マスコミが報じない陸山会・虚偽報告書事件の背景とは――
前田恒彦 | 元特捜部主任検事
2013年7月7日 6時56分
Yahooニュース
1 東京拘置所
私は、平成22年1月から2月にかけ、大阪地検特捜部から東京地検特捜部の応援に入った。担当は大久保隆規氏の取調べ。小沢一郎衆議院議員の公設第一秘書で、資金管理団体・陸山会の会計責任者。東京事務所を統括し、業者の陳情窓口も務めていた。
他方、東京地検特捜部に所属していた田代政弘元検事は、同様に東京拘置所に詰め、石川知裕氏の取調べを担当。石川氏は衆議院議員に転身していたが、小沢議員の元秘書であり、陸山会で経理事務を担当していたキーパーソンだった。
田代元検事と仕事をするのは初めてだったが、飾り気のない性格であった上、後輩とはいえ検事任官の期が近かったこともあり、私が拘置所に詰めるようになった初日から、何かと気さくに話すようになった。取調べ室や検事・事務官の控え室がある区画は、拘置所の中でも何段階もの施錠がなされている閉ざされた空間。逮捕勾留された被疑者の取調べを担当する検事・事務官らは身柄班と呼ばれ、朝は時間を合わせて東京拘置所に出勤し、そろって事務棟に入り、夜も同じく時間を合わせてそろって帰る。食事も拘置所内で一緒にとる。長い時間を共に過ごすことで、次第に身柄班としての一体感も生まれていく。
私と田代元検事は、大久保氏や石川氏に小沢議員の関与を供述させるとともに、水谷建設などの業者から多額の裏金を受領したとの事実を認めさせるという極めて難易度の高い任務を課せられていたが、うまく進まず、共に苦労していた。小沢議員の立件を目論む最高検の一部からは、「具体的な供述の中身はいいから、とにかく『小沢の指示で』という6文字を入れた調書を作り、なんとかして秘書に署名させろ」といったメチャクチャな指示まで下りてきていた。特に田代元検事は、検察庁のコンピュータ・ネットワークを使い、供述調書案の文書データをメール添付の形で捜査主任である木村匡良検事に上げていたが、木村検事からは石川氏が言いもしないことを赤字で追加されて返信され、石川氏から署名を得るようにと指示されており、その苦労は傍から見ていても並大抵のものではなかった。
私と田代元検事は、事務官を介して担当被疑者の供述調書のコピーを交付し合うなど、情報交換を密にしていたが、次第に胸を開くうち、供述調書に出てこない担当被疑者のナマの供述状況や、捜査に関する本音、愚痴などを語り合うようになっていった。
そうした中のある日、田代元検事から驚くべき告白を聞くこととなった。
2 告白
その告白は、東京地検特捜部が陸山会事件の強制捜査に着手した事情、特に石川氏を逮捕した背景を聞く中で出てきた話だった。田代元検事は、逮捕前から石川氏ら主要な関係者の取調べを任されるなど、東京地検特捜部の中核検事として重要な役割を果たしており、そうした事情を知る立場にもあった。
告白のポイントは、次のようなものだった。
(1) 田代元検事は、逮捕前に石川氏の取調べを行った際、その供述内容や態度、言動などを記載した捜査報告書を作成した
(2) 作成は、捜査主任である木村検事の指示によるものだった(この告白の際、田代元検事は木村検事のことを「キャップ」と呼んでいた)
(3) 捜査報告書は、逮捕状の取得に際し、裁判所に提出された証拠の一つだった
(4) しかし、その内容は、「逮捕の必要性」を強調すべく、実際には石川氏に「自殺のおそれ」をうかがわせる言動などなかったのに、そうした言動があったかのように記載するなど、事実と異なる虚偽のものだった
取調べ状況や供述概要などを記載した捜査報告書は、供述調書と異なり、供述者に対して内容の確認を求めることはなく、そのサインも必要ない。供述者が全く関知しない中、捜査機関だけで作成可能なものだ。田代元検事のやり方は、この捜査報告書の性格をうまく利用したものだった。
また、「逮捕の必要性」を強調することは、石川氏が衆議院議員という「何かと気を使わなければならない立場」に転身しており、検察内部ですら逮捕に後ろ向きの意見が出ているなど、逮捕状取得が困難な中、これを容易にさせることを狙ったものにほかならなかった。こうした虚偽報告書など、検察の内部決裁を通し、裁判所から逮捕状を得るためだけに使う資料にすぎず、公判で有罪立証のために使うものではないから、それこそ逮捕状を取得した後にシュレッダーにかけて廃棄してしまえば、何の証拠も残らない。
田代元検事は、この告白の際、本心では逮捕に反対であり、嫌なことをやらされたといった言い方をしていた。私は、彼が検察組織の中で無理な仕事を押し付けられ、様々な重圧を感じる中、最終的には組織の論理を優先し、闇に堕ちてしまったのだと分かった。
私は、これに先立つ平成21年7月、大阪地検特捜部で捜査主任を務めていた厚労省虚偽証明書事件において、証拠物の改ざんに手を染めていた。そんな私に彼を弾劾する資格などないことは明らかだった。私には彼が再び同様の行為に出ないことを願うしかなかったが、彼の告白は私の心の中にいつまでも「渦」として残ることとなった。
3 2通目の虚偽報告書
平成22年2月に大久保氏、石川氏らを起訴し、小沢議員を不起訴とした陸山会事件。翌23年1月に至り、今度は田代元検事の存在がマスコミで大きく取り沙汰されるに至った。検察審査会による起訴相当議決を受けて行われた平成22年5月の再捜査で、田代元検事の取調べを受けた石川氏が、その状況を「隠し録音」していたのだ。
他方、田代元検事は、取調べ直後、その際の石川氏の供述内容などを記載した捜査報告書を作成していた。しかし、その内容は、客観的な録音状況に反する虚偽のものだった。そればかりか、真実を記載した証拠の一つとして検察審査会に提出された上、大久保氏や石川氏らの公判でも弁護側に証拠として開示されていた。
確かに、検事も人の子であり、間違いはあるが、それにも自ずと限度がある。東京地検特捜部で政治家や官僚の立件を目指す班は「特捜部の中の特捜部」とも呼ばれる。班員は精鋭中の精鋭ぞろいだ。約3~4か月前の取調べにおけるやり取りと、ほんの数日内の取調べにおけるやり取りとを混同することなど、絶対にない。
特に捜査報告書は、取調べ中に検事がノートなどに手書きで記載する「取調べメモ」と異なり、作成者の官職名を記載した上で署名押印をし、公文書として完成させるものであり、その記載内容には慎重の上にも慎重を期す。被疑者や参考人の供述内容を「一問一答形式」で記載するような場合は、なおさらだ。
確かに捜査報告書の中には、何日分かの取調べにおける被疑者や参考人の供述内容を整理し、一通にまとめるというものもある。それでも、数カ月前の取調べにおけるやり取りと、数日内の取調べにおけるやり取りとを混在させるような大雑把な報告書などあり得ない。もしそうした内容であれば、誤解を招かないように、いつからいつまでの取調べの内容をまとめたものなのか、日時などを明確に記載する。検事にとって常識の話だ。
そればかりか、問題とされている捜査報告書は、その体裁・内容からも虚偽であることが明らかだ。「捜査報告書作成時点の直近に行った取調べの中での供述」という前提で、その内容を一問一答形式を用いて具体的詳細に記載しているからだ。
この虚偽報告書は、小沢議員への報告とその了承を認めた石川氏の供述調書の信用性を格段に高めるものだった。検察が全国から多数の応援検事を投入して捜査を進めたものの、小沢議員を起訴できずに終わった陸山会事件。既に検察審査会が1度目の起訴相当議決を出しており、全く同じ証拠関係でも2度目の起訴相当議決が出され、強制起訴に至る可能性の高い中、田代元検事の虚偽報告書があれば、この判断を後押しする方向に働くことは明らかだった。
ここで思い起こされるのが、田代元検事から告白されていた逮捕前の虚偽報告書の件だ。供述者に内容確認やサインを求めず、捜査機関側の独断で作成可能な捜査報告書の性格を逆手に取るという点で一致していたし、その狙いも同様であり、基本的な構図は全く同じだった。
4 最高検の捜査
最高検は、弁護側から「隠し録音」を入手した早い段階で、再捜査時に田代元検事が作成した捜査報告書の内容が虚偽であることを把握していた。そのまま放置すれば、その文書データが消去されたり、口裏合わせに及んだり、関係者の記憶が徐々に失われていくなど、証拠が散逸するおそれが高い状況だった。しかも、虚偽報告書が実際に真正な証拠として使われ、検察審査会の起訴相当議決に影響を与えたという重大事案であり、陸山会事件の任意捜査から強制捜査、不起訴・再捜査に至る一連の捜査状況に問題はなかったかといった点についても、徹底的に捜査・検証する必要があった。
田代元検事が私同様に他の検事に何らかの告白をしていることもあり得たし、告白を聞いた人間がそれを一人で抱え込んだとも限らなかった。現に私は、田代元検事が私以外の検事にも同様の告白をしたと聞いているし、私自身も一人で抱えきれず、「陸山会事件に比べたら、厚労省事件なんか可愛いものだ」といった率直な感想と合わせ、複数の検事に告白の概要を伝えた。彼らはこれをメールのやり取りで残していた。田代元検事から告白を受けたとの私の話は、こうした客観証拠によっても裏付けられる事実にほかならなかった。
しかし、最高検は、田代元検事を逮捕するどころか、関係先の捜索すらせず、「記憶の混同」との田代元検事の弁解を十分に追及しないまま、絶対に真相を語らそうとしない捜査に終始した。そればかりか、捜査状況を小出しにリークすることで、処分前の早い段階から「不起訴やむなし」との方向付けすら行った。
確かに、田代元検事が起訴に至れば、小沢議員や石川氏らの公判は確実に吹き飛んだはずだ。また、大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件を「大阪特有の問題」という構図で小さくまとめた手前、東京にも同様の根深い問題があるということだと、目も当てられなくなる。関係者も大阪の事案と比べものにならないほど多く、監督責任まで考慮すると幹部の首がいくつあっても足らないし、検事総長が2代続けて引責辞任するという事態にもなりかねない。検察は完全に瓦解する。
だからといって、捜査の手を緩め、田代元検事の口を閉じさせ、彼一人に「一生の重荷」を背負わせたままで終わるようであれば、検察に正義を語る資格などない。私は、古巣検察の凋落ぶりを横目で見つつ、内心は忸怩たる思いで一杯だった。しかし、当時の私は静岡刑務所で受刑中の身であった上、小沢公判で陸山会事件の捜査状況を包み隠さずに証言したことが裏目に出て、仮釈放による早期の社会復帰を閉ざされ、ことの真相を外部に明らかにする機会がなかった。
そうした中、満期釈放が約1週間後に迫った平成24年5月8日、虚偽報告書事件の捜査主任検事がやってきた。田代元検事らを告発した市民団体が小沢公判における私の証言を引用していることから、私の取調べを行うことになったとの話だった。田代元検事の取調べも主任検事自らが担当しているという。奇しくもその主任検事は、大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件に際し、私の取調べを担当した中村孝検事その人だった。(続)
<筆者プロフィール>
前田恒彦
元特捜部主任検事
1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。獄中経験もあり、刑事司法の実態や問題点などを独自の視点でささやく。
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◆ 小沢一郎氏裁判/“はぐれ検事”前田恒彦・元検事の爆弾証言でハッキリした「検察審は解散が必要」 2011-12-21 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆ 小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉/前田恒彦元検事「上司から『特捜部と小沢の全面戦争だ』と言われた」2011-12-16 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
〈部分抜粋〉
証人「話すと5、6時間かかりますが、端的に言うと、検察の体面を保つことと、自身の保身のためです」
指定弁護士「主任検事として大きなプレッシャーを感じていたのですか」
証人「はい」
指定弁護士「本件でもそうですか」
証人「それは全然違います」「厚生労働省の事件では、大阪高検検事長が積極的で、単独犯ではあり得ないという雰囲気があった。一方で、本件では(ゼネコンからの)裏献金で小沢先生を立件しようと積極的なのは、東京地検特捜部特捜部長や■■主任検事(法廷では実名)など一部で、現場は厭戦(えんせん)ムードでした。東京高検検事長も立件に消極的と聞いていましたし、厚労省の事件とは比較になりませんでした」「大久保さんを取り調べましたが、『とても無理ですよね』と感じました。小沢先生を土曜日に取り調べて、当時の特捜部長だった佐久間(達哉)さんらが東京拘置所に陣中見舞いに来ました。そのとき、私と○○検事(法廷では実名)、△△検事(同)が向かい合って座っていました。佐久間さんは『雰囲気を教えてくれ』ということを言われました」「(前田元検事の上司だった)大阪地検の特捜部長であれば、怒鳴られて言えないけど、佐久間さんはそんなことはなかった。『大久保はどう?』と聞かれたので、『頑張ってみますけど難しいです』と暗に立件は無理と伝えました。他の検事も同じようなことを言っていたと思います。一部積極的な人もいたが、小沢先生まで行くことはないと思いました」
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◆ 小沢一郎氏裁判 第10回公判〈後〉前田恒彦元検事「私が裁判官なら小沢さん無罪」「検察、証拠隠しあった」2011-12-17 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
〈部分抜粋〉
弁護人「証拠隠しって何ですか」
証人「要は、私が裁判官なら、『無罪』と判決を書く。証拠がすべて出されたとしても…」
弁護人「いや、『隠された証拠』ってなんなんですか」
証人「私が思っているだけですけどね。判決では検察審査会の起訴議決が妥当だったかどうかも審理されるわけですよね。そこで検察が不起訴と判断した資料として検審に提出されるもので、証拠になっていないものがあるわけですよ。例えば、(自分が取り調べを担当した)大久保さんの調書には全くクレームがないけど、石川さんの調書にはあるんです。弁護士からのクレーム申入書が。でも(指定弁護士との)打ち合わせのときに、指定弁護士は知らなかった。検審に提出された不起訴記録に入っていないから」「私はクレームが来ていないから胸を張って任意性がある、と言えるんですけど。石川さんの調書に問題があったんじゃないですかね。(石川議員の取り調べに対する)クレームはバンバンあったくらいの印象がある。指定弁護士も調査したら1、2通見つかったと言っていたが、私の印象ではもっとあると思いました。それが証拠に含まれていれば、審査会が見て、調書の信用性は減殺されるわけですよね」「それに、この事件では捜査態勢が、途中でものすごく拡充されたんですよ。(元秘書ら逮捕者の取り調べを行う『身柄班』に対して)『業者班』。ゼネコンや下請けの捜査員を増やした。でも、(作成された)調書が、まー、ないでしょ? 大久保さん、小沢さんに裏金を渡しているという検察の想定と違う取り調べ内容は、証拠化しないんです。どうするかといえば、メモにしている。手書きのその場のメモということでなく、ワープロで供述要旨を整理していた」「水谷(建設)で言えば、4億円の原資として5千万円は水谷かもね、となっても、残りの3億5千万円については分からない。何十人の検察官が調べて、出てこない。検審にそれが示されれば、水谷建設の裏献金の信用性も、減殺されていたはず。想定に合わなければ証拠にならないというのがこれまでの検察で、私も感覚がずれていて、厚労省の(証拠改竄)事件を起こすことにもなった」
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◆ 小沢一郎氏裁判/国民の代表である政治家と「全面戦争する」と言う特捜=国民主権を認めない組織〈検察〉2011-12-19 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
検察崩壊
田中良紹の「国会探検」
検察審査会によって強制起訴された小沢一郎氏の裁判で、陸山会事件を担当した二人の検事が重大な証言を行なった。その証言を聞いて、検察組織をいったん解体して作り直さなければならないと痛感した。
この裁判が終ったら、結論が有罪だろうが無罪だろうが、立法府は国政調査権に基いて検察組織を徹底調査し、民主主義国家にふさわしい捜査機関に作り変える必要がある。日本が民主主義国家たらんとすれば、それは立法府の当然の使命である。
一昨年の3月に私は『予言が現実になった』というブログを書いた。小沢氏の大久保隆規公設第一秘書が西松建設事件で突然東京地検に逮捕されたからである。07年の参議院選挙に自民党が惨敗した時、私は「自民党は民主党の小沢代表をターゲットにスキャンダルを暴露するだろう」と予言した。それが私の知る自民党のやり方であり、それ以外に政権交代を阻止する手立てはないからである。その予言が現実になったのである。
しかし大久保秘書の容疑は政治資金規正法の虚偽記載という形式犯で、しかも西松建設からの献金を実体のない政治団体からの献金と偽ったというものである。ところが政治団体には実体があり、検察の言いがかりに過ぎない。普通なら逮捕も考えられないし、起訴しても無罪の可能性がある。狙いは他にあると私は思った。
それは小沢氏に代表を退くか、もしくは政界引退を促す検察の脅しである。大人しく言う事を聞けば秘書は起訴しない。しかし言う事を聞かなければ捜査を拡大し、必ず犯罪の証拠を握って見せるという脅しである。政権交代が確実な情勢なのにあなた一人が頑張ると民主党全体に迷惑をかけますよと検察は言っているのである。これに小沢氏がどう対応するかを私は注目した。すると小沢氏は痛烈に検察を批判し戦いを宣言した。
恐らく検察は怒り心頭に達したに違いない。しかし追い込まれたのは検察である。いかにバカなメディアを煽り、バカな国会議員を煽っても、西松建設事件だけで小沢氏を政界から葬り去る事は出来ない。検察は有罪に出来る保証のない形式的な事件で大久保秘書を起訴せざるを得なくなった。
その起訴を見届けてから小沢氏は鳩山由紀夫氏と代表を交代し、幹事長として選挙の采配を振るった。西松建設事件の影響は最小化され、日本で初の政権交代が実現した。これで検察はますます窮地に追い込まれた。何とか小沢氏と企業との関係を洗い出し、裏金を見つけ出さなければならない。必死の捜査が始まったのは政権交代の後である。
ところが何も出てこない。出てきたのは嘘を言って前の福島県知事を逮捕させた水谷建設だけである。小沢氏側に1億円の裏金を渡したとの証言を得た。水谷建設は札付きの企業で、金を貰った政治家は政界にも地方自治体にもごろごろいる。水谷建設は叩けばいくらでもホコリが出る。だから検察がお目こぼしをすると言えば嘘八百を言ってでも検察に協力する。そんな企業しか見つからなかった時点で検察の負けなのだが、それでも叩けば何か出ると検察は考えた。
そこで無理をして陸山会事件に着手する。これも容疑は政治資金規正法の虚偽記載である。小沢氏から一時立て替えてもらった4億円が記載されていないのを「裏金だからだ」と踏んで、「期ズレ」を虚偽記載として秘書3人を逮捕した。私にはこれも言いがかりに見えるが、秘書3人を叩けば何か出るだろうという「思い込み」捜査が始まった。
それにしても検察は政権交代がかかる選挙直前に西松建設事件を摘発し、陸山会事件では現職の国会議員を通常国会の直前に逮捕した。かつて検察や警察を取材した経験のある私には信じられないやり方である。民主主義国家で最も尊重されなければならないのは国民の民意を問う選挙であり、国民の税金の使い道を議論する国会の審議である。捜査機関がそれに影響を与えるような事は決してやってはならない。それが民主主義国家の民主主義国家たる由縁である。その原理原則がいつの間にかこの国から消え失せていた。
そこで『国民の敵』というブログを書いた。「思い込み」によって現職の国会議員を逮捕し、「ガセ情報」をマスコミに書かせ、国民生活に関わる予算審議を妨害した日本の検察は民主主義の原理を無視した「国民の敵」だと書いた。また起訴された石川知裕衆議院議員の辞職勧告決議案を提出した自民党、公明党、みんなの党は国民主権が何かを知らない哀れな政党だと書いた。
結局、検察は裏金の存在を立証する事が出来ず、また政治資金規正法の虚偽記載についても小沢氏を起訴する事が出来なかった。完全敗北である。すると政治的に小沢氏を葬り去ろうとする連中が動き出した。検察審査会が小沢氏を強制起訴に持ち込んだのである。理由は検察が「シロ」としただけでは納得ができず、裁判所の判断も聞いてみたいというのだから呆れた。
「11人の愚か者が1億3千万人の国民生活の足を引っ張る判断をした」とブログに書いた。政治を裁くという事の重さを知らない凡俗が日本を世界に類例のない『痴呆国家』にしようとしたのである。しかしこれは小沢氏を追い詰めるどころか検察を追い詰める事になる。検察は唯一起訴する権限を有するから権力を持っている。それが起訴できず、一般市民に起訴してもらうのでは自らの存立基盤を壊す。それに気づかず強制起訴に協力した検事がいたら相当におめでたい。「検察審査会の強制起訴は逆に検察を追い詰める事になる」と『オザワの罠』というブログに書いた。
その時がやってきた。石川知裕衆議院議員を取り調べた田代政弘検事と大久保隆規氏を取り調べた前田恒彦元検事が証人として小沢裁判に出廷した。人間はどんなに本当の事を喋ろうとしても本能的に自分を守るものである。法廷の証言でも証拠がなければ嘘をつく可能性がある。だから二人とも自分の取り調べに間違いはないと証言したが、それを私は信用しない。
その部分を除くとしかし二人は実に興味深い証言を行なった。田代検事は「合理的であれば調書に取り入れるが、合理的でない供述は入れない」と証言した。「合理的」とは検察のストーリーに合致した事を言う。つまり取調べとは真相を究明する事ではなく、検察のストーリーに都合の良い言質をつまむ事だと言ったのである。それなら取調べの意味はない。
そして田代検事は昨年5月に石川議員の取調べを行った際、実際のやり取りとは異なる架空の話を捜査報告書に書き入れた事を認めた。その嘘の捜査報告書が検察審査会の強制起訴の議決に影響を与えた可能性がある。大阪地検の前田元検事による証拠改竄は事件になったが、同じような証拠改竄が東京地検でも行なわれていたのである。田代検事は「記憶が混同した」と弁解したが、前田元検事も当初は「意図的でなく誤ってやった」と弁解した。
その前田元検事は、検察に忠実であろうとして検察から切り捨てられた立場だけに、陸山会事件の捜査に批判的だった。応援要請を受けて大阪地検から東京地検に来た時「これは特捜部と小沢との全面戦争だ」と言われたと言った。そして捜査は「虚偽記載」ではなく「裏献金」に主眼が置かれていたと言い、しかし現場は厭戦ムードで捜査に積極的だったのは特捜部長と主任検事だけだったと明かしている。
小沢氏の4億円を企業からの献金とするのを「妄想」と言い、事件の見立て、つまり検察が描いたストーリーが間違っていたと言った。だから「私なら小沢氏に無罪の判決を下す」と言うのである。水谷建設から石川議員への裏金も検察内部では「石川は受け取っていない」と言われていた事を明かした。
ところが前田氏も「検察の想定と違う内容は証拠にしない」と言うのである。つまり検察に都合の悪い証拠は検察によって「隠滅」されるのがこの組織では常識なのである。これは立派な犯罪ではないか。
国民の代表である政治家と「全面戦争する」と言うのは、国民主権を認めない組織がこの国に存在する事を意味している。その組織に都合の悪い証拠は隠滅される。これほどの感覚のズレを正すのに自己改革など到底無理な話である。行政権力を監視し、それを変える力は立法府にしかない。立法府がこの問題に真剣に取り組まなければ、日本は民主主義の名に値しない国の烙印を押される。
投稿者:田中良紹 日時:2011年12月18日23:48
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◆ 小沢一郎氏茶番裁判 特捜検察の恐るべきデタラメ/検察、警察はデッチ上げで犯罪、犯人を捏造している2011-12-17 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
◆ 小沢一郎氏裁判 第10回公判〈後〉前田恒彦元検事「私が裁判官なら小沢さん無罪」「検察、証拠隠しあった」2011-12-17
◆ 小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉/前田恒彦元検事「上司から『特捜部と小沢の全面戦争だ』と言われた」2011-12-16
◆ 小沢一郎氏裁判 第9回公判〈後〉/証人 石川知裕議員女性秘書が語った深夜に及ぶ違法な取調べの実態2011-12-16
◆ 小沢一郎氏裁判 第9回公判〈前〉/証人 田代政弘検事「特捜部は恐ろしいところだ」=報告書に虚偽の記事2011-12-15
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