郵政民営化見直しは再国有化、財政投融資の復活。 亀井大臣の狙いと危うさ

2009-11-03 | 政治
郵政“再国有化”竹中元総務相、激怒 米紙に寄稿「時計の針を10年戻す」
産経ニュース2009年11月3日(火)08:05
【ワシントン=渡辺浩生】竹中平蔵元総務相は10月29日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)に、鳩山政権による郵政民営化の見直しは密室で行われた時代に逆行する決定であり、日本を新たな「失われた10年」の低迷に追い込みかねない「脅威」だと、痛烈に批判する論文を寄稿した。
 竹中氏はまず、郵政民営化を見直す閣議決定によって、日本郵政は「事実上再国有化」され、「巨大な国営企業が日本につくり出された」と指摘した。
 そのうえで、世界最大の預金取扱機関の郵便貯金に銀行法の適用が除外される点について、「日本に統一的な金融規制が存在しなくなるということ」と批判。中小企業に「特別な配慮」をするとしていることは「事実上の財政投融資の復活」と述べている。
 政府は日本郵政を「政治的な利益供与」として活用し、「納税者の長期的な負担を増やす」ことになり、「時計の針を10年巻き戻すことになる」と批判した。
 さらに竹中氏は鳩山政権の民営化見直しをめぐる「不透明な意思決定」にも着目。小泉政権下では郵政民営化の決定が議事録を開示した1年にわたる「開かれた審議」を経て行われたと指摘し、対照的に鳩山政権では「過程も論拠も透明性がない中で、広範囲に影響が及ぶ決定が1週間でなされた」と批判した。
 一方、竹中氏は、亀井静香郵政改革担当相について「小泉時代の反改革運動の広告塔だった」と指摘。日本郵政新社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を起用した人事は、官僚の天下りをやめるという「民主党の選挙公約をないがしろにしている」と強調した。
 竹中氏は、見直し決定は「内閣の内部統制がいかに不十分か、経済改革に払われた関心がいかに少ないかを明らかにしている」とし、1990年代の長期低迷である「失われた10年」に苦しんだ日本を、「さらにもうひとつ(10年)」失わせる道へ乗せると警告した。
 竹中氏は小泉政権で郵政民営化担当相、総務相などを歴任した。現在は慶応大学教授を務めている。
--------------------------------
元大物大蔵次官を郵政社長に登用した亀井大臣の真の狙いと、その危うさ【町田徹コラム】
ダイアモンド・オンライン 2009年10月30日(金)08:40
 旧大蔵省で「10年に1人の大物次官」と呼ばれた斎藤次郎東京金融取引所社長を日本郵政社長に充てる人事に対し、批判の大合唱が起きている。
 大手の新聞各紙がそろって、「元官僚の登用は脱官僚依存という鳩山由紀夫政権の基本方針に反するはずだ」と社説で歯切れのよい批判を展開しているほか、竹中平蔵元総務大臣らもテレビの討論番組などで新政権の一連の郵政民営化改革が国有化を目指すものだと糾弾しているのだ。
 しかし筆者には、これらの批判が、問題の本質、つまり、この人事を断行した亀井静香郵政・金融担当大臣の意図を、理解していないのではないかと思えてならない。
 そして、この亀井氏の意図には、日本郵政だけでなく、政治全体を断ち難い怨嗟の連鎖に陥れる危うさがあるのではないだろうか。
西川氏辞任要求への改革派の批判は的外れ
 政府・日本郵政は10月28日、同社の取締役と臨時株主総会を開催して、経営陣の一新を決めた。
 賛否が分かれている第一のポイントは、鳩山由紀夫内閣が西川善文氏に日本郵政社長を辞任するように迫った点である。竹中平蔵氏は10月25日に民放の討論番組に出て、「異常なことが重なっている」などと批判した。小泉郵政改革を推進した人たちの間では、こうした論調が目立っている。
 しかし、この種の批判は的外れとしか言いようがない。というのは、西川氏は「かんぽの宿」のオリックスへの叩き売り疑惑で、野党時代の民主、社民、国民新の3党から特別背任容疑で刑事告発を受けていたからだ。加えて、西川体制はこの問題以外にも、三井住友カード、博報堂、日本通運などとの業務提携でも「出来レース」疑惑の指摘を受けている。社会的な批判の声も強かった。
 そうした中で、西川氏は“お仲間”で固めた取締役陣の支援を取り付けて居座ろうとしたことも記憶に新しい。9月の総選挙で政権交代が確実になって、鳩山首相が自ら辞任を促しても、なお、居座り続けたのだった。こう考えれば、西川氏の辞任自体は、「遅過ぎたけじめ」と言わざるを得まい。さらに言えば、今後、鳩山内閣には、これらの数々の疑惑の解明という使命も残されている。
 その一方で、竹中氏ら小泉郵政民営化の推進派だけでなく、新聞各紙もこぞって鳩山内閣を批判したのが、西川氏の後継人事の問題だ。大蔵事務次官経験者の斎藤氏が登用されたことに対して、各紙は社説で、「民から官へ、逆流ですか」(朝日新聞)、「『官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ』とした鳩山政権の政権公約の理念に背くのではないか」(同)、「元次官に郵政託す『脱官僚』」(日本経済新聞)、「政権の意に沿わない民間出身の西川氏を任期途中で追い出し、大蔵次官経験者を三顧の礼で迎え入れる。そんな組織が民間会社なのか。郵政民営化を撤回し、官業に戻すなら、そうはっきり説明するべきだ」(同)といった具合である。
 例外的に、今回のトップ人事を支持したのは、「今回、一転して大蔵OBの起用に踏み切ったことで、一貫性を欠くとの見方もある。だが、適材適所であれば元官僚といえども、起用をためらう理由はない」と論じた読売新聞ぐらいだった。
 しかし、斎藤氏の社長登用だけに目を奪われていたのでは、今回の人事の特色を見失いかねない。 ここで、日本郵政の経営陣の新体制を少し詳しく見てみよう。
財界の支持を取り付けた亀井大臣のバランス人事
 まず、目を引くのは、4人の副社長のうち、斎藤氏と同じ財務省出身の坂篤郎前内閣官房副長官補と、旧郵政省OBの足立盛二郎元郵政事業庁長官の2人の元官僚の存在だ。斎藤、坂、足立の3氏の存在は、日本郵政の新体制は官僚依存だとの見方を一段と強める効果があるのかもしれない。
 だが、実際のところ、官僚依存を印象付ける人事はここまでに過ぎない。残りの2人の副社長は、旧日本長期信用銀行(現新生銀行)元常務で経営コンサルタントの高井俊成氏と、日本経団連会長に御手洗冨士夫会長を輩出しているキヤノンの取締役である関根誠二郎氏だ。つまり、生粋の民間経済人である。
 ちなみに、御手洗会長は、かつて民主党が政権をとれば、辞任を迫られるのは確実とみられていた時期がある。ところが、最近は「日本の将来の発展を見据えて政治を大きく変えていこうという意気込みが十分に伝わってくるメッセージ性の高い所信表明だ。力強かった」と、鳩山首相の所信表明演説を高く評価してみせるほど。鳩山政権と経団連は急接近し蜜月関係になっている。
 財界関係でもうひとつ見逃せないのは、強引な指名委員会決定を演出した牛尾治朗・ウシオ電機会長らの社外取締役が今回、亀井郵政大臣から辞任を迫られて退職したのと対照的に、2人の大物財界人がちゃっかり留任している点である。この2人とは、社外取締役会長の西岡喬三菱重工相談役と、社外取締役の奥田硯トヨタ自動車相談役である。
 実は、早くから、小泉・竹中グループを中心に、「西川氏に退任を迫ることは、民主党政権と経済界の関係悪化を招く」との見方が流布されていた。が、この見方は見事に外れている。それどころか、亀井大臣(鳩山政権)は財界の支持を取り付け、西岡、奥田の両氏の留任を取り付けたばかりか、さらに2名を副社長に登用し、官僚出身者に質量とも負けないバランスの取れた幹部人事を達成しているといわざるを得ないのだ。
 さらに残りの社外取締役をみると、その多様さに驚かされる。岡村正日本商工会議所会頭(東芝相談役)、井上秀一NTT東日本シニアアドバイザー、松尾新吾九州電力会長、杉山幸一前三菱重工特別顧問、神野吾郎中部ガス代表取締役、入校太郎入交グループ本社代表取締役、渡辺隆夫西陣織工業組合理事長ら中央・地方の財界人が顔を揃えている。
亀井大臣の意図は明らかに「反自民、小泉・竹中、西川」
 加えて、作家の曽野綾子氏、原田明夫元検事総長、小池清彦新潟県加茂市長、石弘光元一橋大学総長ら各界の著名人や実力者が名を連ねている。社外役員の人数が増えたとはいえ、こうしたメンバーの出身分野などの幅広さは前体制とは比べ物にならない広がりを持っている。
 これら18人の取締役の布陣をみたとき、一目瞭然な亀井大臣の意図が、官僚依存や財務省重視などといった次元にないことは明らかだ。亀井人事のポイントは、「反自民」「反小泉・竹中」「反西川」という範疇に分類されそうな人脈を分厚く登用したことにある。
 一端を示せば、斎藤氏は自社さ連立政権時代に、大蔵省の接待不祥事の責任を負う形で異例の早期退任をした人物だ。足立氏は旧郵政省出身の参議院議員の選挙違反事件で旧郵政関係者から逮捕者を出したため、当時の小泉純一郎首相から辞任を迫られた。さらに坂氏も、当時の政権ナンバー2の竹中氏に公然と刃向かい、退職を余儀なくされた経緯がある。
 財界人・経済人をみても、「反自民」「反小泉・竹中」「反西川」のオンパレードだ。例えば、西岡氏は「かんぽの宿」の叩き売り疑惑の発覚後、佐藤勉前総務大臣が西川前社長のお目付け役として設置を迫った会長職を引き受けた人物だ。奥田氏は、日本郵政公社の2代目総裁に西川氏が内定した際に、その登用に不快感を示したことが関係者に知られている。総務大臣当時の竹中氏が、NTTの2011年の経営形態見直し(再分割)論議をセットしたことで、井上氏の所属するNTTは竹中氏に強い不信感を持つ。キヤノンも竹中氏との関係が良好とはいえない。さらに、学者として中立のはずの石氏も政府税調の会長当時、消費増税を主張し、竹中氏らに再任を阻まれた人物だ。
 亀井氏は現在、国民新党代表であり、旧自民党郵政族議員の重鎮と思われがち。だが、これは大変な誤解である。亀井氏は2005年当時、当時の小泉内閣の倒閣に動いて、自民党離党を余儀なくされ、国民新党に合流しただけで、本来的な意味の郵政族ではない。しかし、離党を迫った小泉氏への対抗心の強さはかなりのものだ。そして今回、小泉郵政民営化路線を修正するに当たって、心情面で「反自民」「反小泉・竹中」「反西川」の線で気心の知れた人脈を勢揃いさせたのが実態と言うべきである。
 ただ、こうした人事が罪作りなのは、日本郵政の人事や経営体制が報復の応酬の具になりかねないことである。そもそも小泉元首相が郵政民営化を決断するきっかけになった原点は、私憤・私怨に近い感情だったと推察されている。
 というのは、20代の青年だった小泉氏は父・純也氏の急逝を受けて、急きょ神奈川県南部の地盤を引き継いで、立候補。その選挙で、支持母体のはずの特定郵便局長たちの一部造反に遭って、落選してしまったのである。小泉氏はその後、大蔵族の政治家として歩み、反郵政の思いを募らせた。晩年、竹中氏や西川氏を重用する一方で、反対勢力を掃討し、郵政民営化を成し遂げたのだ。
 そして今、時代が巡り、政権を奪取した鳩山政権の亀井郵政・金融担当大臣は、「反自民」「反小泉・竹中」「反西川」の人事を断行している。これでは、日本の政治は、選挙の勝者が復讐を繰り返す怨嗟の連鎖に陥りかねない。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。