中日新聞 特報
2022.11.09 Wed.
今は1時間後に執行、面会は制限 刑務官も苦悩「制度の実態 知って」
東京拘置所にある「刑場」の「ボタン室」から見た「執行室」(右奥)。ボタンの操作で執行室の床板が開き、ロープを首にかけて立たされた死刑囚が絞首刑となる=東京・小菅で(代表撮影)
「玉井さんの時代、2日前に告知できたのはお互いに信頼関係ができていたから」と語る元刑務官の坂本敏夫さん=東京都立川市で
玉井さんは1949~55年、大阪拘置所長を務め、46人の死刑執行に立ち会った。翌56年、国会に議員立法の死刑廃止法案が提出された際、参院法務委員会に公述人として出席し、法案に賛成する立場から発言している。
議事録によると、玉井さんは「刑務官の任務は受刑者を矯正し、社会に復帰させること」だが、教育者としての使命と死刑執行という「二つの相反する現実」に直面し、「矛盾に悩んできた」と吐露している。「46人を私は殺してきた。死刑は人間の生命を剥奪することで、これほど残虐な刑罰はない」と訴え、「かたき打ち的な考え方のどこに教育的要素が見いだせるか」と問うた。
法務省によると、今月二日現在、死刑囚は106人いる。同省は2007年から、執行の際に氏名や執行場所を公表しているが、対象とした理由や、執行までの状況など不明な点は多い。
同年施行の刑事収容施設法は、死刑囚の処遇を「信条の安定を得られるように留意」することを定め、死刑囚同士の接触は原則として禁じる。面会や文通は親族のほか、婚姻や訴訟、事業関係で必要な者に制限する。
フォーラム90は社会民主党の福島瑞穂参院議員と4年に一度、死刑囚へのアンケートを行っている。10月の集会で、今年の調査結果も発表した。
回答したのは50人。このうち、面会相手がいないのが8人、文通相手がいないのが4人だった。
執行の告知希望時期については、回答なしが14人で最多。次いで「分からない」などその他が12人、「1週間前」が9人の順だった。
自由記述欄では「面会・文通の自由が、むしろ心情の安定に寄与する」と制限への異論があった。「筆記用具の差し入れを許可してほしい」などの要望のほか「死刑は死んだら終わり。『終身刑』を導入すべきではないか」「生きる権利は尊いが絶望から抜け出せない人もいる。死ぬ権利についても考えていただけないか」との意見もあった。
広島拘置所総務部長などを歴任し、死刑執行に立ち会った経験のある元刑務官の作家坂本敏夫さん(74)によると、死刑囚は朝、執行の約1時間前に独房から刑場内の教誨室に連れて行かれ、告知を受ける。その後、慌ただしく執行となる。この運用は1970年ごろからで、背景に「中核派など過激派を中心とした公安事件で、一夜のうちに多くの被告が東京拘置所に入ってきた。刑務官が死刑囚の処遇に多くの時間を割けなくなった」ことを挙げる。それ以前は、各拘置所長の裁量があったが、通達で東京拘置所に合わせる形で均一化された。
政府は死刑囚の心情の安定などを理由に、当日告知について「変更する予定はない」としている。
坂本さんは「死刑囚の運動、入浴を担当する警備隊所属の刑務官は、死刑囚と最も親しい関係になる。その警備隊が死刑囚を刑場に連れ出し、手錠や首縄をかけ、執行後は湯灌して納棺する。どれだけつらいか」と話す。
玉井さんが音声を残した時期と異なり、死刑囚同士の接触が禁じられたため、教育の一環で死刑囚を集めて、執行が決まった者が心穏やかに「お先に失礼します」と言うような場がつくれないという。坂本さんは「刑務官は職務命令に背けないので、仕事と割り切る以外にない。死刑制度を存続させるなら、執行は矯正施設(拘置所や刑務所)以外の裁判所や検察庁でやってほしい」と本音を漏らす。
死刑制度の議論にあたっては「国会で議員が政府に質問し、死刑囚以外の受刑者の処遇を含め、実態を社会に知らせることが重要だ」と強調した。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し
* 死刑執行2日前「姉さん、もう泣かんで」67年前の音声…原告「当日告知は違憲」と主張