「人の命ですよ！」特養が突然閉鎖 “終のすみか”追われ 問われる法人の責任 静岡市
2019/10/24(木) 20:31配信 テレビ静岡NEWS
施設の利用者や家族に送られた一通の文書。
『説明会のご案内。今後の施設利用に関しまして、法人としてお伝えしなければならない極めて重要な事項がございます』
送り主は、施設を運営する社会福祉法人「ライト」。愛知県岡崎市に本部を置き、静岡市内で3ヵ所の特別養護老人ホームを運営しています。
説明会で示されたのは…
（説明会の音声データ）
法人「人員の配置が不足しているために、十分な介護報酬が得られない状況。資金の手当てができなければ閉鎖せざるを得ない」
経営難で施設の閉鎖を検討しているとの内容でした。
突然の発表に職員は…
職員「何考えているんですか！人の命ですよ」 法人「だから…」 職員「だから何ですか？見栄じゃないですか！人殺しだよ！何だと思っているんですか利用者さんを！」
食事の提供もストップ
その後、職員の給与が期限内に支払われず利用者の食事の提供も滞るなど、事態は深刻さを増します。
利用者の家族「ちょっと信じられない。特養でこういうことがあるのかと思って…まさか自分の身にこういうことが起こると思わなかった」
静岡市も乗り出す事態に発展
利用者の人命が危険にさらされている。職員は一刻も早い受け入れ先の確保を静岡市に要望。
静岡市・田辺信宏市長「命にかかわる問題なので、入所者の安心安全を確保する」
市は事態を重く受け止め、利用者の転居の仲介に乗り出しました。
利用者受け入れに周辺の施設が乗り出す
杉村祐太朗記者「職員に見送られ施設を後にしていきます」
清水区の70代の女性は認知症を患い、4年前から施設を利用。この日、市が仲介して別の施設に転居することになりました。
職員「きょうからここで寝てもらいます」
女性「そうなの？」
職員「1回座ってもらっていいですか」
女性「ありがとうございます。みんな親切だね」
転居先の施設は定員いっぱいの状況ですが、この事態に追加で2人を受け入れることを決めました。
浜石の郷・梅原道夫施設長「これからどうしたらいいのか。家族も親をどうしたらいいのか困惑しているなか、福祉施設として動かないわけにはいかない」
静岡市に呼び出された法人は・・・
特別養護老人ホームを利用するのは、日常生活の多くに介護が必要な「要介護3以上」の人たちです。静岡市は法人を呼び出し今後について説明を求めましたが、法人から明確な答えは示されませんでした。
法人「市と協議して収束に向かっていきますので」
記者「収束というのは？」
法人「そのように考えてください」
記者「説明責任あると思いますけど」
法人「申し訳ありません」
そもそも法人は、閉鎖を検討する理由として経営難を挙げています。専門家は背景に、介護業界の人材不足があると指摘します。
静岡福祉大学・増田樹郎教授 「人員確保は、どの介護事業者にとっても死活問題。県内の介護職の養成施設も定員割れを起こし、事業者と連携を取っていくのが難しい状態です」
介護の人手不足は深刻
県によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年に県内で8000人の介護職員が不足すると予想されています。職員の数が少ないと、受け入れることができる利用者の数も限られ、収入が減り経営が悪化します。
2008年から2011年に相次いで施設をオープンさせた 無計画な急拡大が経営圧迫か
一方で専門家は、この法人の施設を作るスピードのはやさに疑問を呈します。「ライト」は2008年に2つの施設、2011年に残る1つの施設をつくりました。
増田樹郎教授 「どのように利用者の確保、スタッフの確保、運営上・経営上の見通しを持ってきたのか。2008年以降のツケがいま、法人経営に大きく重なってきたのではないでしょうか」
2年前に保育園も突然の閉鎖発表
ライトはこれまでにも、施設を突然閉鎖することがありました。 2年前、経営難を理由に三重県津市の保育園を3ヵ月後に閉鎖すると発表。一時73人の園児たちの受け入れ先が決まらず、混乱が広がりました。（その後他の事業者が園を引き継いだ）
残った施設は再利用すると話すライトの理事
ライトは、葵区にある2つの施設の職員に対し給与を支払った上で、10月末で退職するよう伝えました。これにより施設の運営は事実上休止される見通しです。 社会福祉法人ライト・土屋文章理事 「残った施設・建物土地含めて今後、社会福祉のために役立つ形で再利用する。市と話をして活用してもらうことをいま、最大限考えています」
利用者全員が退去した特養
「終のすみか」とも呼ばれる特別養護老人ホーム。
他の施設に転居し、異なる環境で暮らすことになった利用者や、突然職を失うことになった職員の今後にどう責任を持つのか？曖昧な回答はゆるされません。
最終更新:10/24(木) 20:31 テレビ静岡NEWS
◎上記事は[Yahoo！JAPAN ニュース]からの転載・引用です