日本は即備えよ、中国海軍の脅威

2010-05-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

「日本は即備えよ、中国海軍の脅威」櫻井よしこ
『週刊新潮』2010年4月29日号 日本ルネッサンス 第409回
 4月10日、中国海軍東海艦隊の潜水艦、駆逐艦、フリゲート艦、補給艦、艦載ヘリなど10隻から成る多兵種連合編隊が、沖縄本島と宮古島の間を通過した。
「まさに威風堂々ですよ」
 中国海軍の大規模編隊が日本近海を初めて航行したその様子に、海上自衛隊の関係者が思わず呟いた。
 大艦隊の航行からその意図が読みとれる。注意深く見れば、興味深いことに気づく。中国が誇る最新鋭のキロ級潜水艦までが、浮上して中国国旗を翻しつつ航行したことだ。
 中国海軍の潜水艦を視認する機会など、これまでは殆どなかった。2003年11月に鹿児島県大隅海峡を 浮上して航行するミン級潜水艦が視認されたが、今回、中国の潜水艦を、しかも彼らの虎の子のキロ級潜水艦をしっかり見ることが出来たのは、恐らくそのとき以来だ。
 堂々と姿を現わしたこのキロ級を、中国はロシアから購入した。音が非常に静かで一旦潜ると探知するのが難しい。その分、日本、米国をはじめ諸国にとっては脅威である。
 中国は強大な米海軍力への対抗手段として潜水艦を重視してきた。06年には沖縄沖で訓練中だった米空母キティホークのわずか8キロ地点まで気づかれずに迫り、浮上した。その無言のメッセージは、「我々は気づかれずにここまで接近した。実戦ならば君たちはすでにミサイル攻撃を受け、空母は大破しているだろうね」ということで、米側に中国海軍の威力をいやという程、見せつけた。
 中国の潜水艦は、いまや、冷戦期の旧ソ連の潜水艦以上の脅威と受けとめられている。03年以来、米軍が冷戦時代の「対潜戦」を再び重視し始めたのは、急速に高まる中国の潜水艦能力を念頭においてのことだ。
 米軍に冷水を浴びせ、その空母をも足止めさせる威力を持つ潜水艦であれば、尚、その隠密性を維持しなければならないはずだ。にもかかわらず、彼らは、潜ったまま通過して差し支えない公海を浮上して航行した。なぜ彼らは潜水艦の軍事的特性である隠密性を犠牲にして姿を見せたのか。その理由を、中国側が珍しくはっきりと公表していた。
「常態化」を宣言
 4月10日の軍のメディア、「解放軍報」を読むと、疑問は氷解する。内容は直截(ちょくさい)かつ明確で、中国側が大規模艦隊を外洋に派遣した意図を日本はじめ周辺諸国に周知徹底させたいと考えていることが伝わってくる。
 以下、軍報の要旨である。
 ①東海艦隊の多兵種連合編隊は昼夜連続の対戦演習を実施したが、これは外洋艦隊活動の幕開けである
 ②今回の訓練は、参加兵力の規模の大きさ、時間の長さ、環境の複雑さ、いずれも近年稀なるものだ
 ③海軍司令部軍事訓練部の司令官は、外洋訓練の常態化、実戦化を推進すると明言
 ④中国海軍への艦隊ミサイル攻撃に対しては、電磁妨害及び火力攻撃によって各個撃破する
 ⑤中国海軍はまた、世論戦、心理戦、法律戦の三戦を実施する
 先述の疑問は⑤で氷解する。中国共産党は毛沢東の時代からこの「三戦」を実施してきた。彼らの唱える「法律戦」は、国際法及び国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、他国からの反発に対して反撃のための法的根拠を固めることだ。中国が尖閣諸島を中国領とする国内法を作ったのが、その一例だ。「世論戦」は中国の軍事行動への大衆及び国際社会の支持を高めるための作戦である。「心理戦」は相手国の軍人及び文民の士気を低下させ、中国軍への対抗心や戦闘意識を喪失させるためのものである。
 最新鋭のキロ級潜水艦の浮上航行は、日本国民と自衛隊に、中国にはかなわないと思わせるための示威行動だったわけだ。
 さて、解放軍報の報道でとりわけ重要なのが「常態化」である。今回彼らが行った外洋軍事活動を中国はこれからずっと行い続ける、大艦隊が日本近海を通り、或いは日本近海にとどまり、中国の国益拡大のために活動すると、宣言したのだ。
 現に艦隊には補給艦が含まれており、洋上補給を行っている。艦隊の外洋活動は長期間にわたると見るのが合理的であろう。
 このことは日本にとって何を意味するのか。中国艦隊は10日に沖縄本島と宮古島の間を通過したが、7日から9日までの間、東シナ海の中部海域で艦載ヘリの飛行訓練を行った。日本近海での軍事活動であり、当然、海上自衛隊は護衛艦2隻とP3Cを派遣し、監視体制を敷いた。すると、中国海軍のヘリが低空飛行で海自の護衛艦に異常接近した。その距離、わずか90メートル、高さは30メートルで、護衛艦のマスト近くに迫った。完全に侮っているのである。これが、世界第二の軍事大国にのし上がった中国の、現時点における実相である。そして、力のない国は、中国が以降、常に行うと宣言しているこの種の傍若無人の振舞いに耐え続けなければならないということだ。
日本がなすべきことは明らか
 ここに至るまでに中国がどれほどの軍拡を重ねてきたか。軍事情報が不透明なために、正確には把握出来ないが、日本の防衛予算がGDP(国内総生産)の1%未満であるのとは対照的に、中国は少なく見積っても3~4%である。中国の軍事費は発表数字の2~3倍と見られており、実際にはもっと膨大な予算が注ぎ込まれている。過去21年間、2桁の伸びを続けた中国の軍事費は現在、21年前の実に22倍に膨れ上がった。
 留意すべきは、この異常なる軍拡が明確な戦略に基づいて推進されてきたことだ。防衛政務官の長島昭久氏が指摘する。
 「1980年代に、小平の右腕の中国海軍提督の劉華清が長期戦略を打ち出しました。まず、沖縄諸島から先島諸島、台湾、フィリピン、ボルネオに至る線を第1列島線と定義し、2010年までにこの海域から米軍の影響力を排除するというものです。次に、2030年までに空母部隊を完成させ、小笠原諸島からグアム、サイパン、パプアニューギニアに至る第2列島線の海域の制海権を確立する。さらに、2040年までに、西太平洋とインド洋から米国の支配権を削ぐというものです」
 「中国はこの長期計画から外れることなく、人類史上、どの国も行ったことのない凄まじい軍拡に邁進してきた。それぞれの目標は、達成時期は多少遅れがちながらも着実に実現されてきた」と、長島氏は語る。
 日本列島が存在する西太平洋、日本の生命線であるシーレーンが通るインド洋を、確実に自分の海にするという大目標を具現化しつつある中国の前で、日本がなすべきことは余りにも明らかである。それはいま根本から揺らいでいる日米同盟を立て直し、日本の防衛力を強化する具体策を打ち出し、実行することだ。

沖縄県民以外の国民も「在日米軍が日本の安保に欠かせない」という認識を共有すること
独裁者の肖像 小沢一郎「天皇観」の異様〈中西 輝政京都大学教授


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