葉室麟さん死去 2017/12/23

2017-12-24 | 本/演劇…など

葉室麟さん死去 66歳 直木賞「蜩ノ記」
 2017年12月24日 中日新聞 朝刊
 時代小説「蜩(ひぐらし)ノ記」や「銀漢の賦(ふ)」など地方からの視点で、組織の中で生きる個人の誇りを描いてきた直木賞作家の葉室麟(はむろりん)さんが二十三日、病気のため死去した。六十六歳。北九州市出身。葬儀・告別式は近親者のみで行う。
 西南学院大卒。地方紙記者や放送局のニュースデスクなど会社勤めを経て、「乾山晩愁(けんざんばんしゅう)」で二〇〇五年に歴史文学賞を受賞、五十代の遅咲きのデビューだった。
 西国の藩を舞台にした「銀漢の賦」で松本清張賞。一二年に直木賞を受賞した「蜩ノ記」は、ある事件に関わり切腹を前にしながらも、藩史編さんに取り組むかつての奉行と、藩からその監視役を命じられた武士の心の交流を描いた。この作品は、一四年公開の映画もヒットした。一六年には「鬼神の如く 黒田叛臣伝」で司馬遼太郎賞を受けた。
 十一月に西郷隆盛を主人公にした「大獄」、今月は松平春嶽を描いた「天翔(あまか)ける」を出版したばかりだった。
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 葉室さんは昨年六月から今年七月まで、本紙で小説「影ぞ恋しき」を連載した。
■遅咲き、人間の尊厳見つめ
 二十三日に死去した作家の葉室麟さんは、五十代で作家デビューした遅咲きの作家だ。亡くなるまでの十数年間で作品を量産した。自分の内にあるものを早く形にしなければならないと、猛烈な執筆ぶりだった。
 新作が書店に並んでいるのに次の新刊を出すことは「商売」上、あまり得策ではない。「分かっているのだけど、書かないといけない」と語っていた。
 直木賞受賞作「蜩ノ記」をはじめ、歴史・時代小説で腐心したのは、人間の尊厳や、良心の輝きだった。
 幕末の志士、高杉晋作の伝記小説「春風伝」を刊行した際のインタビューで、晋作を「人間が持つ情愛を行動に昇華させたまれな人物」と評した。「人が心を動かす“情”は社会にとって必要なこと。情を大切にすることと対極にあるのがポピュリズム。人を憎むことを扇動して、憎む相手をつくり出す政治手法はよろしくない」
 グローバリズムの拡大が生んだ利己主義にあらがうことに、使命感を燃やしていたのだろう。そういう時代だからこそ、いわば「反時代」的な葉室作品の精神が輝いた。
 作家になってからも、新聞記者時代に培われたジャーナリズム魂を持ち続けた。「紙であることの意味は大きい」と、新聞の役割の大きさを説いてもいた。 (共同・上野敦)

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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〈来栖の独白2017.12.24 Sun〉
 日本の小説は、芥川賞作家はつまらない。直木賞作家に満足を与えられてきた私。葉室麟さんの作品群も、まさにそうだった。愉しませて貰った(本年の新聞連載は、左程ではなかったが・・・)。
 66歳で死去とは、私には、羨ましい。
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『影ぞ恋しき』葉室麟 著 中日新聞連載 2017/5/2
春よりも秋の方に感じやすい私だけれど、今年は葉室麟著『いのちなりけり』 2012.4.11
◇ 映画『蜩ノ記』 裃は武士としての体面を保つに十分な死に装束であるが、素足に草鞋は…
葉室麟著 『潮鳴り』 落ちた花は再び咲くことが・・・
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2017.12.25 05:03更新
【産経抄】葉室作品から元気をもらって新年を迎えよう 12月25日
 豊後羽根(ぶんごうね)藩の若い藩士、檀野(だんの)庄三郎が、山村に足を踏み入れるところから、物語は始まる。訪ねた先は、幽閉中の元郡(こおり)奉行、戸田秋谷(しゅうこく)の屋敷である。秋谷は7年前に、前藩主の側室と不義をはたらいたとして、藩史編纂(へんさん)と10年後の切腹を命じられていた。
 ▼時代小説作家の葉室麟(はむろ・りん)さんは、『蜩(ひぐらし)ノ記』を書き上げてから、気がついた。学生時代に記録文学者、上野英信(えいしん)さんを訪ねたときのイメージと重なっている。上野さんは、福岡県の筑豊炭鉱で坑内労働に従事しながら、炭鉱をテーマにした文学活動を続けていた。
 ▼秋谷の高潔な生き方に感銘を受ける庄三郎は、上野さんを生涯の師と仰ぐ葉室さんそのものだった。「単に文学賞としていただけたうれしさだけではない。青春の思い出に巡り合えた非常に大切な受賞です」。葉室さんは、直木賞の受賞スピーチでこうコメントしていた。
 ▼九州の地方紙記者をへて、作家デビューを果たしたとき、すでに50歳を過ぎていた。「若い作家と比べて、人生経験の数が私の強み」。インタビューでは、「遅咲き」を気にしている様子はなかった。
 ▼もっとも、60歳で直木賞を受賞したとき、「きちんとした仕事ができるのもあと、6、7年だろうな」とも語っている。まさに時間と競争するかのように、年6~8冊のペースで小説を発表していた。その葉室さんの突然の訃報が届いた。66歳だった。
 ▼「いやはや、泣けます。そして元気、勇気がふつふつと湧いてきます」。落語家の桂文珍さんもファンの一人らしい。平成25年の年の暮れに小紙の「書評倶楽部」で取り上げたのは、『蜩ノ記』と同じ羽根藩を舞台とする『潮鳴り』だった。小欄も葉室さんの作品から元気をもらい、新年を迎えようと思う。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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