法で定める最高刑が死刑の殺人・強盗殺人罪などは時効廃止を 法務省最終報告書

2009-07-17 | 死刑/重刑/生命犯

殺人罪は時効廃止を 法務省勉強会
2009年7月17日 中日新聞夕刊
 公訴時効制度の在り方を検討してきた法務省の勉強会は17日、法で定める最高刑が死刑の殺人・強盗殺人罪などは時効を廃止すべきだとする最終報告書をまとめた。森英介法相が同日の閣議後の記者会見で明らかにした。法改正までの日程は今後の政治情勢も絡むが、早ければ年内にも法制審議会に諮問される見通し。実現すれば日本の刑事司法制度の大きな転換点となる。
 最終報告書によると、殺人・強盗殺人罪などの時効を廃止するほか、最高刑が無期懲役以下の強姦(ごうかん)致死や傷害致死、危険運転致死といった罪などについては時効を延長する方向で、さらに検討を進めるとした。
 法改正した場合、改正前に発生して時効が進行中の事件にまでさかのぼって適用できるかどうかについては、憲法三九条が禁じる「遡及(そきゅう)処罰」に当たるとする説もあり、学説が分かれる。これについて報告書は「憲法上は許されるのではないかと考えるが、政策的当否を含めさらに検討が必要」とした。既に時効が完成した事件には適用しない。
 勉強会は、時効の廃止・延長のほか、犯人のDNA型情報などで氏名不詳のまま起訴することや、一定の証拠があることなどを条件に検察官の請求で時効停止(延長)する制度についても検討した。しかし、対象事件が限られ、証拠が少ない事件に比べて不公平感が生じるため、「適当な方策ではない」と結論づけた。
 勉強会は法相、副大臣、政務官、刑事局長ら法務省幹部で構成。今年1月から省内ワーキングチームを中心に検討してきた。
 重大事件の公訴時効は2005年施行の改正刑事訴訟法で延長されたが、「殺人など生命を奪った犯罪では刑事責任の追及期限を設けるべきでない」と訴える被害者遺族や社会の処罰感情を考慮し、見直しを進めてきた。
 【公訴時効】 犯罪行為が終わってから一定期間を経過すると公訴の提起(起訴)を認めない制度。(1)時間の経過で証拠が散逸し、公正な裁判が困難になる(2)被害者らの処罰感情が希薄化する-などが理由とされる。犯人が国外に逃亡した場合などは時効の進行が止まる。2005年1月施行の改正刑事訴訟法で「死刑に当たる罪」は15年から25年に、「無期の懲役・禁固に当たる罪」は10年から15年に延長された。民事でも、債権などの権利を一定期間行使しないと消滅する「消滅時効」などがある。
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時効廃止への詰めを急げ(日経新聞 社説 7/18)
 法務省が殺人など重大・凶悪事件の公訴時効を廃止する方針を打ち出した。日本では明治時代に刑事訴訟に関する法律が整備されて以来、ずっと時効が設けられてきた。廃止は政策の大きな転換になる。
 この問題は今後、法制審議会(法相の諮問機関)に諮られる。さまざまな課題はあるが、法改正に向け詰めの議論を急ぐよう求めたい。
 犯罪後一定期間が過ぎれば裁判で罪に問われることがなくなる。これが公訴時効だ。日本ではいま、最高刑が死刑にあたる殺人などの場合の25年が最長である。
 時間がたつと証拠が散逸し公正な裁判を行うことが難しくなる。被害者や遺族の犯人に対する処罰感情も薄れてくる。時効を設ける主な理由はそう説明されてきた。
 事件を捜査し罪を罰するのは被害者や遺族の報復の気持ちを満たすためでなく、国が自ら法秩序を守り回復させるためである。事件から長期間経過して社会全体の記憶が薄れ、法秩序回復の意味も小さくなったと判断すれば、国は捜査、裁判を放棄する権限も持っている。時効制度の背景にはこうした考え方もある。
 しかし近年、刑事司法の仕組みは被害者の権利や心情を重んじる方向に動いている。2005年には犯罪被害者等基本法が施行され、昨年末には裁判への被害者参加制度も始まった。法務省が勉強会で年初から時効見直しの検討を進めてきたのも、重大犯罪の時効廃止を求める被害者や遺族の声を受けてのことである。
 被害者や遺族は「犯人への処罰感情が薄れることはない」と訴えている。一般にも「時効廃止」に賛成する意見が多いこと、捜査技術が進んでいることも考慮すれば、時効を設ける根拠は弱くなってきている。
 時効を廃止する重大・凶悪犯罪の対象を具体的にどう決めるかは今後の課題だ。すでに起きて時効が進んでいる事件に新たな制度を適用すべきかどうかも、見解が分かれるだろう。時効がなくなれば扱う事件が増え、捜査当局の負担が重くなるという問題もある。
 法務省もこうした点は今後十分な検討が必要だとしている。議論を尽くすためにも、法相は早期に法制審に諮問してほしい。
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「時効」よ止まれ:時効見直し4案提示 「延長」「廃止」に肯定論
毎日JP 2009年4月4日
 ◇日弁連「反対変わらず」 慎重な議論要求
 04年に殺人罪の時効を15年から25年に延長する法改正が行われた際、延長反対の意見書を法務省に提出した日本弁護士連合会。意見書の作成にかかわった刑事法制委員会事務局長代行の山下幸夫弁護士は「反対の立場は今も変わらない」と話す。「犯人ではないのに指名手配されたり逮捕されたりした場合、事件発生からの時間の経過で無罪の立証ができにくくなり、冤罪(えんざい)を生む」と指摘し、慎重な議論を求めた。
 一方、同じ日弁連の中にも、時効制度について独自の検討を始めたグループもある。約80人の弁護士でつくる犯罪被害者支援委員会は3月25日、犯罪被害者の立場から月1回程度、議論していくことを決めた。事務局長の武内大徳弁護士は「時効を廃止すべきだという確信は持っていないが、だからといって従来の議論を聞く限り、守るべきだとも思えない。私自身も揺れている」と明かす。
 日弁連は今後、各委員会ごとに議論を進めていくという。
 ◇有識者、「遡及適用」意見分かれ 検討結果は評価
 有識者たちは検討結果をおおむね好意的にみているが、法改正前に発生した事件にも改正内容をさかのぼって適用する「遡及(そきゅう)」を時効で認めるかどうかでは判断が分かれた。
 安冨潔・慶応大教授は「凶悪、重大犯罪の増加に伴い法務省が進めた04年の刑事法整備は、有期刑の延長が中心で、時効は付随的に取り上げられ、議論が十分でなかった印象がある。今回は法務省が遺族の声などに応え、時効制度の見直しに正面から切り込むスタンスを示した」と評価する。ただ、長期捜査で捜査負担が大きくなる懸念などから、「法改正の対象は処罰感情の強い死刑相当の殺人事件などに絞るべきだ」と注釈を付けた。
 諸沢英道・常磐大大学院教授は、時効廃止を支持。「時効は撤廃し、長期にわたった後起訴する場合は、DNAなど明確な証拠に基づいて慎重に運用してほしい」と話す。廃止対象となる事件は「広げすぎると議論の収拾がつかなくなる。死刑相当の事件に限るべきではないか」と言う。
 時効の法改正が行われた場合、改正前に行われた違法行為にもさかのぼって適用させるかどうかについて、安冨教授は「事件時の法を事後に変えるのは刑事法の原理に反する」として遡及適用は難しいとの見方。諸沢教授は「犯行時に犯罪でなかったものを、後から犯罪に改正して裁くわけではない。時効は犯人に与えられた権利ではなく、政策で決められた恩恵にすぎないので、遡及しても問題はない」と語る。
◇日弁連「反対変わらず」 慎重な議論要求
 04年に殺人罪の時効を15年から25年に延長する法改正が行われた際、延長反対の意見書を法務省に提出した日本弁護士連合会。意見書の作成にかかわった刑事法制委員会事務局長代行の山下幸夫弁護士は「反対の立場は今も変わらない」と話す。「犯人ではないのに指名手配されたり逮捕されたりした場合、事件発生からの時間の経過で無罪の立証ができにくくなり、冤罪(えんざい)を生む」と指摘し、慎重な議論を求めた。
 一方、同じ日弁連の中にも、時効制度について独自の検討を始めたグループもある。約80人の弁護士でつくる犯罪被害者支援委員会は3月25日、犯罪被害者の立場から月1回程度、議論していくことを決めた。事務局長の武内大徳弁護士は「時効を廃止すべきだという確信は持っていないが、だからといって従来の議論を聞く限り、守るべきだとも思えない。私自身も揺れている」と明かす。
 日弁連は今後、各委員会ごとに議論を進めていくという。


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