【消えない戦慄 地下鉄サリン事件20年(3)】経験と記憶「娘に伝えたい」 辛苦乗り越え授かった命

2015-03-18 | オウム真理教事件

 産経ニュース 2015.3.18 13:00更新
【消えない戦慄 地下鉄サリン事件20年(3)】経験と記憶「娘に伝えたい」 辛苦乗り越え授かった命
 神奈川県内の病院のベッド。つい1カ月前。まだ目も開かないわが子を、横浜市の男性会社員(51)は、おぼつかない手つきで抱いた。2696グラム。思いのほか、ずっしりとしている。「本当に自分に子供ができたんだ」。事件から20年を経て授かった待望の命。生まれるまで抱いていた不安は安堵(あんど)に変わった。
 平成7年3月20日午前8時過ぎ。男性は、会社に向かう日比谷線の車内で事件に巻き込まれた。小伝馬町駅でドアが開き、外気が入ってきたとたん、強烈な異臭が漂った。「金属をバーナーで焼き切ったような、焦げた匂い」。直後に、いくら吸っても空気が取り込めなくなり、必死に地上へ。外に出ると、目の前がぼんやりとしていた。向かった病院の待合室は、似た症状を訴える患者であふれていた。
 テレビのテロップに「サリン」の文字をかすかにとらえたとき、「原因はこれかもしれない」と感じた。逃げる途中、自分が乗っていたのとは別の車両に、新聞紙で包まれた弁当箱のようなものが落ちていたことを思い出した。
 事件後、多くのものを失った。目などの検査のために定期的に通っていた病院で何気なく「子供は大丈夫でしょうか」と尋ねた。医師は「前例がないから分からない」とした上で、「体内にサリンが残留している可能性がある。3年は子作りを控えたほうがいいのではないか」と答えた。
 サリンが体内に長期にわたって残り、子供の健康などに悪影響を及ぼすとする医学的な証明はない。だが、当時はそうした風潮があった。いわれのない差別を恐れ、被害者であることを隠す人は多かった。
 当時勤めていた会社が倒産するなど不運も続いた。事件から約5年後に離婚した。男性は「はっきりとは口にしなかったが、妻は子供ができないかもしれないという不安を抱えていた」と振り返る。
*成長確認の季節
 すべてオウム真理教のせいだ。そんな思いで10年近く鬱々とした日々を過ごした。その後、サリン被害者向けに定期検診をしていたNPO法人「リカバリー・サポート・センター(R・S・C)」の担当医から「元気な子供を産んでいる人がたくさんいる」と聞かされた。
 まだ不安もあったが「人生は一度きりだから」と、前向きに考えるようになった。再就職先の商社に勤めていた今の妻と出会ったのは、そんなときだった。
 妻には交際前にすべてを告げた。すると「あっけないほどすんなりと理解してくれた」。再婚し、昨春に妊娠が発覚。今年2月13日、女の子が産声をあげた。春が近いから、名前に「咲」の字を使った。事件があった春はこれから、娘の成長を確認する季節になる。
 20年を経て得た家族のぬくもり。事件を完全に忘れようと考えたこともある。だが、幼子を見つめていると、こう思うようになった。「次の20年が過ぎたころ、自分の経験を娘に伝えたい」
*「支援足りない」
 「長いなあと思う一方、もう20年たったのかと複雑な気がする」。今もサリンの後遺症に苦しみ、寝たきり状態の妹のそばで、浅川一雄(55)は時の流れを受け止めた。
 あの日、妹の幸子(さちこ)(51)は丸ノ内線で被害に遭った。幸子は視力を失い、言語障害や手足のまひが残った。数年前からは母親(90)も寝たきりに。浅川は妻とヘルパーの手助けで2人を支えている。
 「さっちゃんの笑顔に救われる」と浅川。ただ「自分に何かあったら…」という不安が、いつも胸のうちにある。
 「犯人は拘置所などで衣食住が与えられているのに、犯罪被害者への支援は足りない。最低限、1人で暮らしていけるようにしてほしい」
 20年の歳月は、介護する家族の高齢化という新たな苦悩も生んでいる。(敬称略)
 【オウム真理教による被害者賠償】 教団による一連の事件の被害者・遺族計1201人への賠償金は約38億円。うち教団側が支払ったのは3月上旬時点で、約19億円と半分程度に過ぎない。賠償金は「オウム真理教犯罪被害者支援機構」を通じて分配されるが、教団の支払額が少ないため、約38億円の4割分しか支給されていない。公安調査庁によると、現金や預貯金などの教団資産は昨年10月末時点で計6億9千万円に上り、団体規制法に基づく観察処分を初めて受けた平成12年時点と比べ約17倍に増えている。
  ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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