田原総一朗氏は「僕は首相を3人失脚させた」と言う。それ(=マスコミ)は、どれほど大きな権力だろうか。

2016-04-28 | メディア/ジャーナリズム/インターネット

2016.4.28 01:00更新
【阿比留瑠比の極言御免】反権力がマスコミの本分なのか 岸井成格氏らが「真実を伝え、権力を監視する姿勢を貫く」と豪語する違和感
 少し前の話で恐縮だが、元外交官で立命館大客員教授の宮家邦彦氏が14日付本紙朝刊に寄せた「ジャーナリズムの本質とは」と題したコラムを取り上げたい。報道の目的とあり方についての考察に、深くうなずけたからである。
 宮家氏は、朝日新聞の記事中で、あるニュースキャスターがジャーナリズムの最大の役割を「権力を監視する番犬『ウオッチドッグ』であること」と述べていたことに「強い違和感」を表明する。
 そして在京の外国特派員らに意見を求めたところ、「権力の監視」説は少数派で、多数派の見解は「事実を可能な限り客観的に伝えること」だったと指摘し、こう結論付けている。
 「ジャーナリズムの任務は、相手が権力であれ、非権力であれ、自らが事実だと信じることを人々に伝えることが第一であり、『権力の監視』はその結果でしかないということだろう」
■「首相クビにした」
 筆者も長年、著名ジャーナリストやキャスターらがためらいなく報道を「反権力」と位置づけ、自分たちの使命を「権力の監視」と主張することが不思議だった。権力側であれ非権力側であれ、いいものはいい、ダメなものはダメの是々非々でいいだろうにと。
 例えば、田原総一朗氏は3月24日に日本外国特派員協会で開いた記者会見で、こんな見解を示した。
 「時の権力、時の政権に対して、いかにそれをウオッチするか、どこが間違いかを厳しく追及するのがマスコミの役割だ」
 また、岸井成格氏は3月25日のTBS番組でこう強調している。
 「何よりも真実を伝え、権力を監視するジャーナリズムの姿勢を貫くことがますます重要」
 真実という容易には近づき得ない言葉を手軽に使うのはどうかと思うが、事実を伝えることであれば何より重要なのは当然だ。ただ、それを権力の監視とイコールであるかのように結びつけて語るのは短絡的ではないか。そもそも、国民がいつそんな役割や使命を彼らに委託したのか。
 現在、マスコミ自体が行政・立法・司法の三権と並ぶ「第四の権力」と呼ばれる。政治家からは、半ば本気で「本当は第一の権力だ」と言われることも珍しくない。実際、田原氏は前述の記者会見でこともなげにこうも語っていた。
 「僕は首相を3人失脚させたんだけど、僕のところに圧力なんて何にもない」
 3人もの現職首相のクビを飛ばしたというのが事実であれば、それはどれほど大きな権力だろうかその国政と社会への影響力は計り知れない。ならば、巨大な権力者そのものである田原氏らは、自分たち自身をも監視対象に置かなければならない理屈となろう。
■真実はどこにある
 米国のジャーナリズム界の長老と呼ばれ、20世紀最高のジャーナリストとたたえられたリップマンは、「ジャーナリストは自分が主観的なレンズを通して世の中を見ていることを知っている」と指摘し、その要求される仕事について次のように記している。
 「人びとの意見形成のもととなるいわゆる真実といわれるものが不確実な性格のものであることを人びとに納得させること、(中略)政治家たちをつっついてもっと目に見えるような諸制度を確立させること」
 少なくとも「真実はわれにあり」とばかりの上から目線で権力を監視することや、とにかく反権力の姿勢をとることがジャーナリズムの本分だとは思えない。(論説委員兼政治部編集委員)

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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2016.4.20 09:55更新
【宮家邦彦のWorld Watch】朝日の「反権力」論に違和感 パナマ文書を暴いたICIJから見えるジャーナリズムの本質
 4月最初の週末、パナマで巨大爆弾が炸裂(さくれつ)した。タックスヘイブン(租税回避地)で有名な同国の大手法律事務所から膨大な顧客情報が漏洩(ろうえい)したのだ。流出した資料は1100万件以上で、数十万人分、過去40年分もあるという。この種の取引自体は合法だが、資金洗浄、汚職、脱税など犯罪が絡めば、当然各国の司法当局は動き出す。犠牲者の大半は世界の大富豪と犯罪人だろうが、所詮筆者には縁のない話。今の関心は、今後誰が逮捕されるかよりも、誰がこの事件を本格的に報じたかにある。
 その団体は米国ワシントンに本部を置くICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)、膨大な情報を匿名で入手し、80カ国の100以上の報道機関のジャーナリスト400人余とともに1年間資料を分析したという。さすがはICIJだ、名称に「調査報道」を掲げたのもだてではない。今回はこのパナマ文書事件でジャーナリズムの本質を改めて深く考えさせられた。
 きっかけは最近テレビ報道ニュース番組のアンカーが相次いで降板したことに関する朝日新聞の記事だ。あるニュースキャスターが、ジャーナリズムの最大の役割は「権力を監視する番犬『ウオッチドッグ』であること」だと述べていたことに強い違和感を抱いたのだ。
 一方、同じ新聞の別の記事では著名なジャーナリストが、報道機関の任務は「この世で起きている重要事実を漏れなく伝える」のと同時に、「ニュースの意味付けを与え、その価値付けを与える」ことだと述べていた。こちらの方が筆者の感覚に近いのだが、在京の外国特派員にも話を聞いてみた。
 筆者の質問に対し記者たちの意見は割れた。「権力の監視」説は少数派で、多くは「事実を可能な限り客観的に伝えること」だった。要するにジャーナリズムの任務は、相手が権力であれ、非権力であれ、自らが事実だと信ずることを人々に伝えることが第一であり、「権力の監視」はその結果でしかないということだろう。
 それにしても、自ら独自に調査した事実に基づき報道する「インベスティガティブ・ジャーナリズム」の伝統を受け継ぐ欧米の記者の言葉には説得力がある。口を開けば「反権力」を唱える日本の一部報道関係者とは大違いだが、それでも下には下がある。その典型がパナマ文書に関する中国メディアの扱いである。今回の情報漏洩でまず名前が出たのは、ロシアのプーチン大統領の側近、イギリスのキャメロン首相の父親、ブラジルの政治家、パキスタン首相の親族、FIFA(国際サッカー連盟)の倫理委員会関係者などだった。そんなはずはないと思ったら、案の定、中国の政治指導者の名前も多数出てきた。
 報じられただけでも、習近平国家主席の姉の夫、劉雲山政治局常務委員の嫁、張高麗常務委員の娘婿、李鵬元国務院総理の娘、曽慶紅元国家副主席の弟、賈慶林元常務委員の孫娘、薄煕来元政治局委員の妻、胡耀邦元総書記の三男など枚挙にいとまがない。さらに驚くのは、このパナマ文書に関する国内報道が皆無であるばかりか、それを報じるNHK、CNN放送までもが見事に遮断された。これだけ消したいということはよほど都合が悪いのだろうか。こうした報道管制が続く限り、中国で真のジャーナリズムを育てるのは至難の業である。
 調査報道を基本に事実を伝えようとするジャーナリズムと、公正中立ではなく反権力を信条とするジャーナリズムに、大本営発表しか報道できない中で苦しむジャーナリズム。欧米と日中の溝は予想以上に深い。パナマ文書スキャンダルで逃げ遅れる人は不幸かもしれないが、真のジャーナリズムを持てない国の市民はさらに不幸である。
【プロフィル】宮家邦彦
 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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