再延期の波紋「戦力外通告」の財務省、最後まで蚊帳の外 増税の「誤ち」認めず官邸が不信感 2016.6.2

2016-06-02 | 政治

 産経ニュース 2016.6.2 07:00更新
【再延期の波紋(上)】「戦力外通告」の財務省、最後まで蚊帳の外 増税の「誤ち」認めず官邸が不信感
 「財務省がこの国をだめにしてきた」
 ある政府高官は最近、かつては「最強」と呼ばれた官庁をこう切り捨てた。
 優れた政策立案能力と永田町の隅々にまで築き上げた情報網を恐れられ、時の政権ですら直接対峙することを避けてきた財務省。しかし、平成24年に第2次安倍晋三政権が発足して以降は、重要な政策決定の過程で蚊帳の外に置かれる場面が目立つ。今回の消費税増税の再延期議論でも、為す術なく、首相の決断を受け入れるしかなかった。
 財務省は、首相が増税再延期の本格検討に入ってからも、「予定通りに消費税率を10%引き上げなければ財源不足が生じ、社会保障の充実策は難しい」と官邸サイドに訴えていた。
 だが、約3年半のアベノミクス効果で税収は国と地方で計約21兆円増えている。各報道機関の世論調査でも、再増税反対が一貫して過半を占めていた。夏に参院選を控えた政権にとって増税が逆風なのは明白だ。官邸は財務省に増税再延期を想定した財源確保の検討を指示したが、増税を悲願とする財務省は「アベノミクスによる税収増は財源にならないと繰り返すだけだった」(首相周辺)。
 官邸サイドには日に日に財務省への不信感が募っていった。そもそも、デフレ脱却の成否を左右する個人消費は、26年4月の消費税率5%から8%への引き上げ以降、低迷が続く。8%への増税による消費低迷は一時的だとした財務省は完全に見通しを誤っていた。
 それでもなお、「過ちを認めず、景気浮揚策も示さない」(同)財務省の対応は、経済再生を急ぐ政権に公然と異を唱えているように映った。再延期判断で首相が重視した国際金融経済分析会合や、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に、財務省はほとんど関与できずに終わった。
 財務省は劣勢を打開しようと、来年4月に10%への引き上げを前提に「2年で計20兆円規模の財政出動」を官邸に打診した。財政規律を重視する財務省にとって前代未聞の「奇策」(幹部)だったが、遅きに失した感は否めない。
 麻生太郎財務相は5月、首相に「3度目の失敗は許されない」と進言。9年の消費税率3%から5%に引き上げ、26年の5%から8%への増税後、ともに経済が失速したのを踏まえ、増税回避を首相に示唆している。表向き、麻生氏が増税を主張し続けたのは「財務省職員への配慮」(官邸関係者)にほかならない。
 財務省は「消費税増税を2段階に分けた時点で負けは決まっていた」(幹部)と強がるが、長期政権を見据える首相からの“戦力外通告”を払拭するのは容易ではない。(小川真由美)
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2015.5.18 11:00更新
【安倍政権考】なんとか「消費税10%超」の道筋つけたい財務省の駆け引き 安倍首相の辟易
 「財務省が持ってくる文書には、消費税を10%より上げようとする狙いが見え見えなんだよ」
 安倍晋三首相は今春、周辺にこう述べ、財政健全化を名目に消費税率を10%よりもさらに引き上げようと画策する財務省に不快感を示した。財務省がさまざまな政府文書に消費税率10%超の可能性を生じさせる文言を盛り込ませようとしていることに、首相は神経をとがらせている。
*財務省の“画策”に不快感
 政府は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を平成32年度に黒字化する目標を掲げている。
 今年2月発表の内閣府の試算によると、アベノミクスによる景気回復や消費税率の8%引き上げで、27年度にPB赤字の対GDP(国内総生産)比率を22年度から半減させる目標は達成できる見通しが立った。
 しかし、32年度のPB黒字化に向けては、29年4月の消費税率10%引き上げを前提に、成長率を名目3%以上の高めに設定しても、9・4兆円の赤字が残るとの結果が出た。
 9・4兆円の赤字を埋めるには、経済成長による税収増▽社会保障費などの歳出減▽増税による歳入増-の3つが考えられる。「9・4兆円」の試算はすでに高成長を見込んでいることもあり、財務省がもくろむのが、消費税率を10%よりもさらに引き上げることだ。
 消費税は税率を1%上げると約2・7兆円の税収を確保できるとされる。例えば、消費税率を10%からさらに3%上げ、1・5兆円程度の歳出カットを行えば、「9・4兆円」の帳尻が合う。
 ただ、そうした机上の計算には、消費税増税を実行する政治的な困難さは含まれていない。民主党政権はマニフェスト(政権公約)に約束していなかった消費税増税を決めたことで「ウソつき」の烙印(らくいん)を押され、政権の座を失った。
 民主党政権を倒した安倍政権も、昨年4月の消費税率8%引き上げによる景気減速に悩まされた。景気動向は支持率に直結するため、首相としても敏感にならざるを得ない。いくら財政健全化に有効だからといって、消費税10%超増税を軽々に認めるわけにはいかないのだ。
 首相は、今月12日の経済財政諮問会議で「経済再生なくして財政健全化はない。これが安倍内閣の経済財政運営の基本哲学だ」と述べ、財政健全化ありきの議論にくぎを刺した。あくまでも高い経済成長を目指して構造改革を断行し、その結果として税収増を狙うという基本姿勢を貫く考えを強調した。
 一方、もう一つの財政健全化策である歳出カットの議論は行方が見通せない。財務省の財政制度等審議会や自民党の財政再建に関する特命委員会は、社会保障費の抑制や地方予算の削減などを打ち出しているが、自民党内からは「来年参院選を控えているのに、社会保障費などの大幅カットはどだい無理な話」(中堅)との声が相次いでいる。
*狙いは「中間目標」
 政府は、6月に取りまとめられる経済財政運営の指針「骨太方針」に、32年度のPB黒字化に向けた財政健全化計画を盛り込む。消費税の10%超増税は封印されている上、歳出カットも具体的に打ち出せないとなると、高成長による税収増に大きく期待する内容となりそうだ。
 財務省の次の狙いは、30年度に財政健全化の中間目標を設定し、達成できない場合の消費税10%超増税の可能性を残すことだ。政府筋は「今秋の自民党総裁選で首相が再選されれば任期は30年の秋まで。それからだったら10%超の議論はできるはずだ」と語る。
 消費税増税による政局を嫌う首相が、中間目標未達による消費税10%超増税の可能性は容認するのか、財政健全化計画の注目点となりそうだ。
(政治部 桑原雄尚)

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です


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