(綿井健陽チクチクプレスhttp://watai.blog.so-net.ne.jp/2008-09-25 経由の記事)
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メディアを考える
雑誌:月刊現代、論座、PLAYBOY…相次ぐ休刊 ノンフィクション、存続に危機感
出版不況の波を受け、雑誌の休刊が相次いでいる。10月号で休刊となる「論座」(朝日新聞社)、12月発売号までの「月刊現代」(講談社)、11月発売号で終わる「PLAYBOY日本版」(集英社)と、ノンフィクションや論考など堅い内容がウリの月刊誌が、次々と幕を下ろしつつある。実情を編集部や執筆者に聞いた。【鈴木英生】
総合月刊誌の採算ラインは、実売5万~6万部とされる。論座は、はるかに下回る2万部しか刷っていなかった。月刊現代は8万部。厳密には総合誌ではないが、PLAYBOY日本版もここ半年の平均部数は5万5000部だった。実売は最近、論座は1万部を、月刊現代も4万部を切ることがあった。
それでも発行してきたのは、総合誌は社の論調を示す看板や単行本の書き手確保という使命があったから。しかし、両誌とも社全体の不採算部門見直しで、ついに切られた。
論座は95年創刊で、当時3万7000部と部数は元々少なめ。近年は読売新聞の渡辺恒雄主筆に靖国問題で発言させるなどして、完売号もあった。若手起用に積極的で、「31歳フリーター。希望は、戦争。」(07年1月号)のフリーライター、赤木智弘さんも、その一人。赤木さんは「ブログを書いていただけの素人を『論壇』にデビューさせる雑誌は、まずない。休刊は残念だ」。
月刊現代は66年創刊。69年には36万部が出た。ノンフィクションに強く、最近は立花隆さんら大御所の連載をずらりと並べていた。だが、高橋明男編集長は「あえて、紙の雑誌を読みたいと思わせるインパクトは作れなかった」と悔やむ。
ノンフィクション作家の佐野眞一さんは、雑誌の衰退理由を「どうしても時事的な話に流されてしまう、編集者の企画力の問題もあるだろう。良いノンフィクションには、必ず読者がいるはずなのだが」と嘆く。
PLAYBOY日本版は75年創刊で、同年12月に90万部を記録。作家、故開高健の「オーパ!」など連載が話題を集めた。休刊について、鬼木真人・第5編集部長は「休刊はやむを得なかった。今後もノンフィクションを盛り上げる姿勢は変わらない」。今年8月発売号から、31歳の若手ノンフィクション作家、石井光太さんの連載も始まっていたが、石井さんは「筆者の序列が明確だった従来の雑誌の世界が縮小するのは、若手にはチャンスかもしれない」と楽観的だ。
後継媒体も模索されている。朝日新聞は、論壇系記事中心の別刷りを作る案がある。講談社は、ノンフィクションの媒体を検討中。
佐野さんは「ノンフィクションだけの専門誌は成功例がない」と悲観する。ただし、「昔、大手の映画業界は衰退したが、今は独立系の映画が次々作られている。同様に、雑誌が消えてもノンフィクションの書き手はいなくならず、新しい発表や取材の手法が生まれるだろう」とみる。
一方、過去の事件の読み物中心だった「新潮45」は、12月発売号からノンフィクションを軸に刷新する。部数は最盛期(02年)の半分、約4万6000部。10月から編集長となる宮本太一・次長は「他誌の休刊で、弊誌の部数が伸びるわけではない。危機感を持ってやる」と話している。
◇部数、最大で8割減 06年に「休刊」が「創刊」上回る ネット急伸で広告も苦境
日本雑誌協会によると、「月刊現代」「論座」「PLAYBOY日本版」のいずれも最近では最も発行部数が多かったのは98年で、それぞれ14万部、8万部、10万部。08年(4~6月の平均)は、8万3000部、1万7367部、5万5000部と大きく減らしている。
98年は、各社が同協会に自己申告した部数で、08年は印刷工業会が証明した部数。また、休刊誌ではないが、「中央公論」(1887年12月創刊)も98年は9万部だったが、08年には4万1300部と半減した。
出版科学研究所によると、月刊誌や週刊誌の販売高のピークは97年。以降は前年割れが続き、06年から雑誌の休刊点数が創刊点数を上回り始めたという。
日本雑誌協会の担当者は「雑誌の部数減には、駅前などに立地した中小新刊書店の相次ぐ廃業も影響している」と指摘する。新刊書店で構成する「日本書店商業組合連合会」の加盟社は98年4月に1万277店だったが、今年4月には5869店にまで落ち込んでいる。
一方、雑誌広告費も減少している。電通が毎年調査している「日本の広告費」によると、98年は4258億円だったが、06年は3887億円にまで縮小した。
06年の広告費は、専門誌や地方誌を集計対象に加えれば4777億円と統計上は増加する。しかし、同じ基準で、07年には4585億円と減少に転じており、雑誌広告市場の縮小傾向に歯止めがかかっていない。
06年はインターネット広告が4826億円で雑誌広告を追い抜き、07年は6003億円と大きく伸びた。
出版科学研究所は「インターネットや携帯電話の普及を背景にライフスタイルが変わり、若い人は雑誌を最初の情報源と見ないようになった。どの雑誌も新規読者の獲得に苦戦し、読者は高齢化している。後から見ると今回の相次ぐ休刊は氷山の一角だったということにもなり得る」と分析する。【臺宏士】
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◇「社会」の情報、失われる--ジャーナリスト・魚住昭さん
ジャーナリストの魚住昭さんは、主な作品の多くを「月刊現代」の連載から単行本化してきた。魚住さんに同誌休刊の影響などを聞いた。
--月刊現代の休刊を聞いた感想は?
あぜんとした。生きる糧を失ったのに等しい。何か取材したいとき、助けてくれる人がいて、何の制限もなく載せてくれた。金銭的にも生きる糧だった。
月刊現代は、いわば戦後民主主義路線の雑誌。講談社は、戦争に協力した反省を込めていたのだと思う。その志が、経済的にもたなくなったのだろう。月刊現代の休刊で、講談社がアイデンティティーを失ってしまうことを恐れている。
--雑誌ジャーナリズムが担ってきた役割とは?
情報には、大きく分けて官の情報と民の情報がある。官の情報は精選され、すぐ記事にできる。民の情報は雑多だから記事化に手間がかかる。前者主体になりがちな新聞に対して、雑誌は後者を中心に伝えてきた。
雑誌が衰退すれば、情報の多様性が失われる。官の情報は伝えられ続けるだろうし、ブログなどに私的な情報はあふれている。つまり、国家と個人の間にある、「社会」の情報が失われてしまう。
--雑誌が読まれなくなった理由は?
貧困の拡大も原因だと思う。雑誌にお金をかけられる人が減った。書き手の責任も大きい。本当に面白く、核心を突いた内容ならば売れたはずだ。
--業界の今後は?
今の流れが続けば、新人の書く場は失われ、ノンフィクションは、10、20年先、新聞記者など組織ジャーナリストの副業としてしか残らないだろう。現役の書き手としては、今後、月刊現代のような媒体が復活できるように、優れた作品を書くしかない。【聞き手・鈴木英生】
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■人物略歴
◇うおずみ・あきら
1951年生まれ。著書に「野中広務 差別と権力」(講談社ノンフィクション賞)「渡邉恒雄 メディアと権力」など。
毎日新聞 2008年9月22日 東京朝刊