危害及ぶおそれの子ども 全国に400人 「気づけなかったSOS ~川崎・男子生徒殺害事件~」

2015-03-13 | 少年 社会

危害及ぶおそれの子ども 全国に400人
 NHK NEWS WEB 3月13日 11時01分
 川崎市で中学1年生の男子生徒が殺害された事件を受けて、文部科学省が行った緊急調査の結果がまとまり、学校を休んでいて連絡が取れなかったり、学校の外のグループから暴行を受けたりして、命や体に被害が及ぶおそれのある子どもは、全国で400人に上ることが分かりました。
 この調査は、川崎市の事件を受けて同じようなトラブルに巻き込まれている子どもがいないか確認するため、文部科学省が教育委員会を通して全国すべての学校を対象に行いました。
 13日、事件を検証する特別チームの会合で結果が報告され、先月27日時点で7日以上学校を休んでいて本人と連絡が取れない子どもは232人、学校の外の集団との関係で命や体に被害が及ぶおそれのある子どもは168人で、合わせて400人に上ることが分かりました。
 具体的には、学校を休んでいて連絡が取れず、自宅に非行グループが出入りしているという情報がある生徒や、学校には来ているものの非行グループから暴行を受けたという生徒などがいるということです。
 内訳を見ますと、小学生は74人、中学生は243人、高校生は75人、特別支援学校の児童生徒は8人となっています。また都道府県別では、最も多かったのが大阪府で65人、次いで静岡県が60人、東京都が36人でした。
 一方で、12の県は「該当する子どもは1人もいない」と答えましたが、文部科学省は危険性の捉え方によって回答に差が出た可能性もあるとしています。文部科学省は今回把握した400人の子どもについて、安否確認を進めたり警察などと連携して、見守りの態勢を整えたりするよう教育委員会や学校に求めることにしていて、来月中旬までに改めて状況を調べることにしています。
 文部科学省の内藤敏也児童生徒課長は、「不登校や非行とされている子どもたちが本当に安全かという視点を大切にし、学校はもちろん関係機関や地域が一体となって同じような事件を防いでいく必要がある」と話しています。
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時論公論 「気づけなかったSOS ~川崎・男子生徒殺害事件~」
 2015年02月28日 (土) 午前0:00~ 寒川由美子 解説委員
 川崎市で中学1年の男子生徒が殺害された事件は、発生から1週間となったきのう、知り合いの少年3人が殺人の疑いで逮捕されました。
 このうち18歳の少年は「何も言いたくない」と話し、17歳の少年2人は容疑を否認しているということです。
 今回の事件では、被害者の友人の中に、異変に気づいていた人がいる一方で、学校など周囲の大人は、危機感を共有できていませんでした。
 事件の前のSOSになぜ気づけなかったのか、どうすれば気づくことができるのか、考えます。
 まず事件を振り返ります。
 今月20日の未明、川崎市の河川敷で、近くに住む中学1年生の上村遼太さん(うえむら・りょうた)が殺害され、きのう、知り合いの18歳の少年ら3人が殺人の疑いで逮捕されました。
 警察などによりますと、3人は地元の少年グループのリーダー格とその仲間とみられています。
リーダー格の少年を知る男性は「怒ると暴力をふるい、みんながおそれる存在だった」と話しています。
 上村さんは、去年の秋以降、このグループと一緒にいるところを頻繁に目撃されていました。
 知人などによりますと、グループは中学生から20歳くらいの男女10数人で、公園やゲームセンターなどで遊んでいたといいます。
 グループの中で年少の上村さんは、年上のメンバーから使い走りのように扱われる様子がみられたということです。
 その後、上村さんは暴行を受けるようになり、グループを抜けたいと話していたといいます。 
 警察は、上村さんが少年グループと行動をともにする中で、なぜ、事件に巻き込まれてしまったのか、詳しいいきさつを調べることにしています。
 少年犯罪に詳しい専門家によりますと、集団暴行やいじめなどがエスカレートする中でも、被害者が年少の場合、親元や地元から離れることができず、深刻な被害を招くことが多いということです。
さらに、加害者がグループの場合、被害者の気持ちより、周りの仲間の目の方に意識が向き、虚勢や強がりもあって引くに引けず、リーダーが止めない限り暴力などがエスカレートしていく傾向にある、と指摘しています。
 事件の容疑者は少年であるだけに、警察には慎重な捜査が求められますが、背景も含めた全容解明を進めてほしいと思います。
 殺害された上村さんは、おととし、島根県から川崎市の小学校に転校してきました。明るい性格で、好きなバスケットボールの練習に励んでいたということですが、中学校に入学して以降の行動には異変があったことが明らかになっています。
▼中学校のバスケ部の部活動には、去年の夏以降、来なくなりました。
▼去年の11月ごろからは、夜の公園などで少年グループと一緒にいる姿がたびたび目撃されています。
▼冬休みが明けたことし1月からは学校に登校してこなくなりました。
▼また、顔に殴られたようなあざがあるのを目撃した友人に対し、「先輩にやられた」と答えたということです。
▼別の友人には、「万引きを断ったら暴力を受けた」と訴えていました。
▼そして今月14日には友人に、インターネットの「LINE」を通じて「殺されるかもしれない」と連絡があったといいます。
  ところが、こうした目撃情報やメッセージは、学校を含む大人には伝わっていませんでした。なぜ、伝わらなかったのか。学校や家庭はどうしていたのでしょうか。
 川崎市の教育委員会によりますと、上村さんが登校しなくなってから、担任の教師は連日のように、母親の携帯や自宅に電話。家庭訪問にも5回、行きましたが、本人とは連絡がとれず、母親は「遊びに出ている」などと答えていたということです。事件が起きるまで30回以上、電話しましたが、母親とも連絡がとれないことが増えていったということです。
 この間、母親が上村さんの置かれた状況をどこまで把握していたのか、わかっていません。
 今月16日には本人の携帯電話の番号がわかり、担任が電話して「学校に来るように」伝えましたが、上村さんから詳しい話を聞くことは出来ず、状況を把握することは出来ませんでした。
こうした学校の対応について、教育委員会は、「生徒が苦しんでいる状況を理解できていれば、力になれたかもしれず、残念に思う」と話し、対応に問題がなかったか、検証するとしています。
 ここで疑問に感じるのは、本人や家族に連絡をとろうとした一方で、なぜ、クラスメートや生徒たちに話を聞こうとしなかったのか、という点です。
 学校は、担任の対応は指導通りだったとしていますが、電話や家庭訪問をしていたのは担任1人で、学校は報告を求めていませんでした。
 また、担任は、去年、上村さん本人から、遊んでいる友達は他の中学校の生徒だと聞いていたということですが、学校では、詳しい交友関係は、把握していなかったということです。
 もし、学校ぐるみで対応し、他のクラスや学校の生徒も含めて話を聞くことが出来ていれば、友人たちには本人の危機感が伝わっていただけに、何らかの危険信号を見抜くことができたかもしれません。
 もう一つ、大人に状況が伝わらなかった背景に、インターネットやスマートフォンの普及によって、子どもたちのコミュニケーションの方法が様変わりし、大人からは見えにくくなっていることがあげられます。
 上村さんも普段、スマートフォンなどでメッセージのやりとりができる「LINE」で友人と連絡を取り合っていましたが、こうした手段によって、子どもたちは別の学校や地域の子どもと簡単につながることができます。
 学校や親にはまったく見えないところで作られた関係の中でトラブルなどが起きても、見抜くことは難しいのが実情です。
 長年、子どもが抱える問題に携わってきた日本社会事業大学大学院 特任教授の山下英三郎さんは、子どもをとりまくこうした環境の変化によって、子どもと大人との溝はますます深まっていると指摘しています。
さらに、子どもを見守る地域社会のつながりも薄れている以上、それに変わる別の手立てが求められるといいます。
 山下さんが提唱し、自らも実践してきたのは、スクールソーシャルワーカーとしての活動です。
 家庭や学校のほか、児童相談所や警察の少年サポートセンターなど、様々な組織を結びつけ、子どもの置かれた状況に応じて対応にあたるのが役割です。
 現在、社会福祉士や臨床心理士など1000人あまりが各地の教育委員会に配置されています。
 事件があった川崎市にも、各区に1人、合計7人が配置されていましたが、今回の件でスクールソーシャルワーカーが動くことはありませんでした。
  学校から派遣の依頼がなかったからです。
そもそも、学校側がそこまでの危険性を認識していなかったため、依頼しなかったわけですが、ただ、こうした仕組みのままでは、効果的に役割を担うことができるかどうか疑問だと、制度を提唱してきた山下さんも指摘します。
 福祉などの専門家も多いスクールソーシャルワーカーが、子どもを多様な目でとらえ、主導的な立場で子どもたちの声を聞けるようにする。そうした仕組みであれば、今回も必要な組織同士がいち早く協力体制を作ることができ、事前の対処につながった可能性があります。
 被害者も容疑者も少年だったという今回の事件。
 子どもの姿が大人から見えにくくなっている中で、子どもの声をすくい上げには、大人の側が、より関心を持って子どもに働きかける。
 そうすることで、SOSに気づくことができる社会にする。それが、今回の事件が私たちにつきつけた課題であるように思います。 (寒川由美子 解説委員)

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