死刑執行2日前「姉さん、もう泣かんで」67年前の音声…原告「当日告知は違憲」と主張

2022-11-09 | 死刑/重刑/生命犯

「姉さん、もう泣かんで。笑って別れましょう」 67年前、死刑囚の肉声生々しく
 中日新聞 朝刊 2022年11月9日(水)  

  玉井さんが録音した音声は先月、死刑廃止デーに合わせ、東京都内で開かれた集会で一部公開された=東京都千代田区で 
  玉井さんが録音した音声は先月、死刑廃止デーに合わせ、東京都内で開かれた集会で一部公開された=東京都千代田区で

  東京拘置所にある「刑場」の「ボタン室」から見た「執行室」(右奥)。ボタンの操作で執行室の床板が開き、ロープを首にかけて立たされた死刑囚が絞首刑となる=東京・小菅で(代表撮影) 
 東京拘置所にある「刑場」の「ボタン室」から見た「執行室」(右奥)。ボタンの操作で執行室の床板が開き、ロープを首にかけて立たされた死刑囚が絞首刑となる=東京・小菅で(代表撮影)

 「玉井さんの時代、2日前に告知できたのはお互いに信頼関係ができていたから」と語る元刑務官の坂本敏夫さん=東京都立川市で
 「玉井さんの時代、2日前に告知できたのはお互いに信頼関係ができていたから」と語る元刑務官の坂本敏夫さん=東京都立川市で

 67年前、大阪拘置所の玉井策郎所長(故人)は、死刑執行の告知から執行までの3日間、死刑囚の肉声を秘密裏に録音した。1時間40分ほどに編集されたテープが、玉井さんの遺族に残された。死刑囚が親族や死刑囚仲間に最後の別れを告げ、執行されるまでの様子が分かる貴重な記録だ。直前に告知する現在の運用とは異なっており、執行のあり方を考えさせられる。 (大杉はるか)
 本紙は、死刑廃止国際条約の批准を求める市民団体「フォーラム90」を通じ、音声を入手した。状況を解説するナレーションが合間に入り、死刑囚の会話や執行時の「音」が録音されている。聞き取りづらい部分もあるが、流れは次のようなものだ。
 「長かったですね」
 一九五五年二月九日午前、所長室に連れてこられた男性死刑囚=当時三十代=は、玉井さんから「恩赦の申し出が断られ、執行命令が来る。誠に残念だが、これはやむを得ない」と告知され、そう答えた。
 音声によると、男性は四六年、仲間二人と強盗事件を起こし、現場に駆けつけた警察官を射殺。五〇年に最高裁で死刑が確定した。
 告知を受けたその日、三重県から姉が面会に訪れた。職員は「今日と明日、二日間の面会だから、言い忘れたということがないように、姉さんにお願いするようにしたらいい」と男性に促す。姉は「今年、新制中学校を卒業するんだよ」と、男性に代わって養育している長男の様子を伝えた。
 午後からは、ほかの死刑囚とともに送別茶会を開催。職員は「近くお別れをせねばならんことになって会を催すことになった。(男性は)非常に落ち着いておられる。私たちも心強い」とあいさつし、男性は「ほんまにもっと早く行かなあかんのに残っとってね。一番古いんやからね」などと語る。その場で男性は戦時中の歌謡曲「誰か故郷を想わざる」を歌った。
 翌十日の朝、男性は「ゆうべ、四時間半ぐらいしか寝られなんだですわ」とこぼす。午後に開かれた俳句の会の後、再び姉との最後の面会。「それじゃ姉さん、長い間ありがとうございました。どうかお母さんにもよろしく申してくださいね。子どものこと、女房もお願いします」と男性。嗚咽する姉に声をかける。「姉さん、もう泣かんで。笑って別れましょう」
 執行当日の11日。男性は教誨堂で、残された死刑囚に最後のあいさつをする。その後、職員から「土壇場になったわけだが、現在考えているものがあったら聞かせてくれないか」と請われ、「(他界した)父親に会いたい」「あんな悪いことせなんだらよかったって今になって思うんですわ」などと早口で語る。
 場面は刑場に移る。「何か言い残すこと、忘れていることない?」と聞かれた男性は「先生にはいろいろ無理ばっかり・・・どうもありがとうございました」。その後、読経が響く中、床板が開き、落下音とみられるバーンという音。「死刑執行2時59分。(中略)所要時間14分2秒。終わり」との医官の報告で終わる。
 音声の一部は、世界死刑廃止デー前日の10月9日、フォーラム90が都内で開いた集会で公開された。今の執行を巡る風景は67年前と大きく違うだろう。50年ほど前から、執行告知は当日になったからだ。
 現在、死刑囚二人が死刑執行を当日朝に通知するのは不服申し立てができず憲法違反だとして、国を相手取った訴訟を大阪地裁に起こし、係争中だ。原告側は十月の弁論で玉井さんの録音した音声を証拠提出した。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載、及び書き写し(=来栖)
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