<法廷の窓> 困窮親子 幸せ見えず
中日新聞 2022年3月13日 日曜日
母親=当時(50)=に頼まれて首を絞め、殺害したとして嘱託殺人罪に問われた愛知県の無職の男(27)が昨年十月、名古屋地裁で懲役三年、保護観察付き執行猶予五年の判決を言い渡された。貧困にあえぎながら社会の片隅でひっそりと暮らしていた親子三人。公的な支援を受けないまま孤立を深め、あめ玉と水だけで四日間食いつないだ末に事件は起きた。
男と弁護人の法廷でのやりとり
弁護人「なぜ殺したのですか」
男 「母から何回も、泣きながら『殺してくれ』と懇願されたからです。生活が苦しく、食べるにも事欠くことが続いていました」
弁護人「生活保護などの制度を知っていましたか」
男 「当時は全く知らず、思い付きもしませんでした」
「こんなつらい役、任せてごめんね。ちゃんと殺してくれるよね」。昨年八月、愛知県内のアパートの一室。母親の頼みに男は指切りをして応じた。首を両手で絞めた後で自ら一一〇番して自首。逮捕された。
検察側の冒頭陳述や男の供述によると、一家は母親と男、七つ年下の弟の三人暮らし。男が中学生の時に離婚した母親は持病があり、無職だった。男は自動車部品工場などで働いていたが、コロナ禍の影響で失職し、仕事を探していた。
一家の毎月の収入は弟のアルバイト代と、実父から弟への月7万円の養育費、それに母方の祖父からわずかな援助。それでも月末になると、いつも食費が足りなくなり行き詰まった。
事件前も家賃の支払いなどで使い果たし、あめ玉と水でしのぐことに。母親は「死にたい」と訴え、壁に頭を打ち付けた。男が思いとどまるよう説得しても、母親は譲らなかった。2日後、男は犯行に及んだ。
母親はこんな言葉を残していたという。「今月どうにかなったとしても、来月また同じ思いをする。幸せなんか絶対に来ないよ」
判決の後、アパートを訪ねてみた。一家は周囲との交流がほとんどなかったようだ。事件当時の町内会役員は「同じゴミ捨て場を使うはずなのに、見かけたことはなかった。町内会に入っていれば、民生委員につないだりできたのに」。
男の祖父によると、実の娘である母親は離婚後、生活保護を申請したものの認められなかったことがあったという。祖父は数年間、一家に毎月約6万円を援助したが、男が高校を卒業する頃には貯金が尽きた。
事件の後も「(母親の)葬儀を出せず、荼毘に付しただけだった」と話す。今は男と暮らしているといい、目に涙を浮かべて言った。「親に反抗したこともない。優しい孫だ。お母さんも悪くない。でも、金がないばかりに『これ以上、生きていくと迷惑をかける』と言っていたそうだ」
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白 2022.03.13 Sun.〉
最愛の存在であるわが子を「殺人犯」にする母親。