『光市裁判』(インパクト出版会) 資料 |
1 はじめに 2 本件事件の一連の流れ 3 新たに判明した事実 |
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平成14年(あ)第730号 弁 論 要 旨 補 充 書 その3 最高裁判所第3小法廷 殿 被告人FTに対する殺人等上告事件につき、以下のとおり、弁論を補充する。 2006年6月16日 |
弁護人 安田好弘 同 足立修一 |
記 |
本件事案の真相・・・・被告人の上申書を踏まえて |
1 はじめに 被告人は、同人作成の弁論期日延期申請書(平成18年4月4日付)に記載しているとおり、平成18年3月初め、初めて本件事件の記録を閲覧する機会を得て、記録を精査すると同時に当時の記憶を喚起し整理する作業を行ってきた。 それは、被告人にとって、自分が犯した事実であるとはいえ、苦痛であり恐怖であった。しかし、被告人は、回避したり逃避したりすることなく、自分が犯した事実と正面から向き合い、事実の見直しの作業を行ってきた。その結果が、添付資料の被告人の上申書(平成18年6月16日付。以下、「上申書」という)である。 上申書は未だ完成しておらず、とりわけ、Yちゃんの首に紐を巻いて蝶々結びにした経緯など不分明な部分があるが、この上申書によって、多くの場面が明らかとなった。 以下、上申書に沿って、本件事案の真相を明らかにする。 |
2 本件事案の一連の流れ 上申書によれば、本件事案の一連の流れは、以下のとおりである。 (被害者宅訪問) ① 被告人は、排水管の点検を装って被害者宅を訪問し、Mさんに「トイレの水を流してください」と依頼したところ、Mさんに室内に招き入れられたため、トイレに入り、内側から鍵をかけて、点検を装った。 (被害者宅を一旦脱出) ② 被告人は、Mさんに嘘をついてしまったことや偽作業員であることがばれてしまうのではないかなどと考えて不安になり、落ち着くために、そっと、トイレから出て被害者宅を抜け出し、階段の踊り場でたばこを吹かし、再び、被害者宅に入り、トイレに閉じこもった。 (ペンチの借用と返還) ③ 被告人は、トイレを出て、Mさんにペンチを借り、再びトイレに戻り、ペンチでトイレのパイプを叩くなどして点検を装った。 ④ 15分くらいしてトイレを出て、居間で座椅子に座りYちゃんを抱いてテレビを見ていたMさんのところに行き、コタツの上にペンチを置き、「終わりました」と挨拶をした。 (Mさんに対する抱きつきとMさんの気絶) ⑤ 被告人は、無性にMさんに甘えたくなって、背後からそっとMさんに抱きついた。 ⑥ びっくりしたMさんが声を上げて身体を左右に揺さぶって立ち上がろうとしたため、被告人もバランスを崩し、二人して重なるようにして仰向けに倒れた。Yちゃんは投げ出された。 ⑦ 被告人は、パニックに陥ってMさんを、背後から両足を胴体にからめ、腕を首付近にからめて、スリーパーホールドの姿勢で抑えた。被告人は、誤解を解くため声をかけようとするが、声が出なかった。 ⑧ Mさんがスリーパーホールドのため気絶させられた。 ⑨ 被告人は、気絶しているMさんの身体を横に動かし、半身を起こし、予想外の出来事に呆然とした。 (Mさんの反撃とMさんに対する口封じ) ⑩ 被告人がMさんにいきなり背後から金属様のもので腰付近を殴られたため、反射的にMさんに体当たりするようにして覆い被さり、左手でMさんの金属様のものを持っている手を押さえつけ、右手で大声を上げるMさんの口付近を押さえた。 ⑪ その結果、Mさんは、ぐったりとして動かなくなった。 (ガムテープによる緊縛) ⑫ 被告人は、Mさんはまた気絶したと思った。それで、気絶からさめて再び抵抗されたら困る、ガムテープで縛って抵抗できないようにした上で、目を覚ますのを待って、Mさんに危害を加えるつもりではなかったことや、優しくしてもらったMさんに母親を亡くして寂しい思いをしている甘えから抱きついたこと、申し訳ないことをしたことを謝り、親には言いつけないで欲しいとお願いしようと考えた。 それで、被告人は、ガムテープを取りにトイレに戻り、トイレからガムテープとスプレー式洗浄剤を持ち帰り、ガムテープでMさんの両手を縛り、口を封じた。スプレー式洗浄剤は、Mさんが抵抗したときに目つぶしとして使うためであった。 (Mさん死亡の覚知) ⑬ Mさんがなかなか目を覚まさなかったため、被告人は、Mさんが気絶したふりをしているのではないかと疑った。それで、Mさんの目の前でスプレー式洗浄剤を噴霧するそぶりをしたり、カッターナイフをちらつかせたり、服を切ったりしたが、反応がなかった。 さらに、ブラジャーをずらしたところ、今度は、知らないうちにブラジャーが元の位置に戻っていた。このため、被告人は、やはり気絶したふりをしているのではないかと思い、それならば、いたずらをしてやろうと考え、乳房を触ったり乳首を口に含んだりした。しかし、反応がなかった。 それで、被告人は、鼓動を聞こうとしてMさんの腹部に耳をつけたが、鼓動は聞こえなかった。そのとき、被告人は、Mさんの下半身の方からの異臭に気付いた。被告人は、それが脱糞による異臭ではないかと思い、まさかと思って、Mさんのズボンのボタンを開け、チャックを下げ、カッターナイフでパンティの両端を切り、そこに脱糞を確認した。 これにより、被告人は、初めて、Mさんが死亡していることに気づいた。被告人の母親が自殺したときと同じ状態だったからである。 (Yちゃんをあやそうとして落とす、風呂桶に入れる) ⑭ 被告人は、驚愕のあまりうめき声をあげて立ち上がろうとした際、泣いているYちゃんに気付き、あやそうとして抱き上げようとした。しかし、うまく抱くことができずYちゃんを腰より下の位置からカーペットの上に落とした。 再びYちゃんを抱き上げ、あてどもなく歩いた。風呂場で風呂桶がベビーベッドに見えたため、いったん風呂桶の中にYちゃんを入れたが、むしろ泣き声が激しくなったため、直ぐに再び抱き、あたふたとして洗濯機の蛇口を開いたり閉じたりするなど意味のないことを繰り返した。 (Mさんの幻影を見る) ⑮ 風呂場を出ようとしたところ、居間の入口にYちゃんを抱いて立っているMさんの幻影を見た。被告人は、怖くなり、逃げようとして台所の窓を開け、外気を顔に受けて、幾分か落ち着きを取り戻した。 被告人は、Mさんの幻影が現れたのは、汚物を拭うことなくMさんをそのままにしておいたからだと思い、Mさんを綺麗にしてあげようと考えて、風呂場のドアに掛けてあったバスタオルを手にしてその端を水に濡らして尻の下に敷いた上でズボンを脱がしにかかった。 (Yちゃんを押し入れに入れる、Mさんを拭う) ⑯ その際、Yちゃんに汚物がついて汚れてはいけないと考え、被告人は、Yちゃんを上の押し入れに入れ、落ちないようにと思って戸を閉めた。 ⑰ それから、被告人は、バスタオルやティッシュペーパーでMさんを拭い、一旦、汚物とティッシュペーパーをトイレに流そうとして、トイレに向おうとした際、Yちゃんの泣き声が押し入れの中から聞こえたので、Yちゃんを押し入れから出してカーペットの上に置いた。 それから、トイレで汚物とティッシュペーパーを流し、ズボンとパンティーはバスタオルに包んで押し入れに入れ、Mさんの位置をずらして、トイレから持ち帰ったタオルで更にMさんを拭い、拭い終わった。 (Yちゃんに対する絞頚) ⑱ 被告人は、Yちゃんをあやそうと抱いて立ち上がったものの、まともに立っていることができないため、座り込んでYちゃんをあやそうとした。しかし、被告人は、自分でYちゃんを泣かせておいて、泣きやませようとしている自分を恥じ、ズボンの右ポケットに入れておいた紐を取り出し、右手に紐をくくりつけ、紐を引っ張ったりゆるめたりして自分を責め付けた。 ⑲ その後、被告人は、Yちゃんの首に紐を2重巻きにして蝶々結びにしているが、その状況については、何が何だかわからず、いまだにその詳細を思い出せないでいる。被告人は、Yちゃんを殺そうとは思っておらず、Yちゃんに泣きやんでもらいたい、静かになってもらいたいと思っている最中の出来事であった。 (Mさんに対する姦淫) ⑳ 被告人は、押し入れの端の柱に背をあずけて、呆然自失、放心状態になって座り込んでいたところ、半裸のMさんが目に入り、這ってMさんに近づき、Mさんを姦淫した。 以後、被告人は、MさんとYちゃんを押し入れに入れ、ペンチと財布とスプレー式洗浄剤を持って被害者宅を出て、3号棟に向かったのである。 以上の一連の事件の流れからも明らかなとおり、被告人は、 ① 強姦目的で被害者宅に入ったものではなく(もし、強姦目的であれば、トイレなどに入ったり、一旦被害者宅から出るなどの面倒なことをせず、端的に強姦行為に至っているはずである)、 ②Mさんを殺害しようとはしておらず(もし、殺害目的であれば、既にMさんが死亡しているにもかかわらず、ガムテープで手を縛ったり口を封じたりしているはずがない) ③ Yちゃんを殺害しようとはしておらず(もし、殺害目的であれば、わざわざ紐などを用いずに、端的に両手でYちゃんの首を絞めて殺害しているはずである) ④ Mさんに対する姦淫は死姦にとどまる(強姦目的であれば、何よりも最初に姦淫をしているはずである) のである。 |
2007/09/03up |
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