だから野田首相も菅前首相も「増税」を言い出した~財務官僚たちはこうして時の権力者を籠絡する 高橋洋一

2012-06-15 | 政治

だから野田首相も菅前首相も「増税」を言い出した! ささやき腹話術、信頼関係を得るシステム……財務官僚たちはこうして時の権力者を籠絡する
(SAPIO 2012年6月6日号掲載) 2012年6月14日(木)配信
文=高橋洋一(嘉悦大学教授)
 野田首相は、消費税増税法案の「今国会成立に命を懸ける」と宣言した。野田首相が財務官僚の“操り人形”になっているとはよく言われるが、財務省の役人たちは、どのようにして政治権力をコントロールしているのか。元財務官僚である高橋洋一・嘉悦大学教授が、そのテクニックを明らかにする。
 野田首相や、財務大臣経験者の谷垣禎一・自民党総裁、さらに与野党の有力政治家まで、財務官僚から長い時間をかけて「増税は正義」と刷り込まれている国会議員は多い。
 本来、増税を実施するには強い政権基盤が必要だ。しかし、野田内閣の支持率は20%台。こんな政権基盤が弱い内閣に国民の半数以上が反対する消費税増税は不可能のはずだが、財務省は民主党と自民党の協力で法案を成立させるというマジックを本気でやってのけようとしている。今や財務省は日本の政治、国会そのものを支配しようとしていると言える。
 彼らは、どのようにして政治家を思い通りに動かしているのか。
 財務官僚は、“スケジュール戦術”や“ささやき腹話術”、“国会答弁誘導術”といったテクニックの数々を駆使する。
 大臣など政務三役であれば、応援演説、仲間の議員のパーティでの挨拶など、いつ、どこで発言する機会があるかという政務のスケジュールを把握しておく。政治家は演説のネタを常に必要としているから、公用車に同乗した秘書官などが演説の前に言わせたい話をささやく。すると、政治家のほうも「今の話、メモはないのか」と飛びつく。もちろん、メモは事前に用意しておく。こうして財務官僚の腹話術が完成する。
 どこの省庁でもこのような手法で大臣や副大臣の発言を自分の省に有利な方向に“誘導”しようとしているが、中でも財務省がすごいのは、将来有望な政治家との個人的なコネクションを若い時から作っておくシステムができあがっていることである。
 実際、私が旧大蔵省に入省した時には、入省直後の5月から、与野党議員への質問取りをさせられた。他の省庁では40代の課長や課長補佐クラスがやっていることを、新入職員時代からやらせて、個人的な信頼関係を得る。そして財務官僚と政治家の「勉強会」の実施などに繋げていくのだ。こうして付き合いを深めていけば、“ささやき腹話術”がより効果的に働く。
 また、財務省には高校別・出身県別のいわば“派閥システム”があり、例えば有力政治家の高校の後輩が省内にいれば、自然と紹介されて人脈ができるようになっている。こうしたシステムにより、有力政治家を籠絡していくのだ。
 前出の“ささやき腹話術”にも、やり方のバリエーションがある。増税のように政治家が嫌がるテーマの場合は、いきなり「増税が必要」と腹話術をしようとしてもできないから、二段論法、三段論法で追い込んでいく。 例えば、最初の演説では、「このままでは日本はギリシャ化する」と財政再建を訴えさせる。たとえ増税に慎重な政治家でも、財政再建の必要性は否定できないから“ささやき腹話術”にはまりやすい。
 次の段階の演説では、「ヨーロッパでは消費税の税率が15~20%のところが多い」という内容のメモを渡す。そして3段階目の演説で、「日本の消費税は5%、段階的に上げていかなければならない」と言わせるわけだ。財務官僚が作る国会答弁のメモでも同じである。そして既成事実を作って、思い通りに進めるのだ。
 民主党の3代の政権では、鳩山元首相が一番官僚との距離感があったが、菅前首相、野田首相と徐々に財務官僚の影響力が大きくなっていった。菅氏は副総理時代に「霞が関は大バカ」と発言し、財務相を兼務した時も、最初は官邸の副総理室で執務していて、財務省に行くのに抵抗したほどだ。
 ところが、財務相兼務時代の2010年1月下旬に、国会質疑で経済学の基礎知識である「乗数効果」という用語を理解していないことがバレて、大恥をかいた。これをきっかけに、財務官僚を頼るようになったと言われる。
 象徴的なのは、“乗数効果事件”の直後、10年2月にカナダで開かれたG7での菅氏の発言である。他の国の財務相は全員英語が堪能だったが、菅氏だけが苦手。現地では同行した官僚に頼らなければ会議で発言さえできない状況に追い込まれた。このG7で菅氏は、「日本の国債残高はオリンピックなら金メダルがもらえる水準」と財政再建の必要性を発言し、その後、「日本のギリシャ化」を言いだし、その年の6月に首相に就任すると、参院選公約で「消費税10%」を掲げた。財務官僚がいかに権力を籠絡したか、非常にわかりやすいケースだ。
財務省支配を突き崩すには「議員が法律を作る」べき
 財務省は政治家だけではなく、予算編成権で他の省庁の頭を押さえることで霞が関の覇権を握っている。
 なにしろ財務官僚が入省すると、「われわれは富士山、他省は並びの山」という優越意識を最初に叩き込まれる。予算折衝の時も、他省の局長に対して、財務省は課長クラスの主計官が応対する。
 財務省の“植民地”になっている役所も多い。内閣府、環境省、防衛省、金融庁などは、毎回ではないが、財務省が次官や幹部を送りこむ。省内の出世レースで1番手は最終的に財務事務次官、2番手は国税庁長官に就任するが、その次のクラスはそうした“植民地”の官房長や局長に出向し、その後、次官になる。本籍は財務省だから、次官同士の力関係も出世レースで勝ち上がった財務省の次官には頭があがらない。
 今年1月の人事では、内閣府の次官に財務省出身の松元崇氏(元主計局次長)が就任し、ナンバー2の内閣府審議官にもやはり財務省出身の清水治氏(元主税局総務課長)が就いた。この人事は単なる財務官僚の“植民地”へのローテーションではなく、重要な狙いが秘められている。
 内閣府は政策立案の基礎になる経済成長率の予測や政府統計を所管している。財務省は伝統的に成長率を低めに予測し、税収見積もりを低く抑えて「財源が足りない」と増税の必要性を主張してきた。実際は予測より税収が増えるから、そのカネで補正予算を組み、政治家や他省庁にアメを与えて支配力を強化してきたわけだ。
 今回の消費税法案には景気条項が盛り込まれ、税率引き上げの実施には景気回復が必要という条件がつけられた(目安は名目3%成長)。そうすると増税の実施前にはこれまでとは逆に、成長率の予測を高くしなければならない。そうした“統計マジック”を意図通りにするために、内閣府のトップ2人を主計局と主税局で押さえたと見ていい。
 こうした現状では、「政治主導」などほど遠い。では、「財務省支配」を突き崩すには、どうすればいいのか。
 答えは、議員が法律を作れるようになることだ。
 本来、三権分立の中で法律を作るのは立法府(国会)の役割だが、現在は法律の9割以上は「閣法」と呼ばれる内閣提出の法案で、役所が法律を書いている。国会議員は役所の法案を採決するだけの“下請け”と化し、議員提出の法案は「議員立法」と特別視されている。しかし、議員が立法するのがあるべき姿で、閣法のほうが例外であるはずだ。立法権を霞が関に奪われていることが官僚に政治を支配される根本原因である。
 しかし、財務官僚をはじめとする霞が関の役人たちに頼らなければ、議員は法律を作るための基礎となるデータや資料さえないのが現実だ。それを打破するには橋下徹・大阪市長のように、独自のブレーンを作り、立法能力を持つことが鍵になる。そうすれば、政治が財務官僚から権力を奪い返すことができるはずだ。
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