裁判員の死刑判断は妥当かアンケート 分かれる意見
NHK NEWS WEB 2019年5月20日 18時42分
裁判員制度が始まってからこの10年間で、裁判員裁判によって37人の被告に死刑が言い渡されました。裁判員が死刑かどうかを判断することが妥当なのか、実際に判断に関わった裁判員と補充裁判員14人にNHKがアンケートしたところ、意見は分かれています。
裁判員制度は、平成21年5月21日に始まってから21日で10年がたちます。
最高裁のまとめによりますと、この10年間に全国の裁判員裁判で55人の被告に死刑が求刑され、37人の被告に死刑が言い渡されました。
NHKでは、死刑が求刑された裁判で裁判員や補充裁判員を務めた人のうち、連絡先の分かる14人に電話や面談でアンケート調査を行いました。
「裁判員が死刑を判断することについて妥当だと思うか」を尋ねたところ、「妥当だ」と、「どちらかといえば妥当だ」と答えた人が8人、「妥当ではない」と「どちらかといえば妥当ではない」と答えた人が6人で、意見が分かれました。
「妥当だ」と答えた人では、東京地裁で補充裁判員を務めた50代の男性は「司法の判断と市民の感情とで、ずれることがあるので、死刑判決こそが市民の意見を入れる意味で大事だと思う」と話しました。
その一方、「どちらかと言えば妥当ではない」と答えた人では、鳥取地裁で裁判員を務めた50代の男性は、「自分はそこまで苦しまなかったが、裁判員の中には苦しむ人も絶対にいると思う。裁判員は有罪か無罪かだけを決めて、量刑は裁判官が決めれば裁判員の負担は少なくなると感じた」と話しました。
こうした精神的な負担について、14人のうち11人は「全く感じない」や「あまり感じない」、「当時から負担を感じなかった」と答えた一方、「大いに感じる」と「少し感じる」と答えた人は3人でした。
負担を感じないとした人のうち、京都地裁で裁判員を務めた30代の男性は「みんなで議論を尽くしたため、当時から精神的な負担を感じていない」と話したほか、東京地裁で裁判員を務めた30代の男性は「判決から時間がたったことが大きい」と話し、負担を感じないとした人は、判決に納得しているという人がほとんどでした。
一方で、負担を感じるとした人では、福岡地裁小倉支部で裁判員を務めた30代の女性は「正しい判決を出せたかどうか、自分で納得できていないため、今でも負担を感じている」と話しました。
東京地裁で裁判員を務めた60代の女性は「時間がたった今でも自分が出した判決は何だったのかと、ぐるぐると同じことばかり考えてしまい、落としどころがない」と話していました。
また、14人には「死刑制度を存続させた方がいいか、廃止した方がいいか」も尋ねました。
その結果、8人が「存続させた方がいい」か「どちらかと言えば存続させた方がいい」と答えた一方、「廃止した方がいい」か「どちらかと言えば廃止した方がいい」と答えたのは2人でした。
■裁判員の死刑判断めぐる議論
裁判員制度を導入する際、裁判員が死刑の判断に加わることについて、被告の生死に関わる判断は負担が重すぎるとして、死刑が求刑される事件は裁判員裁判の対象から外すべきだという議論がありました。
しかし、重い刑罰が科せられる重大な事件だからこそ、市民も入って慎重に判断すべきだとして、裁判員裁判の対象とされています。
この10年で、全国の裁判員裁判で55人の被告に死刑が求刑され、裁判員も加わった審理によって37人の被告に死刑が言い渡されましたが、裁判員が死刑判断に加わることについては、大きな議論にならないままです。
今月、最高裁判所が裁判員制度を検証する報告書を公表しましたが、この中でも死刑判断に関してはとくに触れられていません。
また、NHKが先月19日から21日にかけて実施した裁判員制度についての世論調査で、死刑制度の存続の是非について尋ねたところ、「存続させたほうがよい」と「どちらかといえば存続させたほうがよい」を合わせると、74%が存続を支持し、「廃止したほうがよい」と「どちらかといえば廃止したほうがよい」を合わせた18%を大きく上回っています。
1審の裁判員裁判によって死刑判決が言い渡された37人のうち、20人は死刑が確定し、このうち3人はすでに刑が執行されています。
■四宮教授「国民が参加すべき」
死刑判決に裁判員が関わることについて、裁判員制度の設計に携わった國學院大学の四宮啓教授は「日本が、死刑制度を維持している現在、裁判員として国民が参加するのであれば、死刑が求刑される事件は最も重大な事件なのでだからこそ国民が参加すべきだ」と話しています。
この10年を振り返って四宮教授は「裁判員制度がスタートした時、私は死刑判決がもっと減ると思っていた。死刑執行に関する情報があまりに少ないので、裁判員にとって二の足を踏むことになるのではないかと思ったが、死刑判決が出続けていて、衝撃を受けた。死刑制度が日本で続くかぎり、国はできるだけ死刑の状況を国民に明らかにすべきであり、裁判員に対してわからないことだらけの中で判断を求めるのはよくない」と話しています。
また、審理の進め方について「死刑だけは特別な刑罰で、取り返しがつかない。命を強制的に奪う刑なので、なぜ、犯行に及ぶような人格になったのかや、立ち直る可能性がないのかに関する情報などが証拠としてあまり調べられていないが、裁判員としては非常に気になる点になる。死刑以外の事件での刑罰の決め方と同じなのは、大きな問題だと思う」と指摘しています。
そのうえで、裁判員の精神的な負担については裁判所が設けている相談窓口の利用が少ないとしたうえで「裁判員を苦しめるのは、自分ひとりだけが悩んでいるのではないかという孤立感だ。現在の体制のように、困っている人を待つ形ではなく、強いストレスが予想される事件では、裁判官が積極的にカウンセリングの専門家を招いて、法廷での審理も傍聴してもらい、裁判員みんなで事件について語り合ってもらえるような制度も必要ではないか」と提案しています。
■大城弁護士「市民参加の意味ある」
裁判員制度への提言を行っている市民グループの代表を務める大城聡弁護士は「裁判員制度で市民が死刑に関わることで、死刑制度そのものの議論も進むのではないかと考えられていたが、この10年、議論が活発化することはなく、死刑制度もそのままの状況で裁判員制度が運用されてきた。裁判員制度の本質として、特に重い刑罰を科す場合には、市民も入った多様な視点から検討し、慎重に判断をするところに市民参加の意味がある。死刑が求刑される事件は、それに値するだけの重大な事件であり、裁判員裁判で判断されるべきだと思う」と話しています。
◎上記事は[NHK NEWS WEB]からの転載・引用です
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(抜粋) 裁判員制度の制度設計に携わった弁護士の四宮啓國學院大學法学部教授は「裁判員を務めることは、主権者としての国民一人一人の権利でもあり、義務でもある。国民が権利を行使し、義務を果たしやすい環境整備が、裁判所や雇用主にとっての課題だ」と指摘する。
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