介護職員の処遇改善、置き去り 報酬 自立支援に重点
2018年1月27日 朝刊
厚生労働省は二十六日、二〇一八年度からの三年間、介護保険サービス事業所に支払う介護報酬の改定方針をまとめた。リハビリによって高齢者の自立支援や重度化防止を進める事業所に配分を重点化し、終末期の高齢者が増えていることを背景に、みとり対応する介護施設への報酬を加算する。経営が悪化している特別養護老人ホーム(特養)の基本的な報酬は最大3%引き上げる。
社会保障審議会の分科会に示し、了承された。自立支援に力を入れるのは、団塊世代が全員七十五歳以上となる二五年に向け、増大する介護費用の伸びを抑制するのが狙い。事業所が外部の医師や作業療法士などのリハビリ職と連携して身体機能の回復に取り組んだ際の報酬を手厚くするほか、通所介護(デイサービス)は利用者の状態が改善するなど成果を出すと加算する。
介護報酬全体の改定率は昨年末に全体でプラス0・54%と決まっており、厚労省は、加算も合わせれば報酬が上がる事業所が多いとみている。報酬が上がると事業所の収入は増える半面、利用者の負担は増える。
医療機関に支払われる診療報酬との同時改定であることを受け、医療、介護の連携を強化する。高齢者のみとりに対応できるよう、夜間や早朝に医師が駆けつける態勢を整えた特養への加算を新設。実際にみとると従来よりも報酬を上乗せする。認知症の人への対応を強化し、手厚く看護職員を配置するグループホームにも積み増す。
特養は三年前の改定で基本報酬が大幅に引き下げられたため、昨年の厚労省調査で利益率が1・6%に急落。調査で比較的利益率が高かった大規模な通所介護事業所の報酬は、最大5%下げる。
*人手不足深刻に
今回の介護報酬改定では、介護現場で働く人の給与増につながる処遇改善策は盛り込まれなかった。厚生労働省は、二〇一七年四月に行った最大月一万円の処遇改善の影響を見極める必要があると説明するが、専門家は介護現場での人手不足がより深刻になりかねないと指摘する。
安倍晋三首相は二十二日の施政方針演説で「介護人材の確保に向けて、処遇改善を進める」と強調した。〇九年以降、三年に一度の介護報酬改定での加算などで、最大月五万三千円の処遇改善が行われている。
ただ実際は加算を受ける要件が厳しいため、処遇改善に踏み切れない事業所も多く、介護職員の給与は低い水準にとどまっている。
厚労省の一六年の調査では、介護職員の賞与などを除いた平均給与は二十二万八千三百円。全業種の平均給与の三十三万三千七百円より十万円余も低い。一六年の介護職の有効求人倍率は三・〇二倍と全業種の一・三六倍に比べて高く、人手不足感が強まっている。
慢性的な人手不足などから、介護事業所の倒産も増えている。東京商工リサーチの調査では、一七年の全国の介護事業者の倒産件数(負債額一千万円以上)は百十一件に上り、二〇〇〇年度に介護保険制度が始まって以来最多となった。
今回の改定は介護ロボットの活用など人手不足を見据えた対策も盛り込んだ。だが介護職員の処遇改善という本質的な問題が置き去りでは、介護サービスの質の向上にはつながらない。
淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「どの業界も人手不足から賃金を上げている状況を踏まえ、介護職員の処遇も毎年改善していくべきだ。今回の改定では介護現場の人手不足解消に程遠い」と指摘する。 (木谷孝洋)
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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