注射された薬物が効かず、死刑は中止 43分間悶絶して死んだ死刑囚 米国で再燃する死刑議論 JBpress 石 紀美子 2014/5/20

2014-05-24 | 死刑/重刑(国際)

のたうちまわる死刑囚、中止された凄惨な薬殺刑 死刑のあり方をめぐって米国で議論が白熱
 JBpress 2014.05.20(火)石 紀美子 
 4月29日、オクラホマ州の刑務所である凶悪犯の死刑が執行された。州法で定められた薬殺刑による死刑だったが、死刑囚に注射された薬物が効かず、死刑は中止された。中止の直後、死刑囚は心臓発作で死亡した。
 要約すれば、または一昔前だったら、ざっとこのような短いニュースで終わったかもしれない。
 しかしこの事件には、現在米国の死刑制度が抱える問題が凝縮されていた。そして、議論はとうとう薬殺刑を止め、銃殺刑の復活を訴える州が出てくるほど白熱している。
*43分間悶絶して死んだ死刑囚
 死刑囚の名前はクレイトン・ロケット(享年38歳)。彼の死刑執行は、すでに数週間延期されていた。地元の人権派弁護士が、薬殺刑に使用される薬についての情報開示が足りないということで、情報公開を訴えていたからだ。
 ロケットに使われる薬は、オクラホマ州ではまだ試されたことがない新薬だった。州と弁護士の押し問答が続いたが、最終的には州最高裁が、情報開示は十分だと判断し、執行を認めた。 
 そして問題の死刑は行われた。当日、立会人が見守る前で、ロケットは時間差で3つの薬物を注射され、死亡する予定だった。
 ところが2つ目の薬物が注射されると、ロケットは苦しみだし、ベッドの上で激しい呼吸をしながらもがき、歯を食いしばりながら、激痛を訴えた。ロケットが暴れだしたのと、明らかに薬物が効かなかったことで、死刑はここで中止される。立会人との間のカーテンは引かれ、全員退場を促された。
 中止後も、ロケットは苦しみ続け、最初の薬物注射から43分後に心臓発作によって死亡した。オクラホマ州の薬殺刑にかかる平均時間は6分だということを踏まえると、長時間苦しんだことになる。一部始終を目撃した立会人らは、死刑の現実を目の当たりにして言葉を失っていたという。
 死刑に反対する人権派弁護士の団体は、この薬殺刑を「憲法違反」だと訴えた。米国憲法修正第8条には「残酷で異常な刑罰をすべからず」とあるからだ。
 薬殺刑は、これまでも他の死刑の方法に比べ、死刑囚が激痛による苦しみを味わうリスクが高いと言われてきた。ロケットの一件で、さらに明らかになったと弁護士団体は主張している。
*薬殺刑の薬が効かなかった理由
 忘れてはならないのは、ロケットは凶悪犯だったということだ。彼は1999年に、共犯者2人と一緒に知り合いの家に押し入り、知り合いを縛り上げて暴行し、居合わせた10代の女性を全員でレイプし、さらにもう1人の18歳の女性をショットガンで撃ち、まだ息のあるうちに生き埋めにして殺害した。死刑の宣告を受けたこの犯罪時、ロケットは23歳。すでに前科4犯の筋金入りの悪党だった。
 人権派の抗議を受け、地元住民をはじめ、多くの人たちが、これほど凶悪な犯罪を犯した人間が、最後に少しばかり苦しんだからどうした、と反発した。もっと苦しんで死ぬべきだったという声さえあった。
 ロケットが苦しんだ理由は、こうだ。
 オクラホマ州が薬殺刑用に許可した3つの薬は、1つ目が“Midazolam”という意識不明にする薬で、2つ目が“Vecuronium Bromide”という呼吸を止める薬、そして最後が“Potassium Chloride”という心臓を止める薬だった。
 一般的にも、薬殺刑に使われる薬は3段階で、1つ目が麻酔薬、2つ目が筋肉弛緩剤、最後が心臓を停止させる薬、とおよそ同じような内容だ。
 ところがロケットの場合、注射、もしくはカテーテルを入れることができる血管がなかなか見つからなかった。無理矢理入れた血管は、1つ目の薬が入った段階で破裂し、結果的に麻酔薬的な役割を果たす薬が効いていない状態で2つ目の薬が注入された。
 2つ目と3つ目の薬は、激痛をもたらす。最初に麻酔的な薬が入れられるのは、痛みを感じさせないためだ。ロケットは覚醒したまま2つ目の薬を注入され、激しい痛みにもだえ苦しみ、最終的にはショック状態に陥って心臓マヒに至ったということらしい。
*ヨーロッパの薬が使えなくなった
 ロケットが苦しんだ理由は、これだけではないかもしれないという憶測がある。
 前述した通り、今回使用された3つの薬は、薬殺刑に初めて使われるものだった。
 オクラホマ州のみならず、薬殺刑に使用される薬はこれまでヨーロッパの製薬会社のものが広く使われてきた。ところが今年の初めに、米国の死刑制度に反対するために、ヨーロッパの製薬会社は米国へ薬を輸出することが禁じられた。ヨーロッパで死刑制度が残っている国はすでになく、制度を維持する米国への批判の声は年々高まっている。
 海外から薬を調達できなくなり、新しい供給先を探したが、国内の製薬会社も薬殺刑に間接的に関わることに二の足を踏み、どこからも断られた。
 結局、死刑制度のある州が薬殺刑用の薬を、「コンパウンディングファーマシー(Compounding Pharmacy)」(米国独特の調剤薬局。州の許可さえあれば開店でき、薬をかなり自由に調合してくれる)に委託することになった。ここで扱われる薬は、米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けていなくてもいいのだ。
 衛生的にも、専門知識に関しても決して一級とは言えないコンパウンディングファーマシーで調合される薬は、不純物が混ざっていることが少なくない。ロケットに使用された新薬は、その純度に問題があり、そのため効かなかったという可能性もあるという。
*「薬殺刑を廃止し、銃殺刑の復活を」の声
 薬そのものだけでなく、薬殺刑自体にも様々な問題点がある。
 1890年から2010年まで米国で執行された薬殺刑の7%に何かしらの問題が生じている。他の死刑方法に比べると、断トツに高い確立だ。
 最も多いのは、薬物を注入する血管が見つからないという問題だ。2009年には、およそ2時間半にわたり医者が注入する血管を探し続け、死刑囚は針を刺される痛みに叫び続け、死刑は中止されるという事件があった。ちなみに、この死刑囚はまだ生きている。
 次に多い問題は、カテーテルが血管にきちんと入っていないため、筋肉や周辺の組織に流れ出すことだ。薬は効かない上、やはり激痛があるという。死刑囚は最終的には死亡するが、長時間苦しむ事例が報告されている。
 ヨーロッパからの薬調達ルートが絶たれてからは、新しい薬の反応が読めず、死刑囚が長時間苦しんで死ぬ事例もある。2014年1月にオハイオ州で行われた薬殺刑では、新薬に反応した死刑囚が20分間に及びもだえ苦しんで死亡した。死刑囚の遺族は州を訴えている。
 現在、死刑制度を維持している州は全米で32州ある。いずれも薬殺刑で執行している。この問題点の多い薬殺刑に対しては、現在2つの動きがある。
 1つは、薬殺刑に3つの薬を段階的に入れる方法がそもそも間違っているので1つの強力な薬で迅速に死に至らしめよう、という方向だ。すでに8つの州がこの方法を取り、他の州も検討し始めている。
 もう1つは、薬殺刑を止め、電気椅子での死刑か、銃殺刑を復活させようという方向だ。何十分も苦しむより、一瞬で死ぬ方が人道的だという主張である。ちなみにユタ州では10年前まで銃殺刑が続いていた。4年前にも銃殺刑で死刑になった囚人がいる。
 よく考えてみると、この問題には本末転倒の点、矛盾点が多く含まれている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの人がいみじくも言った。「結局、人を殺すのに正しい方法なんてないのさ」と。

 ◎上記事は[JBpress]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖
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【鼓動】執行薬物が入手難 米国で再燃する死刑議論
 産経ニュース 2014.5.24 12:00
 米南部オクラホマ州で4月下旬、死刑執行の薬物注射に失敗し、執行中に死刑囚が苦しみながら死亡する騒動があり、米国で死刑をめぐる議論が再燃している。各種世論調査では、米国民の半数以上は死刑制度に賛成しているが、「その数は年々減っている」(調査会社)という。死刑反対派は今回の騒動を「残酷すぎる」と非難し、執行方法の問題点を指摘することで廃止に導こうと躍起だ。(ロサンゼルス 中村将)
 「ベッドに拘束された彼は右足を蹴り上げた。頭を左右に振り、何かつぶやいた。その後、苦しみ、うめき声をあげた」。女性(19)を銃撃し生き埋めにして殺害するなどした罪に問われたクレイトン・ロケット死刑囚(38)の刑の執行に立ち会った地元紙の記者は、4月29日の様子について記している。
 オクラホマ州の死刑は、3種類の薬物を段階的に投与する方法で執行される。鎮静剤に続き、筋弛(し)緩(かん)剤を投与。最後は心臓を止める塩化カリウム剤という流れだ。今回は筋弛緩剤を投与した十数分後に異変が表れ、執行を中断したが、その後も苦しみ続けて心臓まひで死亡した。
 人権団体や死刑反対派から「拷問を与えた」と批判されたオクラホマ州のファリン知事は、「死刑は凶悪犯罪に対して適切な判断だと信じているが、執行手順はしっかりさせたい」と話し、死因調査に乗り出すと表明。州の刑事控訴裁判所も調査結果が出るまでの約6カ月間、死刑執行を停止することに同意した。
*「賛成」は減少傾向
 米民間団体「死刑情報センター」によると、全米で死刑制度を導入しているのは32州。残りの18州には死刑がない。2013年に死刑を撤廃したメリーランド州では、廃止を決めた時点で5人の死刑囚がいたが、いずれも執行を停止した。
 米世論調査会社「ギャラップ」が13年10月、全米の大人約1千人を対象に実施した調査によれば、約60%が死刑に「賛成」と答え、「反対」は35%。支持政党別では共和党支持者の約81%が「賛成」としたが、民主党支持者は約47%にとどまる。民主党政権のここ数年は、世論調査でも賛成派は減少傾向にあるという。
 ギャラップ社は、「冤(えん)罪(ざい)の発覚などもあり、死刑判決を受けても執行されないケースが増えている。06年以降、6つの州で死刑が廃止されたことも影響している」と分析している。
 米国の死刑は薬物による執行が主流だ。ただ、今回のケースでは新しい種類の鎮静剤が使用されたといい、ほかの薬物との併用で生じる危険性が事前に検討されることはなかった。鎮静剤を新しくしたのは、在庫が切れたためだった。
*被害者の苦しみは…
 AP通信によると、死刑執行に自社製品が使用されることを拒む国内外の製薬会社は多く、薬物は品薄状態が続いている。死刑に反対する欧州諸国の製薬会社は執行用薬物の供給を停止しており、米国の多くの州で薬物の変更を余儀なくされている事情もある。
 死刑反対派はこうした状況を追い風に死刑制度廃止を訴える。カリフォルニア州で刑事事件を専門に扱うコートニー・フェイン弁護士は「死刑判決が常に100%正確だとはかぎらない。オクラホマ州の騒動は残念な出来事で、死刑廃止に向けた全国的な議論に役立つと思う」と話す。
 一方、刑事司法財団のケント・シェイデガー法務部長は今回のケースは「特殊な事案だ」とした上で、「薬物注射による執行は確立された手法であり、ほとんどの場合、無痛だ。死刑囚が受ける苦痛は最小限に抑えるべきだが、その苦痛があったとしても、命を奪われた被害者の苦しみとは比べものにならないことを忘れてはならない」と死刑存続の意義を強調した。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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米南部、死刑に電気椅子復活 薬物入手が困難
 中日新聞 2014年5月24日 09時07分 
 【ニューヨーク共同】米南部テネシー州のハスラム知事は23日までに、薬物が入手できず薬物注射による死刑執行が難しい場合、電気椅子の使用を復活させる法案に署名、法律が成立した。米メディアによると、死刑囚が薬物注射と電気椅子を選択できる州はあるが、当局側が主体的に電気椅子を使えるのはテネシー州だけとしている。
 米国の死刑は薬物注射が主流だが、死刑制度に反対する欧州の製薬会社からの薬物入手が困難になり、不足している。独自の配合など試行錯誤を続けているが、ノウハウが不十分で薬物注射の際に苦しむケースが相次ぎ問題化している。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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◇ 死刑執行の薬物注射に失敗し、死刑囚が苦しみながら死亡する事故 米南西部アリゾナ州 2014.7.23 
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<米国アーカンソー州>駆け込み死刑執行2017/4/20 薬物期限迫り11日間で8人計画 注目される鎮静剤ミダゾラム 
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