「小さな喜びを感じて」やまゆり園事件被害者家族と、一家の日常を追い掛けるディレクターの願い 2020/9/7

2020-09-08 | 相模原事件 優生思想

「小さな喜びを感じて」やまゆり園事件被害者家族と、一家の日常を追い掛けるディレクターの願い
 2020/9/7(月) 20:30配信
 TBSでは毎月第1、第3日曜深夜に放送されている取材報道ドキュメンタリー「JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス」。9月6日は、TBSテレビ制作の「小さな喜びを感じて ~津久井やまゆり園事件・被害者家族の4年~」を放送した。
 2016年7月に起きた津久井やまゆり園事件を追ったドキュメンタリー。事件は神奈川県が開設した重度の知的障害者を中心に支援する大規模入所施設で発生。元職員の植松聖死刑囚が施設に侵入し、入所者19人を殺害、職員を含む26人に重軽傷を負わせたもの。
 番組が追い掛ける尾野剛志(たかし)さん・チキ子さん夫妻の息子・一矢(かずや)さんも首や腹を刺され、一時は生死の境をさまよった。
 事件の直後から名前と顔を出して取材を受け続けている剛志さん・チキ子さん。植松死刑囚が口にした障害者の存在を否定する差別的な発言に対して、その言動は、絶対に間違っていると、法廷で植松死刑囚に向き合い、言葉をぶつけた。「私たち家族は、悩みながらも小さな喜びを感じて生きているのです」と。
 この夏、一矢さんは施設を出て、アパートでの生活を始めようとしている。そんな一矢さんに信頼できる介護士たちが寄り添う。
 多くの人に支えられ、一矢さんが幸せに暮らす姿を知ってほしい。それが植松死刑囚の主張に対する自分たち家族の答えだと剛志さんは話していた。
 そんな尾野さん一家の4年間を追った映像。佐古忠彦プロデューサーは、「大きな事件に巻き込まれたけれど、前を向いて歩む家族の物語です。被害者のこうした状況を知らない方も多いでしょう。その現実を見ていただくことで、社会は少しでも前に進む。そんな作品だと思います。一矢さんと尾野さん一家への応援歌のような気持ちで見ていただけると、違う角度から事件を捉えることができるのではないでしょうか」と語っている。
 TBSでの放送は終了したが、今後、関西のMBSテレビ(9月20日[日]朝5:40)をはじめ、広島・RCC中国放送(9月13日[日]深夜3:00、宮城・TBC東北放送(9月15日[火]深夜1:55)など、TBS系各局で放送される。今回、取材を担当したTBSテレビ・福田浩子ディレクターに話を聞いた。

■ 「被害者家族の暮らしが大きく変わっていく前向きな姿を伝えます」(福田浩子D)
――まず、取材のきっかけ、はじまりを教えてください。
 事件から4年を追ったドキュメンタリーですが、私自身が取材を担当したのはこの2年間になります。事件直後から先輩記者が被害者家族や遺族を取材しており、その担当者が異動になるタイミングで、取材を引き継いだ形です。
 この事件は、遺族や被害者のご家族で取材を受けていただける方があまりいない状況でした。ですので、前任者が尾野さん家族と築いた信頼関係を大切にしながら、尾野さん家族が発するメッセ―ジを丁寧に伝えることを続けていかなければならない、という思いを抱きました。

――尾野さんのご家族はどのような思いで取材を受けられてきたのでしょうか。
 剛志さんは、当初、県があまり情報を公開しなかったことをおかしいと考えていて、事実は事実としてちゃんと周りに分かってほしいし、知ってもらわなきゃいけないんだという話されてました。
 事件の直後から名前と顔を出して取材に応えていて、その姿勢はずっと変わりません。やまゆり園も県も、剛志さんの行動によって徐々に取材に応じてくれるようになってきたところがあります。
 剛志さんは「障害者なんていなくなればいい」という植松死刑囚の主張が間違っているということを伝えるためにも、また障害者を取り巻く環境が少しでも良くなってほしいという思いで発信を続けようと取材に応えてくださっています。

――植松死刑囚に対する恨みのような言葉を聞かれたことはありますか?
 「植松を目の前にしたら手をかけてしまうかもしれない」と話していたこともありますが、時間がたつに連れてそういう言葉を聞くことは少なくなってきました。
 剛志さんは、植松死刑囚のことを知っていたからこそ、事件が起こったことをすごく不思議に思っていました。最初ニュースで犯人の写真を見た時、植松死刑囚が整形してこともあって、これはあの子じゃないと思ったそうです。
 犯人だと分かってからは、好青年に見えたのに、なぜ彼は事件を起こしたのか、理由を知りたいと強く思われていた。けれど、裁判では明らかにならなかった。そのことが、剛志さんの中ではいちばん大きかったと思います。この事件を風化させないように自分が発信し続けていくという覚悟を持っておられます。

――このタイミングで放送を決められた意図をお聞かせください。
 事件から3年半がたち、裁判が今年の1月から開かれ、3月に死刑が確定しました。裁判が終わったことが一つの区切りということもありますが、今回の番組の大きなテーマである一矢さんが施設に戻るのではなくアパート暮らしを始めたというところ。それがうまく運びそうだということもあって、この時期の放送が決まりました。番組では、一矢さんの暮らしが大きく変わっていく前向きな状況を伝えています。

――尾野さんご夫婦を取材する中で、心に残っていることを聞かせてください。
 剛志さんと一矢さんは実は血が繋がっていなくて、奥さんのチキ子さんの死別した旦那さんとのお子さんです。それを私が知ったのは取材を始めて一年ぐらいたってからでした。その時にすごくびっくりしたことを覚えています。剛志さん・チキ子さんは心から一矢さんのことを愛しているんだなと感じる家族のやり取りばかりを見ていたので、その事実に驚きました。
 これはありふれた風景ですが、週に一回、剛志さん・チキ子さんはお弁当を持って施設にいる一矢さんに会いに行っていました。チキ子さんが握ったおにぎりや、作ったポテトサラダを一矢さんが食べているのを見ている幸せそうな表情とか、剛志さんが一矢さんが食べているウインナーを、「お父さんにもちょうだい」と言ったら、あーんと口に持って行く様子とか、ひとつひとつの小さな出来事における、一矢さんを見ている両親の姿から、これが幸せの形なんだなということが伝わってきました。

――息子さんの一矢さんはどんな方ですか?
 一矢さんは、すごく人懐っこい部分があります。本編に登場しますが、手遊び歌を順番に記者にもやるように求めるシーンがあって、初めて会った記者でもカメラマンでも分け隔てなく一緒に笑って歌って遊ぼうよ、と誘います。
 弊社の音声担当のことをすごく気に入っていて。というのも、一矢さんは坊主頭の人のことを「和尚さん」と呼んでいて、本人としては、からかう意図もあるようなのですが、その音声担当がいるといつも「和尚ちゃん、和尚ちゃん」と笑顔で呼びかけます。手遊び歌も和尚ちゃんにやってもらっている時がいちばん満面の笑みを見せていて、表情から楽しいんだ、喜んでいるんだなというのが分かります。
 お母さんのカレーを3回もお代わりしたこととか、番組に全部は入りきらなかったですけど、一矢さん自身の小さな喜びもたくさん捉えています。

――何気ない映像、日常のありのままの中に、小さな喜びが存在している。そのことを伝える番組だということでしょうか。
 まさにそうだと思います。剛志さんは、事件の前と後で、一矢さんにいい意味で変化があったとおっしゃっています。昔は、「行く?」「行く」、「行かない?」「行かない」というようなオウム返しの会話だったけれど、4年間の中で自分の意思をはっきりと出すようになったそうです。嫌なものは嫌と言うし、オウム返しではなく、「したい」と主張するようになった。
 事件後、意識を取り戻して、最初に発したのは「お父さん」という言葉だったそうですが、事件の前は「お父さん」と呼ばせようとすれば小さい声で呼んでくれたのが、今は、自分からはっきりとした言葉で「お父さん」と呼ぶようになった。そういう成長が小さな喜びだと剛志さんはおっしゃいます。
 そんな剛志さんの思いを、一矢さんが幸せに暮らしている姿から伝えられたらいいなと思います。重度の知的障害がある方でもアパートで一人暮らしているという実情を、私自身、取材するまで知りませんでした。そういう人がいるということを知ってもらうだけでもいい。また、事件に関心がなかった人に、事件のことを知ってもらえるだけでもいい。ちょっとでもいいので気付き、新しい発見、そしてプラスの感情を抱いてもらえるといいなと思います。

 最終更新:9/7(月) 20:30 ザテレビジョン

 ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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【平成の事件】相模原障害者施設殺傷事件 「屈しない」実名で取材応じる被害者家族、問い直す我が子の幸せ

   
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