文春の流儀 ⑮ 1998年発生の通称・和歌山カレー事件は、男性の独壇場と思われていた事件現場で、女性記者たちが…

2019-10-24 | 死刑/重刑/生命犯

文春の流儀 ⑮
 週刊誌と女性記者③ ホウ・レン・ソウ徹底  
木俣正剛
  中日新聞夕刊 2019/10/23(水曜日)
 1998年、和歌山市で発生した大量殺人事件、通称・和歌山カレー事件は、男性の独壇場と思われていた事件現場で、女性記者たちがすさまじい取材能力を発揮した事件でした。
 事件発生直後からメディアの注目を浴び、マスコミ陣が取り囲んでいた林真須美死刑囚の家に、一人で乗り込んだのが、文春の金子かおり記者でした。どんな取材でも手土産を持参することを習慣にしている彼女は、子どもたちへの手土産として「花火セット」をもっていったそうです。家に招き入れられた彼女に、林は「花火ありがとう。あなたはいい人そうだから、缶コーヒーあげるわ」。ただし、「青酸が入ってるかもしれへんで」。コーヒーを飲まないわけにはゆきません。一気に飲み干したそうです。
 当時も報道では大量殺人に使用されたカレーの毒は、青酸とされていました。あとになって、青酸ではなくヒ素と判明するのですが、ヒ素だということをスクープしたのも、金子記者でした(彼女は、林葉直子元女流棋士と中原誠永世名人の不倫、ジャニーズキャンペーン、菅直人氏の女性醜聞など、ほかにも話題の記事を連発しました)。
 事件報道が本格化したころ、神戸の事件で独占手記をとった森下香枝記者を中心としたチームを和歌山に投入しました。チームは基本3人。森下記者と、若い女性記者+若い男性記者。彼女たちが、ヒ素を飲まされた被害者を次々見つけ、独占インタビューに成功しました。
 ただし、女性の武器を使ったということはまったくありません。どんな仕事でも鉄則といわれるホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)を徹底していたのが、このチームの特徴でした。どんな細かいこともデスクに報告し、どの点の取材を詰めてタイトルにするのかを相談し、さらに、そのタイトルで書いて正しいのか、今度は部下と相談して、徹底的に裏付けをとる。その連続でした。
 チームの責任者、森下記者の報告はモーレツをきわめます。私は、締め切り前日は深夜、東京・赤坂の会社から横浜にある自宅まで、タクシーで1時間ほどかけて帰ります。その時、彼女から電話がかかってくると、ずっと報告です。家に着いて、妻に目で「先に寝てくれ」と合図をしながら、まだ報告を聞きます。
 ああ、もう携帯の電池が切れるなあと思ったころ、質問しても、返事がきません。報告すべきことを報道したら、疲れきったまま寝込んでしまったようです。
きまた・せいごう=文芸春秋元常務取締役。岐阜女子大副学長。

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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文春の流儀 ⑭ 両親は読み続け…そこから、ようやく「『少年A』この子を生んで」という雑誌史上まれに見る手記が完成したのです
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和歌山カレー事件が題材 帚木蓬生著『悲素』 ヒ素という秘毒を盛る「嗜癖の魔力」 毒は人に全能感を与え、その〈嗜癖〉性こそが問題 

   
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