新幹線殺傷事件で無期懲役「出所後また殺す」と宣言の男は何年で仮釈放になる? 前田恒彦 2019/12/18

2019-12-21 | 死刑/重刑/生命犯

新幹線殺傷事件で無期懲役「出所後また殺す」と宣言の男は何年で仮釈放になる? 

     前田恒彦  | 元特捜部主任検事   

 2019/12/18(水) 18:00 

   新幹線で乗客1人を殺害、2人を負傷させた男(23)に対し、求刑通り無期懲役が言い渡された。確定すれば何年くらいで社会に戻ってくるだろうか。出所したら新たな凶器を購入して人を殺すとまで述べていたからだ。

「辛抱・仮釈」
 有罪判決が確定して刑の執行が始まると、刑期の長さや初めての服役か否か、暴力団関係者か否かなど様々な要素を考慮して、服役する刑務所が決まる。例えば、初犯だが執行される刑期が10年以上であれば、そうした者をまとめて収容している千葉刑務所や岡山刑務所で服役することとなる。
 担当刑務官は各受刑者の日々の生活態度などを見て成績を付けるが、所内のルールに違反せず、ごく当たり前の生活を続けていれば、次第にランクが上がっていき、1か月間に発信できる手紙の通数や面会回数が増えるなど、制限が緩和されていく。その終着点にあるのが、仮釈放にほかならない。
 だからこそ、刑務官も、受刑者に対し、「辛抱・仮釈」という言い方をして、たとえ所内のルールや刑務官、受刑者らの言動が理不尽だったとしても、無用のトラブルを起こさず、仮釈放に向けてひたすら辛抱を続けるようにと指導している。
 刑務所としても、限られた職員で効率的な運営を行うためには、特に問題がない受刑者には早く出て行ってもらいたいというのが本音だ。

「満期上等」も
 ただ、三食付きで安全な寝場所まで確保されている刑務所には、初めから仮釈放を求めず、自分は悪くないと開き直り、反省をせず、刑の満了日である満期まで居座ろうとする者も少なからずいる。
 彼らは刑務官の指示に従わず、作業をサボるなど犯罪に当たらない程度のルール違反を繰り返し、何度となく懲罰を受ける。
 果ては、仮釈放が近いほかの受刑者の足を引っ張るため、「喧嘩両成敗」という刑務所内のルールを逆手に取り、その者に口論を仕掛けて共に懲罰を受け、その仮釈放をストップさせようとする。
 こうした行動パターンや発想を獄中用語で「満期上等」と呼ぶが、それでも刑期の最終日を過ぎたら必ず釈放しなければならない。
 刑務所としても効果的な改善更生策をとれないまま、他の受刑者から隔離し続ける以外に手の施しようがない。
 このような者のほか、精神・身体の疾患で社会生活が送れないなど様々な事情から仮釈放のレールに乗らず、満期まで服役する受刑者が有期刑全体の半数近くに上っているというのが、今の刑務所の実態だ。
 仮釈放と違って満期釈放には保護観察という釈放後のフォローアップ制度がないので、出所後に再犯に至る可能性もますます高まる。

反省文と申告票
 一方、刑務所は、何とか仮釈放のレールに乗せたい受刑者には、服役後、「反省文」の提出を求めている。仮釈放の許否を決定する地方更生保護委員会(北海道から九州まで管区ごとに8か所)に仮釈放の申請を行う際、参考とするためだ。
 刑務所は法務省矯正局の傘下、地方更生保護委員会は法務省保護局の傘下であり、矯正部門から保護部門へと橋渡しをするのが、こうした仮釈放の申請制度にほかならない。
 このようにして申請が行われると、委員会はその受刑者に対して「申告票」と呼ばれる書面の提出を求める。
 事件の原因や反省点、被害弁償・謝罪の有無や今後の予定、所内でどのようなことを行なってきたか、釈放後はどのような生活を送ろうと考えているのかといったものであり、先ほどの反省文よりも詳細だ。
 相当の作文力が求められるが、これまで培われてきた経験やノウハウに基づき、先輩受刑者や担当刑務官らが「幹ではなく枝葉をふくらませるべし」といった様々な指導を行うので、どの受刑者もそれなりの文章を作り上げることができる。
 ただ、服役中でも無実を主張している者もおり、本当にえん罪で服役させられているのであれば反省などあり得ないわけで、刑務所が仮釈放に向けた「踏み絵」として反省文などを書かせるのは、制度として問題だという指摘もある。

面接でのアピール
 こうした書類を提出すると、その後、仮釈放者の保護観察を担当している保護観察官による面接が何度か行われる。これに合格すれば、今度は委員会の担当委員による面接だ。そのうえで、担当委員3名の非公開の評議によって、仮釈放の許否が決められる。
 しかし、委員長や委員の半数以上が各地の保護観察所で所長や次長を経験した保護行政のOBだ。裁判官や弁護士、学者や医師、社会福祉の専門家、心理カウンセラー、一般市民といった幅広い層から多様な人材を集めているわけではない。
 仮釈放という重要な判断を行う第三者機関としては中立性に欠け、事件に関する供述調書や証拠物といった裁判記録の検討も十分とは言い難いと指摘されている。
 服役した刑期の長さや所内での生活態度、身柄引受人の状況、申告票の記載内容などを踏まえ、機械的・画一的に許否が決せられるような面があることも否定しがたい。
 現に有期刑の場合、仮釈放の申請を経て許可となる率は全体で9割強にも上っているし、殺人などの重大犯罪に絞っても8割強が許可されている。
 この点、そうした申請を待たず、委員会独自の判断で審査を開始することも可能だが、現実にはほとんど行われていないし、受刑者自ら申請を行うこともできない。ここからも、刑務所の委員会に対する申請が極めて重要なものだと分かる。

無期刑は特別扱い
 問題は、実際にどの程度の期間服役すれば仮釈放が認められるのか、すなわち何年くらいで社会に戻ってくるのかという点だろう。
 刑法は、その受刑者に「改悛の状」があることに加え、有期刑だと刑期の1/3、無期刑だと10年の経過を要求しているが、現実にはその程度だと仮釈放などあり得ない。
 ケースバイケースだが、有期刑の場合、服役が初めての者でおおむね刑期の3/4程度、再入者で4/5程度を経過し、所内での生活態度や身柄引受人などに問題がなければ、ようやく仮釈放を許可するか否かのレールに乗るというのが相場だ。
 一方、無期刑の場合、15年から20年程度の服役で仮釈放が認められるといった誤解も蔓延しているが、あくまで2004年ころまでの話だ。2005年の刑法改正で有期刑の上限が20年から30年に引き上げられた影響や、昨今の厳罰化傾向もあって、この十数年は30年超が当たり前となっている。
 しかも、仮釈放の審査にあたっては、1人ではなく複数の地方更生保護委員によって面接を行うほか、被害者や遺族に対する聴き取り調査、検察官に対する意見照会なども念入りに行っている。
 そのため、無期刑による受刑者は例年末で1800人程度いるが、仮釈放が許可される者は例年10人程度、この10年間で89人、許可率は2割程度にとどまり、平均在所期間も約31~35年と、有期刑に比べてかなり狹い門になっているのが現実だ。
 10年間で89人といっても、いったん仮釈放が許可されたものの取り消され、再び仮釈放が許可されたものが22人いるから、初めて仮釈放が許可されたものだけに絞ると実質的には67人だ。
 もし許可されても、一生涯にわたって保護観察下に置かれる。再犯に及んだり、きちんと保護観察所に出頭しないなど、何らかの遵守事項違反があれば仮釈放が取り消され、再び刑務所で服役することとなる。
 しかも、あくまで仮釈放まで生きていればという話であり、現実にはそれに至らないまま獄中死する受刑者が多い。2018年にも24人、この10年間で210人が獄中死しており、例年、仮釈放者の数を上回っている。
 現時点ですでに服役期間が50年超のものが11人、40年以上50年未満のものも40人おり、高齢化も顕著だ。
 ネット上などでは終身刑と違って無期懲役は出所してくるのが通例だといった言説も流布されているが、明らかな誤りだ。統計調査などを行っている法務省の周知不足もあり、仮釈放の実情が知られていないからだろう。

「マル特無期」の運用も
 もっとも、たとえ30年超の服役を経たからといって、また、わずかの数だったとしても、社会に出てくることができるのであれば「無期」懲役とは言えず、仮釈放のない文字通りの終身刑を導入すべきだといった意見も根強い。死刑廃止の代替措置としても提唱されている。
 そこで、検察庁では、死刑求刑に対して無期懲役となった事案や、反省の情が乏しく、再犯のおそれが極めて高く、遺族の処罰感情が特に厳しいような事案の場合には、刑務所や地方更生保護委員会に対して仮釈放の審理を慎重に行うように求めるとともに、逆に刑務所や委員会から意見を求められた際には断固反対し、事実上の終身刑となるような運用を図っている。
 特別の「特」に「○」を付けた印を書類に押すので「マル特無期」などと呼ばれる。現に検察が仮釈放に反対したケースでは9割が不許可となっているし、許可されたケースも反対しなかったケースに比べて服役期間が長くなっている。
 もし今回の事件が最終的に無期懲役で確定したとしても、検察はこの取扱いをするはずだ。少なくとも30年超は服役するし、再犯のおそれが払拭されない限り、獄中死するまで刑務所から出てこられないのではないか。
 もちろん、それでも甘すぎであり、違和感を覚える人も多いだろう。パーソナリティー障害があるとしても、一生刑務所に入りたいという身勝手な動機から公共交通機関内で計画的かつ無差別に人を死傷させる重大な結果を引き起こしたわけだし、被害者やその家族らからすると相手が誰であろうと関係ないからだ。
 しかも、男は「3人殺すと死刑になるので、2人までにしようと思った。1人しか殺せなかったら、あと何人かに重傷を負わせれば無期懲役になると思った」とまで述べており、実に計算高く犯行に及んだことが分かる。
 判決の言渡し後には立ち上がり、「控訴はしません。万歳三唱します」と叫んだうえで、実際に万歳を繰り返したという。
 そもそも無期懲役ではなく死刑にすべきで、検察は求刑で死刑を選択すべきだったと思うのも当然であり、素朴な正義感のあらわれとして理解できる。無期懲役の求刑に死刑の判決など考えられないからだ。
 とはいえ、国民の処罰感情を裁判に反映させようという裁判員制度の導入で厳罰化に拍車がかかる一方で、最高裁や高裁は死刑を避けようとする傾向にある。今後、ますます「マル特無期」のような運用がクローズアップされることとなるだろう。(了)

前田恒彦 元特捜部主任検事
 1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

 ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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新幹線殺傷事件 小島一朗被告 無期懲役判決に万歳三唱 笑顔で退廷 2019/12/18
*  <少年と罪>第9部 生と死の境界で(中)贖罪 「名古屋アベック殺人」(中日新聞2018/3/5) 


〈来栖の独白 2019.12.21 Sat〉
>検察は求刑で死刑を選択すべきだった
 私も、そのように思った。男は死刑を恐れていた。被害死者は1名なので、死刑は相当しない。だが、死刑を求刑することで、ドキッとさせてやりたかった。男の「刑務所に行きたかった」ために殺害された被害者が気の毒でならない。
 仮釈放については、複雑な思い出が私にある。長期受刑者を収容する刑務所在監のK受刑者のこと。疑問が私の裡に芽生え、交流を断ったが、上記事を読み、やはり私の疑問は外れてはいなかったかもしれない。


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