最期の言葉すら言えなかった…7人を殺害した黒人男性への「残虐な刑罰」は憲法違反の恐れも
2022年12月24日 東京新聞
<命の償い ~米国・死刑の現実~>㊥
「私が犯した罪を謝りたい。私は近道を探して道を外れ、何も見えず、愚かだった」
2021年1月14日、米中西部インディアナ州の刑務所で処刑されたコリー・ジョンソン=当時(52)=は、立会人となった宗教家ビル・ブリーデン(73)に最期の言葉を託していた。ジョンソンはその中で、殺害に関与した7人すべての名を挙げて謝罪。ブリーデンや弁護士らに感謝し、極刑を前に「心は平穏です」と結んでいた。
だが、ブリーデンは「私は処刑室でそれを代読するのを許されなかった」と話す。黒いスーツを着た担当者は執行直前のジョンソンにマイクを向け、「最期の言葉は本人が言わなくてはならない」と告げた。
ジョンソンの知能指数(IQ)は平均を大きく下回る70前後。読み書きは満足にできず、用意した文章を記憶して話すことはできなかった。最後は担当者に食い下がるブリーデンをなだめ、「もう始めましょう」と自ら刑に身を委ねた。
そんなジョンソンの処刑には、憲法修正第8条に反するという疑念が付きまとった。知的障害者への死刑は、この条項が禁じる「残虐で異常な刑罰」に当たる恐れがあるためだ。
裁判記録や米メディアによると、ジョンソンは1992年、麻薬密売組織の一員として、南部バージニア州で対立組織のメンバーやトラブルを起こした客ら計7人を仲間と共謀して殺害。5人に対しては、自ら銃の引き金を引いた。
非難を免れない凶行だが、ブリーデンは「犯罪組織は常に知的に問題のあるメンバーを用心棒や汚れ役に仕立てる」と話す。
薬物常用者の母に捨てられたジョンソンは13歳でも時計が読めず、自分の名前も書けなかった。それでも約30年前の裁判当時、弁護人はジョンソンの知的能力を争わず、死刑判決後の度重なる異議も却下されてきた。
根深い人種差別が残る米国では、死刑判決が黒人に偏ってきた歴史も問題となっている。ジョンソンも黒人だ。米NPO死刑情報センターによると、現在の死刑囚の41%が黒人で、人口比の14%を大きく上回る。センターは「知的障害のある有色人種の被告は死刑判決を受けやすいことが調査から明らかになっている」と指摘する。
ジョンソンの処刑には、政治状況も影響した。執行日は、2020年の大統領選で敗れたトランプがホワイトハウスを去るわずか6日前。死刑肯定派のトランプは17年間停止されていた連邦レベルの処刑を再開し、廃止派の大統領バイデンへの政権移行が決まった後も異例の執行を重ねた。
ブリーデンは「あの処刑室で起こったことのすべては、本来テレビで放映されるべきものだ」と話す。
十字架のように両腕を広げて担架に縛り付けられたジョンソン、薬物を流すチューブ、家族の叫びと被害者遺族の歓声…。「人々は自らの目で死刑の現実を見つめ、考えてほしい」。それが、罪を命で償うという刑罰を続ける国と国民の責任だと考えている。(文中敬称略、インディアナ州スペンサーで、杉藤貴浩)
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先進国のうち米国は例外的に死刑制度を維持する。同様に死刑を続ける日本と比べ、執行の透明性は比較的高い。処刑に立ち会った関係者や犯罪被害者の声を聞き、米国の死刑の実態や今後に迫る。
<命の償い ~米国・死刑の現実~>
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◎上記事は[東京新聞]からの転載・引用です
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