角田美代子容疑者 《自絞死》 兵庫県警本部の留置場内 2012.12.13 死刑とは何か~刑場の周縁から

2012-12-13 | 死刑/重刑/生命犯

美代子容疑者、特殊な自殺方法 気絶しても結び目が緩まないやり方で…
zakzak2012.12.13
 兵庫県尼崎市の連続変死・行方不明事件で主犯格の角田(すみだ)美代子容疑者(64)が兵庫県警本部の留置場内で自殺した。県警の発表では首つりではなく、首に長袖のシャツを巻いての窒息死。専門家は「医学の知識がある者が使う特殊な方法で自殺した」と語る。女の犯罪史を塗り替えると注目された凶悪事件。尼崎の「鬼女」は、最期まで警察を出し抜いた。
 「細心の注意を払っていたはずだが…。容疑者が留置場内で自殺したのは大変遺憾」。美代子容疑者の死亡が確認された12日、警察庁幹部はこう声を絞り出した。
 直接の監視責任がある兵庫県警留置管理課の橋本真佐男次席は「落ち度はなかった」と釈明するが、24時間の監視態勢ではなかった。県警の失態であるのは間違いない。
 周囲に「死にたい」と漏らし、特別要注意者だった美代子容疑者。気になるのは、監視の目を盗み、どうやって目的を果たしたのかという点だ。
 「布団をかぶり、着ていた長袖のシャツの両袖を首に巻き付けた状態で見つかった。首つりではなく、自分で両袖を引っ張って縊死(いし)したと思われる」(捜査関係者)
 一般的な首つりのように、自分の体重を利用して頸部を圧迫するのではなく、自身の腕力で首を絞めたことになる。この方法だと「途中で気を失い、頸部への圧力が弱まる。物理的に無理がある」(同)という。
 では、どんな方法か。
 『死体は語る』(文春文庫)の著書がある元東京都監察医務院長の上野正彦氏は「発見時にひもが固く結ばれているか、緩んでいるかで自殺、他殺の判断がつく。緩んでいれば、他殺の疑いが出てくるが、警察はすぐに自殺と発表した。このことから法医学用語でいう『自絞死(じこうし)』と推定できる」と指摘。「気絶してひもがゆるまないように本結びにして横に一気に引っ張る。意識を失っても結び目がゆるまないから死ねる」と話す。
 上野氏によると、1983年1月、千葉大の女性医師が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕され最高裁で有罪判決が下りた夫が同様の方法を取って拘置所内で自殺した。
 「その時は、房内の畳から糸を抜き、ボールペンに巻き付けてそれを回すと糸が食い込むように細工していた。いずれにしても『自絞死』は、医学的な予備知識がないと思いつかない方法」(上野氏)。ひも状のものさえあればどこでも実行できるため、「防止はほぼゼロ」(同)とも。
 人生を悪事とともに生きた美代子容疑者。最期まで狡猾さを失わなかった。
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〈来栖の独白2012/12/13Tue.〉
 昨日は北朝鮮のミサイル打ち上げと中勝美被告無罪判決(大阪高裁)、そして角田美代子容疑者自絞死の報道が、私の目を引いた。
 北朝鮮のミサイル打ち上げと中勝美被告無罪判決については別のエントリで触れた。ここでは、角田氏について、感じたことを書いてみたい。
 報道に接しての率直な感想としては、こんなこと(自絞死)がやりおおせるものだろうか、という驚きだった。どこか高いところにぶら下がって(絞首刑のように)死ぬなら想像に難くないが、100%自分の力で、というのは驚きだ(意識が薄れてゆけば、手の力も弱まるだろう)。それを、角田氏はやり遂げた。昔、勝田清孝も留置所で自殺を図ったが発見され、顔を土気色に変容させた程度で未遂に終わっている。行刑施設の管理規定の下、15分ほどの(角田氏の場合は10分ほどだったとか、いわれているようだ)見回りの間隙をぬって自殺を図る、強固な意思とともに、周到な準備を要するだろう。因みに、日本の死刑の場合、刑務官がボタンを押して死刑囚が絶命するまでの所要時間は十分余であるようだ。
 それにしても、死んではならなかったと思う。自己の将来に希望も楽しみも何一つ見出せそうにないとしても、生きて事件解明に貢献しなければならなかった。陰惨な事件が繰り返し起きないよう、事件の真実を明らかにしなければならなかった。それは、角田氏にしかできないことでもあった。
 気になることがある。今般の不祥事によって、職員への締め付けが厳しくなるだろう。そのことが被収容者への過度に厳格な監理に繋がらねばよいが・・・。気になる点はいま一つあるが、ここでは書かない。
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《死刑とは何か~刑場の周縁から》 加賀乙彦著『宣告』『死刑囚の記録』 大塚公子著『死刑執行人の苦悩』
〈抜粋〉
 新潮社刊『宣告』(下)
 「さようなら」楠本は一同にむかって深く頭をさげた。その瞬間、所長が額に皺を寄せて保安課長に鋭い目くばせをした。保安課長が右手をあげて合図した。あらかじめ楠本の両側に待機していた看守が手錠をはめ腰にゆわくのと、もう一人が背後から白布で目隠しをするのが同時だった。
 壁の中央で扉が音もなく穴をあけた。中腰になった保安課長が先にたち、3人の看守が左右と後ろから支えて、楠本は歩き始めた。にわか盲のため、足先で1歩1歩たしかめるような歩き方だが、安心しきって誘導に従っている証拠に、歩度に乱れはなく、靴は---それはよく磨かれて艶々と光っていた---規則正しく床を打った。
 前列にいる近木からは隣室の様子が目撃できた。装置は東北のS拘置所で見たのと全く同じである。部屋の中央に1メートルと1メートル半角の刑壇がある。真上の滑車から白麻のロープが垂れている。1人の看守がロープのたるみを小脇にかかえ、もう1人がロープ端の輪を鉄環のところで支えている。ロープの長さは、死刑囚の身長と体重によって微妙に調節されてある。落下したとき、足先が地面より30センチ上に来るようにしなくては、処刑は成功しない。車の手動ブレーキに似た把手2つを2人の看守が一つずつ握っていた。2つのうちのどちらかが刑壇の止め金に連動している筈だ。
 壇の扉を看守が、焼却炉の蓋でもするように、音高く閉めた。いよいよだなと近木は思い、これからおこる情景を順を追って想像しようとした。が、まだ何も考えぬうちに、グワンと鉄槌で建物を打ち毀すような大音響がした。その音が何だかあまり早くしたので、いまのは予行で、これから本番がだと思った。しかし、芝居でもはねたようにそれまで沈黙を守っていた人々が俄然ざわめき立ち、2人の所長と検事を先頭に動き出した。
「行きましょう」と曽根原がうながした。いつのまにか白衣を着て、聴診器を胸に、血圧計を手にさげている。看守たちを掻き分けて先を急ぐのに、近木は従った。
 廊下の端に来て左に折れると、広い階段を見下ろす場所に来た。折り畳み椅子が3脚並べられている。所長2人と検事が座った。振り返ると教育課長や神父はここまで来ずに、先程登ってきた狭い階段から降りていく。近木は迷った。が、検事の横に立って、ともかくとことんまで見ようと、腹を決めた。彼の後に看守たちが並んだ。
 目の前の階段を曽根崎は身軽にひょいひょいと下りた。右側の窓から充分な採光があるため明るい、ちょっとした大学の臨床講義室を思わせる階段であった。下には菅谷部長がストップ・ウォッチを手に立っている。曽根原は奥の白いカーテンを左右にゆっくり開いた。人形劇でも始めるような何気ない動作である。が、むこうには銀のロープに吊りさげられた人間の姿があった。
 それが、今話をしたばかりの人間とは到底思えない。くびれた頸の上では死んだ頭が重たげに垂れ、下では躯幹と四肢がまだ生きていて苦しげに身をくねらせていた。それは釣りあげられた魚がピンピン跳ねるのに似ていた。
 落下の加速度を得たロープで頚骨が砕かれ、意識はすぐに失われるけれども、体はなおも生きようとして全力を尽す。胸郭は脹れてはしぼみ、呼吸を続けようと空しくあがく。腕は何かを掴もうとまさぐり、脚は大地をもとめて伸縮する。おそらく落下と同時にしたのだろうが、手錠と靴が取りのぞかれていたため、手足の動きは一層なまなましく見えた。
 やがて筋肉の荒い動きがおさまり、四肢は躯幹と並行に垂れ、ぐっぐと細かい痙攣をはじめた。前後左右に激しく揺れていたロープが1本の棒となって静止すると、縒りを戻しながらじわじわと回転しだす。顔がこちらを向いた。汗に濡れた青白い肌だ。目が潰れたように引き攣り、開いた口から固い舌先がのぞいている。流涎の幾条かが顎に、切創からはみでた脂肪のように光っていた。そこには精神によって保たれていた表情の気品がかけらも無い。肉体の苦悶が、そのまま正直に、凝固しているだけだ。
 機をうかがっていた曽根原医官が、背広の上着を脱がし、トレーニング・ウエアの袖をまくりあげて脈をとった。それから血圧計のゴム布を腕に巻きつけた。それだけの仕事が、体が逃げるように回るため、大層やりにくそうだった。ゴム布に空気を送り聴診器を腕に当てて血圧を測る。数値を菅谷部長が手帳に書きとる。脈搏と血圧の測定が何度もおこなわれた。曽根原は禿げ頭をせわしく動かし、白衣の襟を汗で湿して、懸命に仕事を続けた。こうすることがこの場合、最も重要なのだという自信が彼の動作に現れて、私語を交していた看守たちもいつしか黙りこみ、凝っと成り行きを見守っていた。
 ついに脈が触れなくなったらしい。すばやく胸をはだけ、聴診器を押しつける。弱った心臓の最後の鼓動を聴こうとする。曽根原が頷いた。菅谷部長がストップ・ウォッチを押した。
 曽根原は階段上の所長たちと検事に一礼し、「9時49分20秒、おわりました。所要時間14分15秒」と声高に報告した。
 近木の後にいた看守たちが階段を駆け降りた。保安課長が下に姿をみせた。棺が運び込まれ、屍体がおろされた。
 拘置所長が腰を浮かしながらK刑務所長に頭をさげた。
「お疲れさまです」
「やあ、きょうはスムースにいきましたな」赤ら顔の刑務所長は快活に言った。
「先週は、手古摺りましたからね」
「きょうのは、すっかり諦めてた様子でしたな。ああいう風にもってくのは大変でしょう」
「信仰があったんで、こっちは助かりました」
「握手をもとめられた時はちょっとあわてておられた」
「ええ、死人に触られるようなもんですからな、いい気持じゃあありませんや」
「しかし、今度の法務大臣は、まあジャンジャン判子を押すもんですな」
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◇ 角田美代子容疑者「兵庫県尼崎市の連続変死事件」 自死の理由 贖罪意識は・・・(産経新聞2012.12.15 ) 
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