奈良の医師宅放火殺人事件 「調書本」が犯した二重の背信

2009-04-16 | 社会

供述調書漏洩で精神科医に有罪判決 「僕はパパを殺すことに決めた」
2009.4.15 13:32
 奈良県田原本町の医師(50)宅放火殺人の供述調書漏洩(ろうえい)事件で、秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(51)の判決公判が15日、奈良地裁で開かれ、石川恭司裁判長は懲役4月、執行猶予3年(求刑懲役6月)を言い渡した。
 最高裁によると、記録が残る昭和53年以降、秘密漏示罪の判決宣告は初めて。報道・出版の自由や取材源の秘匿をめぐり論議を呼んだ異例の事件は、調書が引用された「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)を出版したフリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)の刑事責任は問われないまま、取材源のみが有罪とされる結果となった。
 弁護側は、崎浜被告が草薙さんに調書などを見せたことは認めたものの、放火殺人事件の少年審判で精神鑑定を担当した医師の長男(19)に殺意はなかったことを社会に理解してもらうためで、正当な理由があったと主張。さらに治療行為を行わない鑑定人は秘密漏示罪の対象となる医師には当たらないとして、無罪を訴えた。
 これに対し検察側は「少年法の精神を破壊した前代未聞の事件で極めて悪質」と指弾。同罪の法定刑の上限である懲役6月を求刑していた。
 判決によると、崎浜被告は平成18年10月5~15日、京都市の自宅やホテルで、3回にわたり草薙さんらと面会。奈良家裁から鑑定資料として貸与された長男や父親らの供述調書を見せるなどし、業務上知り得た秘密を不当に漏らした。
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崎浜被告「間違ったことしていない」 供述調書漏洩で有罪判決
2009.4.15 13:33
 「自分のしたことは、間違っていない」。奈良地裁で15日、判決が言い渡された医師宅放火殺人の調書漏洩事件。秘密漏示罪に問われた崎浜盛三被告(51)は、供述調書を見せた自身の行為が信念に基づいたものであることを再三、強調していた。一方、その信念を託されたはずのフリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)。事件のもう一人の“主役”の姿は、傍聴席になかった。
 崎浜被告はこの日午後0時50分ごろ、これまでの公判と同様、弁護人らとともに奈良地裁に到着した。口を真一文字に結び、ダークスーツに白いシャツ、ネクタイ姿。弁護人席の前に設けられた被告人席に腰を下ろすと、落ち着かない様子で午後1時10分の開廷を待った。
 「被告人は前へ」。石川恭司裁判長に促され、証言台に進み出る。主文が言い渡された後、裁判長に一礼して被告人席に戻った。
 「『殺人者』というレッテルをはがしてあげたかった」。崎浜被告はこれまで繰り返し、自身が広汎性発達障害と診断した長男(19)への思いを口にしてきた。
 相手の感情をうまく読み取れないための対人関係の齟齬(そご)や、物事への強迫的なこだわりを特徴とする広汎性発達障害。崎浜被告は、父親を殺害しようとしながら父親不在の自宅に火を放った長男の行動の背景に、この障害があると考えた。「長男に、亡くなった3人への殺意はなかった」。だが長男の将来のために、そのことを世間に広く理解してもらおうとした行為は、草薙さんによる「僕はパパを殺すことに決めた」の出版につながった。
 調書の直接引用という意に反する形で出版され、逮捕・起訴までもされた崎浜被告。だが判決を目前にひかえた取材には、こう答えていた。
 「鑑定人として知った秘密を守ることより、1人の少年の人生を守る方が大切だという私の価値観は変わらない」
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日経新聞 社説2 「調書本」が犯した二重の背信(4/16)
 奈良県の医師宅放火殺人事件で少年院送致になったこの家の長男の供述調書をもとにした本が出版された問題で、取材源の精神科医が有罪判決を受けた。長男の精神鑑定を命じられて裁判所から預かった供述調書などを本の著者に見せたのが、秘密漏示罪にあたるとの判断だ。
 報道目的の情報提供に刑事罰を科す事態は、取材に応じる人々を萎縮させ、ひいては国民の知る権利を脅かす恐れがある。著者と出版元の講談社が取材源を秘匿・保護する責務を全うせず、こうした結果を招いたことは極めて遺憾だ。
 取材源を守れなかったほかにも、この本にはおかしな点が多い。
 まず暴露した秘密の公益性に疑問符がつく。供述調書は通常の事件であれば法廷で公開される。秘密にされた理由は、非公開の審判を受ける少年事件だったからであり、権力機関が国民の目から隠そうと図ったからではない。本に出された捜査資料には長男や家族の純粋なプライバシー情報も少なくなかった。
 供述調書を公表して事件の真相を浮かび上がらせようとした、との主張もおかしい。供述調書は、取り調べの受け答えをもとに捜査官が作成した書類であり、供述者の記憶や心情を正確に伝えたものと受け止めてはならない。これは、事件取材に携わる者の常識だ。ましてや、取調官に迎合したり誘導されたりしやすい少年の供述である。
 判決によれば、著者は精神科医に「調書は全然信用しない」などと述べたというが、本の体裁や内容からは、著者も出版社も取材者の常識を欠いていたと考えざるをえない。
 さらに判決は「本件書籍のような形で出版されることは(精神科医は)想定しておらず」と認めている。
 結局、この「調書本」は取材源と国民の知る権利への、二重の背信行為を犯した。
 講談社から社内調査を委託された第三者委員会は昨年4月に報告をまとめている。
 「取材源秘匿の認識が甘く、取材源の起訴という最悪の結果を招いた。表現の自由に悪影響を与えた社会的責任は大きい」。この指摘を、出版にかかわった関係者は改めてかみしめる必要がある。
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〈来栖のつぶやき〉
 「僕はパパを殺すことに決めた」とのタイトル、売らんかなの底意が透けて見える。「広汎性発達障害を社会に理解してもらいたい」との学者らしい崎浜被告の願いを草薙氏は利用した。「コピーはだめ」と繰り返す崎浜盛三被告に、「メモ代わり」と調書類の写真約2600枚を撮影した。崎浜被告には出版すら知らされず、発達障害のくだりは申し訳程度しかなかったという。学究の熱い思いを犯罪に落とした行為には、ジャーナリストとしての矜持など微塵も感じられない。あるのは商魂のみだ。似非ジャーナリストは「知る権利」などときれいごとを言うが、本件は親告罪である。
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調書漏えい鑑定医に有罪 奈良の医師宅放火殺人事件
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