大関・霧島「綱取りムード」の盛り上がりが貴景勝と大違い 勝ち星の数だけでなく“親方の立場の違い”も影響
大相撲11月場所は13勝2敗で大関・霧島が2度目の優勝を果たし、来場所は横綱昇進に挑むことになる。一方、9月場所で優勝した大関・貴景勝は9勝6敗に終わったが、両者の「綱取り」を巡るムードに大きな違いがあるのは、なぜなのか。二所ノ関一門の親方のひとりはこう言う。
「霧島は14日目の2敗対決となった熱海富士戦を真っ向勝負で制し、千秋楽も貴景勝に勝利して13勝での優勝となった。9月場所の貴景勝が11勝での優勝だったとはいえ、その時のムードとは明らかに違う。
冷静に考えれば、霧島もカド番だった9月場所は9勝6敗。今場所は一転、13勝をあげたが、安定した成績とは言えない。にもかかわらず、“師匠の陸奥親方(元大関・霧島)にとって定年前の最後の場所となる来年3月場所で、愛弟子が横綱として土俵に上がれるのでは”と協会幹部らも盛り上がっている。
師匠の定年をタイムリミットとするなら、来場所で横綱に昇進しなければならない。もちろん優勝の必要はあるが、優勝同点でも上げそうな勢いです。“全勝優勝でも昇進はない”と囁かれた9月後の貴景勝の時とは全く違う」
貴景勝は11勝での優勝だったことに加え、熱海富士との優勝決定戦で左に変化してはたき込みで優勝を決めたことが批判の対象になった。とはいえ、13日目の本割での熱海富士との一番では、立ち合いのぶちかましから突き放し、いなした貴景勝が寄り切りで勝っている。なぜここまでムードが違ってくるのだろうか。相撲担当記者はこう言う。 「突き押し一辺倒で、組むとほぼ勝ち目がない貴景勝に対して、霧島は左四つで組み止めれば寄りや投げといった多彩な技を持つ。どちらが横綱相撲然としているかは明らか。そもそも、安定感に欠ける押し相撲一本で横綱になったケースなどないでしょう。
もろ手突きを武器にしていた曙も右四つで相撲が取れたし、北勝海(現・八角理事長)も押し相撲が武器だったが、左四つからの寄り切りや両前まわしを掴んで一気に前に出る相撲を取った。猛牛と呼ばれた琴桜もぶちかましから左のど輪、右おっつけを得意にしながら、右四つでも相撲が取れた。貴景勝のように突き押し一辺倒ではない。
貴景勝は四つ相撲を覚えようとしたこともあるが、2019年5月場所の御嶽海戦でもろ差しからすくい投げを打って右膝をケガしたこともあってか、押し相撲だけで横綱を目指すと明言するようになった。相撲協会としては突き押しばかりの貴景勝を横綱にして、短命に終わることを恐れている面もあるでしょう」
霧島の師匠・陸奥親方は協会の実質ナンバー2
霧島にはさらなる追い風がありそうだ。師匠が協会の理事で実質ナンバー2とされる陸奥親方であることが関係しているという。相撲ジャーナリストが言う。 「陸奥部屋が所属する時津風一門には、現役時代に実績があって相撲協会の理事候補に相応しい親方がいない。そこで陸奥さんが“1期だけ”という条件で担ぎ出された。時津風一門は2人の理事を出しているが、年寄名跡の数のうえでは本来、1人しか出せない。そのため、理事選にあたっては提携関係にある伊勢ヶ濱一門の余った票はもちろん、二所ノ関一門からも調整して回すことになっていた。陸奥さんは二所ノ関一門の大寿山(現・花籠親方)、若嶋津(現・荒磯親方)と初土俵が同じ同期生ですからね。
4人の理事を出せる出羽海一門でも陸奥さんフォローすることになっていた。八角理事長の後ろ盾である尾車親方(元大関・琴風)の支援もあるので、各一門が後押ししやすい構図があるのです。もちろん陸奥さんの人柄、人望もある。九州場所中は理事室で理事や副理事、役員待遇など協会執行部が一緒にテレビ観戦しており、そうしたなかで“愛弟子を師匠の定年前に横綱に”と前向きな空気になっている」
それに対し、貴景勝の師匠は元貴乃花一門の常盤山親方(元小結・隆三杉)。貴乃花親方が協会を去ったことで弟子を受け入れることになった。言ってみれば“貴乃花の遺産”という位置づけになる。前出・相撲ジャーナリストが続ける。 「旧貴乃花一門の親方衆は二所ノ関一門や出羽海一門に分散したが、いずれの親方も要職に就けないでいる。立ち合いの態度が悪いと注意を受けた豊昇龍は、朝青龍の甥っ子というマイナス要因もあるが、旧貴乃花一門の立浪部屋(元小結・旭豊)の所属で目をつけられやすい。協会執行部と貴乃花親方が骨肉の権力闘争が繰り広げられたのは5年前の話になりますが、その因縁は今の角界に根深く残っているのです」
※週刊ポスト2023年12月15日号