩山内閣は官僚依存の仕組みを排し、政治主導・国民主導の新しい政治へと180度転換させる。まず行うべきは「戦後行政の大掃除」だ。
 1つ目は「組織や事業の大掃除」だ。
 行政刷新会議は予算や事務・事業、規制の在り方を見直す。税金の無駄遣いを徹底して排除し、行政内部の密約や省庁間の覚書も明らかにする。
 中央集権・護送船団方式の法制度を見直し、地域主権型の法制度へと抜本的に変える。国家公務員の天下りや渡りのあっせんも全面的に禁止し、労働基本権の在り方を含め国家公務員制度を抜本的に改革する。行政情報の公開・提供を積極的に進め、オープンな政策決定を推進する。
 もう1つの「大掃除」は、税金の使い道と予算編成の在り方を徹底的に見直すことだ。
 縦割り行政の垣根を廃し、戦略的に税財政の骨格や経済運営の基本方針を立案していく。複数年度を視野に入れたトップダウン型の予算編成を行う。国家戦略室で財政の在り方を根本から見直し「コンクリートから人へ」の理念に沿って財政構造を転換する。長く大きな視野に立った財政再建の道筋を検討する。
 政治も国民の信頼を取り戻さなければならない。私の政治資金の問題で政治への不信を持たれ、国民にご迷惑をおかけしたことを誠に申し訳なく思う。捜査に全面的に協力していく。
 2、命を守り、国民生活を第1とした政治
 ▽友愛政治の原点
 支え合いという日本の伝統を立て直すことが第1の任務だ。政治は弱い立場の人々や少数の人々の視点を尊重しなければならない。友愛政治の原点として宣言する。
 ▽国民の命と生活を守る政治
 今後2年間「国家プロジェクト」として年金記録問題について集中的に取り組む。公平・透明で、将来にわたって安心できる新たな年金制度の創設に向け、着実に取り組んでいく。
 新型インフルエンザ対策は万全の準備と対応を尽くす。医療費や介護費の抑制方針を転換し、医療提供体制を再建する。後期高齢者医療制度は廃止に向けて新たな制度の検討を進める。
 子育てや教育は社会全体が助け合い負担する発想が必要だ。財源を確保しながら子ども手当の創設、高校の実質無償化などを進める。
 生活保護の母子加算を年内に復活させ、障害者自立支援法は早期廃止に向け検討する。
 3、支え合って生きていく日本
 日本社会を支えてきた地域の「きずな」が切り裂かれつつある。
 目指したいのは人と人が支え合う「新しい公共」の概念だ。人を支える役割を「官」だけが担うのではなく1人1人が参加して社会全体で応援する新しい価値観だ。市民やNPOの活動を側面から支援していく。
 すべての人が互いの存在をかけがえのないものだと感じる日本を実現するため、先頭に立つ。
 4、人間のための経済へ
 「人間のための経済」への転換を提唱する。経済合理性や経済成長率に偏らず、セーフティーネットを整備し、暮らしの豊かさに力点を置いた経済、社会に転換する。
 ▽経済・雇用危機の克服と安定した経済成長
 金融・経済危機は今なお予断を許さない状況だ。雇用情勢の一層の悪化や消費の腰折れ、中小企業の資金繰りの厳しさに対応し、持続的成長を確保することは最重要課題だ。
 子ども手当創設やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路の原則無料化など家計を直接応援し、国民が安心して暮らせる「人間のための経済」への転換を図る。物心両面から個人消費の拡大を目指す。
 内需中心の安定的な成長を実現する。「緑の産業」を成長の柱として育てる。公共事業依存型の産業構造を「コンクリートから人へ」という基本方針で転換する。医療や介護、子育て、教育、農林業、観光などの分野で新しい雇用と需要を生み出す。羽田の24時間国際拠点空港化など真に必要なインフラ整備を進め、アジア全体の発展を促す。
 ▽地域主権改革の断行
 「地域主権」改革を断行する。地域で頑張る住民が主役となる国づくりに取り組む。地方の自主財源の充実、強化に努める。国と地方が対等の立場で対話できる協議の場を法制化する。
 戸別所得補償制度の創設で農林漁業を立て直し、農林漁村を再生する。郵便局ネットワークを地域の拠点に位置付け、郵政事業を見直す。
 5、「架け橋」としての日本
 日本は地球規模の課題の克服に向けて立ち上がり、東洋と西洋、先進国と途上国、多様な文明間の「架け橋」とならなければならない。
 すべての主要国による国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提に2020年に温室効果ガスを1990年比25%削減する目標を掲げ、国際交渉を主導。途上国支援のための「鳩山イニシアチブ」を実行する。
 オバマ大統領の「核のない世界」の提案を強く支持する。未来の子どもたちに「核のない世界」を残す重要な一歩を踏み出せるよう不退転の決意で取り組む。
 日本を取り巻く海を「争いの海」にしない。その基盤は緊密かつ対等な日米同盟だ。「対等」とは世界の平和と安全に果たせる役割や具体的な行動指針を、日本の側からも積極的に提言し、協力していける関係だ。グローバルな課題で連携し、協力し合う重層的な日米同盟を深化させる。在日米軍再編は安全保障上の観点も踏まえ、沖縄の方々が背負ってきた負担や苦しみに思いをいたし、真剣に取り組んでいく。
 日本はアフガニスタンに農業支援、元兵士に対する職業訓練、警察機能の強化などの支援を行う。インド洋の給油活動の単純延長はしない。
 北朝鮮問題は拉致、核、ミサイルを包括的に解決し、その上で国交正常化を図るべく、関係国と連携して対処する。6カ国協議を通じて非核化を実現する。拉致問題は考え得るあらゆる方策を使い、1日も早い解決を目指す。
 日ロ関係は北方領土問題を最終的に解決し、平和条約を締結すべく精力的に取り組む。韓国、中国、東南アジアなどの近隣諸国とは、多様な価値観を相互に尊重し、真の信頼関係を築く。他の地域に開かれた透明性の高い「東アジア共同体」構想を推進する。
 6、むすび
 鳩山内閣が取り組むのは「無血の平成維新」だ。官僚依存から国民への大政奉還、中央集権から地域・現場主権、島国から開かれた海洋国家への変革の試みだ。変革の挑戦に力を貸してほしい。


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