裁判員制度:初の憲法判断 合憲理由の要旨 裁判員制度のウソ、ムリ、拙速

2010-04-22 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

裁判員制度:東京高裁「合憲」 初の憲法判断
 裁判員制度の違憲性が争われた刑事裁判の控訴審判決で、東京高裁(小西秀宣裁判長)は22日、「憲法は裁判官以外の者を下級裁判所の構成員とすることを禁じておらず、国民参加を許容している」と合憲判断した。そのうえで、殺人罪に問われた中国籍の整体師、付佳男(ふかなん)被告(26)を懲役18年とした裁判員裁判の1審・宇都宮地裁判決(09年12月)を支持し、被告側の控訴を棄却した。裁判所が裁判員制度の憲法判断を示すのは初めて。
 弁護側は裁判員制度について、憲法32条の「裁判所で裁判を受ける権利」や37条の「公平な裁判所の公開裁判を受ける権利」を侵害して違憲と主張し、1審判決破棄を求めた。高裁は「裁判員の資格要件があり、法令解釈は裁判官が行い、事実認定などは裁判官と裁判員が対等な権限で評議する。憲法の要請に沿い被告の権利を侵害しない」と退けた。
 さらに「制度は国民の司法への理解と信頼向上という重要な意義を持つ」として、▽やむを得ない場合に辞退を認める▽争点や証拠を整理し集中審理する▽旅費や日当を支給する--などの措置が講じられ、国民の負担は必要最小限度と判断。守秘義務についても「適正な裁判に必要不可欠」と述べた。
 裁判員制度に反対する学者は「一般人の裁判員が加わった裁判所は憲法の『公平な裁判所』とは言えない」との見解を示している。
 高裁判決によると、付被告は09年3月9日、千葉県御宿町の知人の中国人男性(当時30歳)方で男性の胸を包丁で刺し殺害、遺体を栃木県内に遺棄した。1審の弁護人は制度の違憲性を主張していなかった。【伊藤直孝】毎日新聞2010年4月22日11時48分
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裁判員制度合憲理由の要旨 東京高裁
 殺人罪などに問われた中国籍の男の控訴審判決で22日、東京高裁が裁判員制度を合憲と示した理由の要旨は以下の通り。
 弁護人は、憲法は司法権の担い手として裁判官のみを予想して設計され、裁判員制度は憲法の予想しない制度であり、憲法が定めた被告の裁判を受ける権利を侵害すると主張する。
 憲法は司法権について、裁判官を下級裁判所の基本的な構成員として想定していることは明らかだが、下級裁判所の構成は直接定めておらず、裁判官以外の者を下級裁判所の構成員とすることを禁じてはいない。
 憲法と同時に制定された裁判所法が刑事について陪審の制度を設けることを妨げないと規定していることや、憲法が「裁判所における裁判」を受ける権利を保障していることからも、憲法制定時の立法者の意図も、国民の参加した裁判を許容するか、少なくとも排除するものではなかったことは明らかだ。
 裁判員法は、公平な裁判ができる裁判員を確保するために、資格要件や職権の独立の規定などがある。適正な手続きの下で証拠に基づく事実認定が行われ、法が適正に解釈、適用されることを制度的に保障するために、法令の解釈や訴訟手続きは裁判官が判断し、裁判員が関与する事項は、裁判官と裁判員が対等な権限で十分な評議を行い、判断は裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の過半数で決められることとされている。このような裁判員制度は憲法の要請に沿うもので、被告の権利を侵害しない。
 弁護人は、参加意思の有無にかかわらず国民に裁判への参加を強制し、守秘義務や財産上の不利益を課す裁判員制度は、憲法が保障する国民の基本的人権を侵害すると主張する。しかし、裁判員になることを義務付けているのは、裁判員制度が司法への国民の理解増進と信頼の向上に資するという重要な意義があり、そのためには広く国民の司法参加を求めるとともに負担の公平を図る必要があるためで、十分合理性のある要請に基づくものだ。やむを得ない事由がある場合には辞退を認めるなど負担軽減の措置がある。義務付けは裁判員制度を円滑に実施するための必要最小限のものと評価でき、憲法に抵触するとはいえない。
 裁判員らに守秘義務を課すことは、適正な刑事裁判に必要不可欠であり、表現の自由を保障した憲法に抵触しない。
 裁判員制度の目的が公共の福祉に合致することは明らかで、財産上の不利益が生じる可能性があるからといって、制度を設置した立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるとはいえない。
 弁護人は、裁判員制度の証拠開示手続きに不公平があり、憲法が定めた適正手続きの保障を侵害すると主張するが、充実した審理のための公判前整理手続きで当事者に主張を明示させ、証拠を開示させるとしており、目的や手続きは合理的かつ妥当で、憲法には違反しない。
河北新報2010年04月22日木曜日
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裁判員制度のウソ、ムリ、拙速~大久保太郎(元東京高裁部統括判事)   
「違
憲のデパート」
 新潟大学教授西野喜一氏の論文「日本国憲法と裁判員制度」(「判例時報」平成17年1月11日号、同月21日号)は、裁判員法がわが憲法に適合するかどうかを詳しく研究した労作であるが、西野氏は裁判員法について違憲またはその疑いのある点として12点を挙げ、「裁判員制度は『違憲のデパート』になりかねないという感さえある」と言っている。国民には一向に知らされていないが、裁判員法には違憲と考えられる点がそれほど多々あるのだ。私の考える主要なものを挙げると、つぎの通りだ。
憲法の「司法」の規定に違反
 裁判員は裁判官と同等の裁判の評決権(「一票」の権利)を持つから、実質は裁判官である。ところが憲法第6章「司法」中の80条1項は、「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる」と定めている。裁判員はこれに真っ向から抵触する。
 裁判員制度は、裁判員が裁判官とともに裁判をするもので、参審制に属するが、元最高裁判事伊藤正己氏は、「素人を裁判官として参与させる参審制は、憲法にそれについての規定がなく、しかも裁判官の任期や身分保障について専門の裁判官のみを予想しているところから違憲の疑いが強い」と述べ(『憲法入門』第4版)、また元最高裁判事香川保一氏は「裁判官は、最高裁判所の提出する名簿によって政府が任命すると憲法上決まっている。抽選的に選ばれた裁判員が裁判の審議、判決にも裁判官と同じ資格で関与することは憲法違反ではないかと思」うと述べている(「リベラルタイム」平成16年6月号の対談記事「裁判員制度は憲法違反だ!」)。
 西野喜一氏の前記論文の言葉を借りれば、「裁判官でない者が刑事被告人の運命に関与できるとするためには相応の根拠、規定がなければならない。特に、被告人としては、何故裁判官でない者が、憲法上の規定に拠らずに、自分の運命を左右できるのかと問うであろう。他方検察官も公益の代表者として当然そう言えるのである。また、裁判官でない者が、裁判官と対等に判断に関与できるとするためには、なぜその者の判断が憲法に根拠を持つ裁判官の判断と同等の意義を持てるのか、持っても差し支えないのか、という疑問が解明されなければならないが、これらは解明も解答もされていない」のだ。
 つまり「なぜ裁判員が裁判に参加することが憲法上許されるのか」という根本問題からして、何の説明もないことを国民は知らなければならない。
 人間の生命は地球よりも重いといわれる。判決確定前の被告人の生命も同様だろう。憲法に根拠のない裁判員が、裁判官とともにであるにせよ、被告人に死刑その他の刑を科することなど、どうして許されるのであろうか。現実の裁判は模擬裁判ではないのだ。
 なお最高裁自身、司法制度改革審議会で、いったんは、参加者に評決権を与えることは憲法上問題があるとし、「評決権なき参審制」を提案したことがあったのだ(しかし最高裁はその後不可解なことに、審議会の裁判員制度の提案に同調してしまった。この点は後述する)。
「公平な裁判所」の保障違反
 憲法37条1項は被告人に「公平な裁判所」の裁判を保障しているが、裁判員の参加した裁判所はこの保障に違反する。憲法76条3項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律のみに拘束される」と規定し、実際その通り実践されている。
 しかし裁判員はこれと異なる。裁判員法8条には「裁判員は、独立してその職権を行う」と書かれているが、これは法の建て前であり、裁判員の中にはいろいろな人が混じるのは避けられず、実際には裁判上の適法な判断材料以外の情報により、あるいは時には他から精神的圧迫を受けて、判断を左右されるおそれのあることを免れない。
 また、裁判員は氏名も住所も公表されず、判決書に署名もしない。つまり言い放しの立場であり、その判断に責任を問われることもない。被告人の立場からみれば右から来て左へ去るその場限りの人たちによって自己の運命が決められることになってしまう。
 このような裁判員の参加した裁判所がどうして憲法の保障する「公平な裁判所」といい得るだろうか。
裁判官の独立の侵害
 評決の方法を定めた裁判員法67条によれば、裁判官3人全員が有罪だと確信しても、6人の裁判員のうち5人が無罪だといえば、結論は無罪となり、裁判官は無罪判決を書かねばならない。前記のように憲法76条3項は裁判官の独立を保障しているが、「このように裁判官全員が有罪を確信していながら無罪判決を出さざるを得ない状況を裁判官に負わせるのは、憲法の右条項に違反する恐れが極めて大きい」(西野喜一氏前出論文)といわなければならない。

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  【5】捜査の在り方 迫る可視化の潮流
裁判員制度のウソ、ムリ、拙速~大久保太郎(元東京高裁部統括判事)
  現場の混乱で司法の質は暴落。こんな悪法は廃止しかない
   「違憲のデパート」
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  “国民に司法を体験してもらうのに、いきなり死刑事件を担当させる、そんなバカな話、ありますか、人の命に関わる
   ことを。憲法に規定された『裁判官の独立』が侵されるという問題もある。”
裁判員制度導入で最高裁は報道規制を企んでいる~井上馨/弁護士・元判事  
  条文化は見送られたが・・・・
  最高裁参事官による報道規制要請
  報道規制の生み出す恐怖
  例えば秋葉原殺戮事件ならば
  確かに報道は判決に影響するが
  最高裁参事官も思っている「裁判は素人ではムリ」
  基本的人権すら危うくする
  報道は規制に立ち向かえ!
▼実は、新しく始まるのは、裁判員・被害者参加裁判なのです=安田好弘弁護士


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