神戸連続児童殺傷事件20年 <少年と罪 「A」、20年> 第2部(5)傷痕 (中日新聞 2017/6/30)

2017-07-01 | 神戸 連続児童殺傷事件 酒鬼薔薇聖斗

<少年と罪 「A」、20年>第2部 (5)傷痕 
  2017/6/30 Fri 朝刊
  心の深手 理解と疑問   
 上唇から左の頬に、すっと筋が入った。とっさに顔を覆った左手の甲も切り付けられた。床に散った自分の血を見て思った。
 「この子、こんなことをしなければならないほど、心が傷ついていたの?」
 2000年5月、5連休の初日。佐賀市若楠の山口由美子(67)は、佐賀駅発の西鉄バスに乗った。発車から30分後、最前列左の少年=当時(17)=が立ち上がり、小声で言った。「乗っ取ります」
 やせた体、丁寧な口調。手にした刃渡り30㌢の牛刀が不釣り合いだった。近くの女性客が刺され、山口はようやく恐怖を感じた。「スクープですよ」。少年はカメラで車内を撮った。
 次に山口が襲われた。続いて友人の女性=当時(68)。6時間の監禁後、2人は広島県で解放されたが、友人は失血死していた。
 山口は事件後、バスや刃物におびえ、魚を調理できなくなった。それでも、初対面の自分を殺そうとした少年に心を寄せた理由を考えた。少年は長女と同じ年齢。中学でいじめに遭い、引きこもり生活だったことも共通した。寂しそうな少年の表情に、長女の面影が重なった。
 「子どもは『親や周りのために、いい子でなくちゃ』という思いで追い詰められていく」。事件の後、「不登校の子どもに居場所を提供する団体をつくった。卓球やおしゃべりを楽しみ、気が向いたら登校してもらう。すべて本人任せだ。
 少年とは3度、医療少年院などで面会した。落ち着いた青年に変わり、深々と頭を下げてきた。退院前に犠牲者の墓へ行き、動揺する姿に「人としての感情がある」と知った。それでも、息苦しい環境が背後にあったと思えるだけで、犯行動機はいまも分からない。そのためか、山口は「子どもたちは今後、もっとおかしくなっていく」と考える。
 犯行少年は、1997年に神戸連続児童殺傷事件を起こした「A」にあこがれていた。インターネットで名乗った「キャットキラー」も、Aの猫殺しにちなんだとされる。西鉄事件のように、Aが17歳になった2000年、同年齢の少年による凶悪犯罪が続いた。
 「ひどく心を痛めた年だった」と、Aに次男淳君=当時(11)=を殺害された土師守(61)。命日に公表した談話で、子どもに愛情を注ぐことや教育の大切さを訴えた。
 「淳はなぜ殺されたのか」。事件から20年が経過しても、山口と同様に答えは見つからない。Aからの手紙でも分からなかった。
 心の傷は癒えず、出勤前は仏壇に線香を立て、ほぼ毎週、墓に向かう。ちらしの裏の落書きや「きかんしゃトーマス」の絵本。事件前は日常生活でありふれた品々だったが、かけがえのない物になってしまった。
 Aと同様に「人を殺したかった」という動機の犯罪が頻発し、ネットではAへの共鳴の声が続く。この異常さに、土師は「被害者の気持ちや痛みへの想像力がない。Aの賛美なんて、そんな、ええかげんなものはない」。事件の「本質」を知ってほしいと願う。
 「彼はただ、究極の弱い者いじめをしただけ。あんな卑怯者まねをしても、しゃあないやろ」(一部敬称略)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し。なお、記事中、漢数字のところ、算用数字とした。(=来栖)
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◇ 改正少年法成立 2014/4/11  「有期刑」上限15年⇒20年 「不定期刑」短期5年⇒10年 長期10年⇒15年
 少年犯罪を防ぐのは「厳罰」か「教育」か 相次ぐ少年法改正の背景は
 THE PAGE 2014.05.09 06:00
 4月11日、参院本会議で可決、成立しました。今月中には施行される見通しとされています。少年法はこれまでにも何度か改正されていますが、改正にはどんな背景があるのでしょうか。また、どのような懸念点が考えられるのでしょうか。
*今回の改正でさらに「厳罰化」進む
 今回の改正で、少年法はさらに「厳罰化が進んだ」と言われています(「適正化」という言葉が正しいという人もいます)。厳罰化と言われるのは次のような点です。
■有期刑の上限引き上げ
刑期の上限に関して、少年法の量刑では、成人の場合は死刑を下すような罪の場合は「無期刑」にしなければならない、無期刑を下すような罪の場合は「10~15年の有期刑」にすることができると定められていました。改正法では、この有期刑の上限が20年にまで引き上げられました。
■不定期刑の引き上げ
不定期刑とは、判決時に懲役年数を確定させず、〇年~〇年以下と幅を持たせた刑期を与え、その後の更生度によって処遇を決めることです。これまで不定期刑の長期の限度は10年、短期は5年でしたが、これがそれぞれ15年と10年に引き上げられました。
■検察官の立ち会い
改正前は、検察官が関与する少年審判は殺人や強盗などの重大事件のみに限られていましたが、改正後、長期3年を超える罪にはすべて検察官が立ち会うこととなりました。これまで検察官が立ち会う事件は5.5%程度でしたが、今後は約80%以上となると予想されています。同様に、国選付添人が選任される事件の範囲も拡大しました。
*2000年、2007年にも大きな改正
 少年法は2000年と2007年にも大きな改正がなされています。それぞれの改正での主な変更点は次の通りです。
《2000年の改正》
 刑事罰対象を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げ。16歳以上の重大犯罪を原則として逆送すると定めた。
《2007年の改正》
 少年院の年齢下限を「14歳」から「おおむね12歳」に引き下げ(少年院送致の年齢下限撤廃)。14歳未満でも警察による強制的な調査が可能に。
 少年法の厳罰化が進んでいる背景にあるのは、神戸連続児童殺傷事件(1997年)、西鉄バスジャック事件(2000年)、長崎男児誘拐殺人事件(2003年)、山口女子高専生殺害事件(2006年)など、少年による重大事件が発生したことによる国民感情です。2007年の改正以降も、石巻3人殺傷事件(2010年)など、少年による重大事件は発生しています。少年事件が起こるたびに、「少年にも、犯した罪に見合った罰を与えるべき」という声が上がります。
*減少傾向にある「少年犯罪」
 それでは、厳罰化によって少年犯罪は本当に減るのでしょうか。
 少年法が大きく改正された2000年の少年による刑法犯総数は13万2336件 、そのうち凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)は2120件でした。2001年には13万8654件(凶悪犯2127件)、2002年には14万1775件(同1986件)と増加します。
 ただ、2003年の14万4404件(同2212件)を境に減少となり、今年2月に発表された「少年非行情勢」では、刑法犯は2004年から2013年までは10年連続で減少していることが報告されています。2004年の検挙人員は13万4847人(同1584人)でしたが、2013年には5万6469人(同786人)にまで減っています。また、同年齢層人口1000人あたりの検挙人員も16.8%から7.8%へ減少しています。ただし、成人の場合は10年間2%前後で推移しており、成人と比べて少年が高い確率で検挙されていることが分かります。
*「少年法の精神」を重視する考え方
 近年、少年犯罪が減少傾向であることが分かりますが、それでも厳罰化に異を唱える専門家は少なくありません。ひとつは、2000年以降も少年による重大事件は起こっており、厳罰化では防げない事件があること。そしてもうひとつは、少年法は罪を犯した少年に対し保護と更生の機会を与えるものという考え方があるからです。
 そもそも罪を犯してしまう少年については、その成長過程で充分な教育や愛情を受けられなかったり、虐待を受けていたりというケースもあります。罪の重大さを理解できないからこそ残酷な罪を犯してしまうという場合もあり、罪の重さを認識させるためにも、適切な教育が必要です。
 少年法は少年の可塑性に着目しているとされています。可塑性とは、成長によって人格が柔軟に変化していくことであり、すなわち少年は成人よりも更生の余地が大きいことが期待されています。更生して社会復帰することが許せないと考える人もいますが、本当の更生とは自分が犯してしまった罪の重さと生涯向き合わなければならないことであり、罪と向き合いながら社会生活を送ることも、償いの一つという考え方もあるでしょう。
 厳罰化に賛成する人、反対する人の両方で一致しているのは、「罪を犯した少年はきちんと罪と向き合い、内省を深めなければならない」ということです。そのために行うべきことは厳罰化なのか、更生への教育なのか、その両方なのか。議論をこれからも続けていく必要があるでしょう。
 ◎上記事の著作権は[THE PAGE]に帰属します *強調(太字)、リンクは来栖
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