【秋葉原17人殺傷 第7回公判】
産経ニュース2010.4.27 15:11
裁判長「では証拠調べを続けます」
《最初に検察側が証拠物を提出した。黒のリュックサックのようだ。》
裁判長「このリュックはこの後の尋問で使いますか」
検察官「はい」
裁判長「では、尋問を始めます」
《傍聴席から若い男性が立ち上がり、そのまま法廷の証言台の前に立った。青いジャケットにジーパン姿。》
裁判長「それでは、検察官、どうぞ」
検察官「あなたは(平成20年)6月8日に右前腕部切創の被害を受けましたね?」
証人「はい」
検察官「当日の所持品や服装を確認します」
《証人は事件当日、黒いTシャツにジーンズ姿で、背中には黒いリュックサックを背負っていたという。公判冒頭、検察官が出してきたのは、この証人のリュックサックだった》
《大型モニターに、当日実際着ていた服と、黒のリュックサックの写真が映し出される》
検察官「この服装で間違いありませんね?」
証人「はい」
検察官「この服装だと、前腕部はむき出しでしたね?」
証人「はい」
検察官「腕の傷は残っていますか」
証人「はい」
検察官「差し支えなければ、見せて頂けますか」
検察官「では、ちょっと脱いでください」
検察官「長さは約6センチ、幅は最大で1センチぐらいです。赤く変色しています」
検察官「今の傷は、検察庁で事情を聴かれた際に、デジタルカメラで撮影していますね」
証人「はい」
検察官「投影してもいいですか」
《村山裁判長から許可を得た検察官は、大型モニターに当時の傷跡を映し出す》
検察官「あなたの傷跡に間違いないですね?」
証人「はい」
検察官「縫合の跡がありますが、縫ってあるんですね?」
証人「はい」
《事件当日、ゲームのイベントに参加するため、秋葉原にやってきた証人。現場の交差点の手前で、トラックが交差点に突っ込んでくるところを目撃したという》
検察官「前方の信号は何色でしたか」
証人「青です」
検察官「トラックは赤信号を無視して入ってきたのですね?」
証人「はい」
検察官「そのとき、何か見たり聞いたりしたことはありましたか」
証人「人をはねたような音が聞こえました」
検察官「どんな音でしたか」
証人「2回以上の鈍い音を聞きましたが、それ以上は覚えていません」
検察官「交差点内で何が起こっているか分かりましたか」
証人「分かりませんでした」
《それでも異変を感じ、現場から逃げようとした証人。右肩にかけていたリュックサックをしっかり背負おうと、右腕を上げ、肩の奥まで押し込んだという。そして、交差点を背にしようと体の回転を始めたとき、右上腕部に異変を感じたという》
証人「右腕になんかぶつかった感じがあったので、確認するために(体を回転させるのを)止めました」
検察官「その衝撃で痛みなどは感じましたか」
証人「はい、痛かったです」
証人「ぶつかったときに、何かで切られたと思いました。どうして(傷が)できたのか分かりませんでした」
検察官「誰がやったのか分かりましたか」
証人「すぐに振り返って探しましたが、だれもいませんでした」
検察官「犯人の姿を見ていますか」
証人「確実には姿を見ていません」
検察官「その後、どうしましたか」
証人「警察と救急車を呼んでもらうため、近くの店に行きました」
検察官「対応してくれた店員はどのような様子でしたか」
証人「『ソフマップの向こうに交番があるので行ってみればいいのでは』ということを言われました」
検察官「その後はどうしましたか」
証人「店員の言うとおり、交番に向かいましたが、結果的にはたどり着けませんでした」
証人「さまざまな人が傷付いて倒れているのを見て、呆然(ぼうぜん)として立ちつくしました。まるで地獄のようでした」
検察官「その時、痛みはありましたか」
証人「かなりひどかったです」
検察官「どの位の時間、現場にいましたか」
証人「1時間くらいです。その後、救急車で病院に行きました」
検察官「医者からはどのように言われましたか」
証人「もう少し傷が深ければ、神経や血管を傷付けて大変な状況になっていたと言われました」
検察官「そのとき、どう思いましたか」
証人「運良く助かったのだと思いました」
検察官「仕事には、影響がありましたか」
証人「自分の任されている仕事ができませんでした。自分の仕事はフォークリフトの運転なので」
検察官「どの程度通院しましたか」
証人「1カ月で10回くらいです」
検察官「傷跡はどうなりましたか」
証人「最初よりは良くなっているのでしょうが、(見た目は)あまり変わっていないです」
検察官「傷跡は消えないということですか」
証人「はい」
検察官「今も、痛みやしびれを感じるときはありますか」
証人「右腕をよく使ったときは、しびれがあります」
検察官「精神的影響について聞こうと思います。事件後、秋葉原に行ったことはありますか」
証人「秋葉原には行きたくありません。現場検証で1度行ったきりです。いまでも近付きたくはありません」
検察官「そのほかに何かありますか」
証人「外出したくなくなりました。何かに襲われるのではと恐怖を感じるからです」
検察官「それではなぜ法廷で証言しようと思いましたか」
証人「あまり思いだしたくありませんでしたが、きちんと事件を解決してほしいと思ったからです」
検察官「被告からの手紙は読みましたか」
証人「被害者のことを考えていない手紙だと思いました。自分のしたことは書いてあるのに、被害者が今、どんな思いをしているのか何も考えていないと感じました。怒りを感じました」
検察官「どんな処罰が必要だと思いますか」
証人「被告がきちんと反省の態度を示すことが必要だと思います」
《弁護人の質問》
弁護人「あなたはトラックが人とぶつかる瞬間は見ていないということですね?」
証人「はい」
弁護人「あなたの供述調書によると、あなたの周囲には30~40人いたということですが、それで間違いないですか」
証人「はい」
弁護人「周囲から悲鳴が聞こえたとき、犯人がナイフを持っていることは知っていましたか」
証人「知りません」
弁護人「(被害時の)リュックの持ち方を確認させてください」
弁護人「(刺されたときに)体全体に衝撃を感じたことはありますか。体当たりをされたような」
証人「ないです」
《続いて村山浩昭裁判長が「次の証人については、ビデオリンクによる証言のため、準備にしばらく時間がかかります」と告げ、約25分間の休廷に入った。》
《休廷の間、法廷には「ビデオリンク方式」用のビデオカメラが備え付けられた。》
村山浩昭裁判長「被告と傍聴人に映像をお見せすることできないのでご了承ください」
《村山裁判長がそう告げた後、プーという音とともに別室の証人と中継がつながった。「声が聞こえていますか」と村山裁判長が証人に問う》
証人「はい、聞こえています」
《はっきりした男性の声。本日最後の証人は、事件の目撃者》
検察官「平成20年6月8日の殺人事件の直前、どこにいましたか」
証人「パソコン用品を見るために(大型パソコン用品店の)ソフマップ本館の1階にエレベーターで降りているところでした」
検察官「何か変わったことは?」
証人「ゴーッという金属音が聞こえました。1階は非常に混乱していました」
検察官「どのように混乱していましたか」
証人「『交通事故だ』とか『人がひかれた』とかいう声が飛び交っており、様子を見たいと入り口に向かいました」
検察官「外に出て何を見ましたか」
証人「横断歩道で人がぐにゃりと倒れているのを見ました」
検察官「ぐにゃりとはどんな姿勢ですか」
証人「ええ、あのー、言葉では表現できないようなおかしい倒れ方でした」
検察官「それを見てどんな気持ちでしたか」
証人「非常に混乱しました」
検察官「その後、変わったものを見ましたか」
証人「東から西に走ってくる男を見ました」
検察官「男の特徴は?」
証人「ベージュのような上下の背広姿で、身長は私よりも低く、黒っぽい鋭利な刃物のようなものを持っていました」
《その後、検察官はビデオを通じて証人に加藤被告が当時着ていた服の写真を見せた後、「ベージュの服を着た男は何者ですか」と質問した》
証人「犯人です」
検察官「手の中のものはどんなものでしたか」
証人「柄の部分が黒く、刃がとても鋭利でした。それを右手で持っていました」
検察官「それは何だと思いましたか」
証人「サバイバルナイフと思いました」
検察官「これまでに見たことは?」
証人「はい、映画やドラマや店で展示されているものなどを見たことがありました」
検察官「男の走り方はどうでした?」
証人「かなり速かったと思います」
《証人はいったん男を見失ったが、交差点にいる男の姿を目にしたという》
検察官「犯人は何をしていました?」
証人「北から南に走っていて、その先に若い男の人がいました」
検察官「男の人の特徴は?」
証人「下はジーンズで、上は黒か紺など濃い色のTシャツ。年は20歳前後でリュックサックを肩にかけていました」
検察官「犯人は何かしましたか」
証人「はい、若い男の人をナイフで切りつけました」
検察官「どんな動作をしましたか」
証人「走りながら、右腕を肩より高い高さに挙げました」
検察官「それぞれあなたに対してどちらを向いていましたか」
証人「犯人は背中の左側を、若い男の人は体の表側を見せていました」
検察官「そのとき、若い男の人はどんな動作を?」
証人「右腕を肩より上にあげて自分の体を守るようにしました」
《検察官がビデオを通じて若い男の人の動作を再現するよう証人に求める。続いて犯人の動作も再現してもらうが、傍聴人から映像は見えない》
証人「犯人は右手を左下に振り下ろしました」
検察官「走りながらすれ違いざまということですか」
証人「はい」
検察官「どうして切りつけたと分かったのか」
証人「その場面の後、若い男の人の右腕に赤い筋ができました」
検察官「赤い筋は何だと思いましたか」
証人「血だと思いました。犯人の右側から右手とナイフが突き出ていました」
検察官「事件は一瞬の出来事でしたか」
証人「はい」
検察官「事件の後で、報道は目にしましたか」
証人「はい」
検察官「どう思いましたか」
証人「えー、ある日突然、特定の場所にいたために善良な方々が殺されてしまう理不尽さを感じました。このような光景を目の当たりにした後、日々の生活に身が入らず、何か抜け殻のように過ごしていました。友人だとかの人間関係も手ですくった砂のようにこぼれ落ちていきました」
証人「秋葉原という場所は私にとって趣味が詰まった『宝箱』のような街。自分が一番安らぐ大切な場所を殺人の舞台にされ、深い怒りを感じます。多くの人が人生を奪われ、生活を狂わされました。多くの人に愛された秋葉原の街を、それだけでなく日本中を恐怖に陥れた犯人は、極刑に値します」
弁護人「(事件当時、大型電器店の)ソフマップのそばにいたということでいいですか」
証人「そうです」
弁護人「車道側というか交差点内にいっていたことはないですか」
証人「えー、もう一度お願いします」
弁護人「車道側に立っていたことはないですか」
証人「はい」
弁護人「犯人を見たときのことをお聞きしますが、ナイフを持って手をどのようにして走っていましたか」
証人「私が見たのは(ナイフを)下げていました」
弁護人「証言した人の中には手を肩まであげて、広げていたという人もいましたが、そこまでは見ていないですか」
証人「はい」
弁護人「犯人は何か声を発していましたか」
証人「周りの声がだいぶあったので、犯人の声と分かるものは聞こえていません」
弁護人「交差点内で倒れていたのは、Aさんのほかに見ませんでしたか」
証人「Aさんのほかには見ていません」
弁護人「あなたが事件の後、10日くらいして警察官に事情聴取を受けて話した内容についてですが、あなたは交差点内に出る勇気がなくて、人垣の間から交差点を見ていたという話がありますが、その通りですか」
証人「人垣の前から見ていました」
弁護人「人垣から交差点の方と?」
証人「はい」
弁護人「人垣が邪魔で被告が見えなかったということですか」
証人「人垣もありますが、自分自身、状況が飲み込めず、パニックになっていたこともあるので、記憶にないのかもしれません」
《弁護人が「ここで写真を示してもらえますか。甲4号証を示します」と検察官に促した。》
弁護人「この写真が見えますか」
証人「はい」
弁護人「ソフマップの方からは、こんな感じですか」
証人「はい。そうです」
《ここで弁護人は、「聞きにくいことをお聞きして申し訳ないですが…」と前置きして、証人の視力について質問する》
弁護人「あなたが検察官に話したことで、幼いころ弱視だったということですが、その通りですか」
証人「幼いころはそうでした」
弁護人「遠近感などがほかの人より劣っているということですが、その通りですか」
証人「はい」
弁護人「遠く離れると、判別しにくいということですが、その通りですか」
証人「はい」
弁護人「あなたが立っていた位置から対角線の歩道で若い男の人が切られた場所までだいたい何メートルだったですか」
証人「えー数字では分かりませんが、そこまで離れていなかったと思います」
検察官「さきほど弁護人から弱視の影響で遠近感が分かりにくいという話がありましたが、それは事実ですか」
証人「事実です」
検察官「視力まで悪いのですか」
証人「いえ、普通の人並みにあります」
検察官「平成20年6月当時、コンタクトレンズをしていましたか」
証人「はい」
検察官「コンタクトレンズをつけた際の視力はどれくらいありますか」
証人「1・0以上です」
裁判長「証人尋問は終了しました」
《次回公判は、5月21日午前10時から、検察官が申請した4人の証人尋問が行われる予定だ。法廷は、前回までと同様、東京地裁で最も広い104号に戻して行われる》
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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◆ 秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第7回公判2010.4.27〈目撃者〉証人尋問-上-