法相「答弁2つでいい」
2010年11月17日 中日新聞朝刊
柳田稔法相が地元選挙区での会合で国会軽視とも取れる発言をしたとして野党が16日に反発。自民党内からは参院に問責決議案を提出すべきだとの声も上がっている。
問題の発言は14日、広島市で開かれた「法相就任を祝う会」でのあいさつ時にあった。柳田氏は国会答弁について「法相は2つ覚えておけばいい。『個別の事案については答えを差し控える』と『法と証拠に基づいて適切にやっている』。これはいい文句だ。分からなかったらこれを言う」と語った。
この発言をめぐって16日の衆院法務委員会は紛糾した。自民党委員は「歴代法相への冒涜(ぼうとく)だ」と追及。「仲間内の話」とする柳田氏の弁明に野党側は反発し、審議が中断したため、柳田氏は「誤解を与える発言をしたことをおわびする」と陳謝した。
自民党の脇雅史参院国対委員長は記者会見で「問責に値するのではないか」と、問責決議案提出の可能性に言及。公明党の漆原良夫国対委員長も記者会見で「法相として情けない限り」と批判した。
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〈来栖の独白〉
官僚にとって、これほど御し易い大臣はいないだろう。この種のニュースで一番怯えるのは死刑囚だ。官僚が死刑執行の企案書を上げれば、弱味を抱えてしまった大臣は文句の一つも言わず、素直に判を押すに違いない。現内閣は、9月17日に発足している。
ところで、ゲンダイネット2010年11月17日の記事(後段)の中で
>「前任の千葉さんもそうでしたが(略)2代続けてこんな人物が大臣では法務官僚にナメられるだけです。政治主導は完全に空回りです」
と言われる政治評論家浅川博忠氏の発言については、少し異論を挿みたい。
私は千葉さんを、「こんな人物」と片付けてしまうことはできない。彼女は個人の信条と職務との間で、心底から悩み、よく踏ん張った。法務官僚の、大臣への絞めつけは、気楽な民間人の想像を遙かに絶して、きつい。彼女はその官僚に、強かに手を焼かせた、と私は思っている。
千葉さんとよく似た矛盾に悩んだ人が、米テキサス州にいた。以下の記事。
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The Death Penalty 死刑の世界地図〔3〕
Monday,October18,2010No.50〔朝日新聞グローブ〕第50号
米検事が語る「信念と仕事のあいだ」
死刑にかかわる人が、個人の信条と職務上の責務との間に矛盾をかかえたとき、どうするのか。それは、前法相の千葉景子が悩んだことでもあった。
米国で同じような難問にぶつかった人に会った。テキサス州初のアフリカ系地方検事、クレッグ・ワトキンス(42)である。
ワトキンスは、個人の信条として死刑には反対だった。一方で、数件の死刑求刑にかかわり、裁判所に対する死刑執行の申し立てもしている。
米国の地方検事は公選制。ワトキンスは弁護士などを経て、2006年にダラス郡の地方検事に選出された。
「州法に定められていることを履行していくのが私の役割だ。法の手続きが定められていて、その法の範囲の中である結論に達する。私の個人的な物の見方で物事が決まるわけではない」
個人的に死刑に反対するのは、「私個人のモラルと宗教的なバックグラウンドだとしか言いようがない」と話す。
「個人の信条が法との間で摩擦を起こした場合には、法に従うべきだ。個人的な思いを社会全体に押しつけることはできない」というのが持論だ。
一方で、ワトキンスは、テキサス州で死刑囚の多くの冤罪が明らかになったことを受け、ダラス郡内の死刑事件をすべて見直す作業も進めてきた。新たな死刑求刑をする場合は、複数の検事との話し合いの場を設けている。
「我々は人間である限り、間違う可能性はつねにある。20年後、DNAテストなど捜査技術や科学の発展で同じ事件をどう判断するかはわからない。立法府に問いかけるべきことは、間違いを起こす可能性がある中で、本当に死刑を履行する必要があるのかということだ」
就任から今までDNAの再テストなどで15人の被収容者を釈放した。「この事実だけで、死刑をもう進めてはいけないことを示唆しているのではないか。人の命を奪う前に一歩引いて考える方が賢明だ」。その言葉からは、信念を仕事に反映する姿も垣間見える。11月には再選をかけた選挙が控える。
「死刑は選挙の争点になるだろうが、誤審の可能性という現実を伝えていくだけだ。私は個人的に信じていることと法との間でバランスをとっている」
彼は、ダラス郡で約20年ぶりに誕生した民主党系地方検事だ。地元では、将来国政に打って出るのではとの見方もある。テキサス州はブッシュ前大統領の地元。共和党が強く、死刑廃止にも否定的な世論が強い。
「聞かれない限り、死刑廃止という個人的信条は語らない」。ワトキンスは、そんな慎重さも併せ持っている。(宮地ゆう)
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次に、私が教えられたマチベンさんの記事。転写させて戴きたいと思う。看過してはならない大切な問題についてエントリしていらっしゃる。そして末尾の
>だれ一人として・・・。つい、僕が間違っているのかとすら思ってしまう。
嬉しくなった。甚だ僭越ながら、私自身も、いわゆる「大多数」とは意見を異にすることが多いので、マチベンさんと似通った感覚(間違っているのか)に、よく陥る。
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【柳田法相軽率発言は、仙谷長官の司法介入より罪が重いのか】2010年11月18日 (木)
柳田稔法相が、自身の支援会にて、答弁には「個別の事案については答えを差し控える」と「法と証拠に基づいて適切にやっている」の2つを覚えておけば十分だと発言したことで、政局に一気に火がついた。国会軽視だと批判されて、辞任必至、場合によってはあれやこれや含めて内閣総辞職に至り兼ねない形勢のようである。いくら穴埋め人事だと言っても、起訴便宜主義の意味も答えられないような素人に法相を任せたのは法律家としては、これでいいんですかねぇという声が仕切りだった。
何も知らないので、「答えを差し控える」という逃げ文句を覚えて、法相って楽ちんねと思っていた本音が出て、足をすくわれたというべきだろう。
国会軽視であることは確実なので、野党が追及するのは結構なことだ。
しかし、僕は、国会の追及振りのアンバランスさに目がくらむ思いだ。
私的な場での軽率な発言よりもっと重大なルール違反がなぜ追及されていないのか。
内閣の事務を掌理する最高権力者が公の場で、未決着の個別の行政訴訟について、「行政訴訟になじまない」として行政訴訟で扱うべきではないとする見解を示した。
小沢一郎氏の行政訴訟に対して、仙石官房長官が記者会見で述べた見解だ。
行政の最高権力者の一人が、公の場で、個別の裁判の内容に踏み込んで意見を言う。これが裁判干渉でなくて何なのか。
個別事件については、裁判所・司法権が判断をする。何人からの干渉も受けない(憲法76条)。
仙石官房長官の発言が、憲法76条に定める司法権の独立を蹂躙するものであったことは明らかだ。
この発言に比べれば、柳田稔法相の発言などは、はるかに小さい問題だ。
司法がすべき判断に踏み込んで発言をするくらいなら、「個別の案件についてはお答えを差し控えさせていただきます」の方がよほど正当である。
仙石官房長官も、いやしくも弁護士であるなら、小沢一郎氏の行政訴訟について問われたときには「個別の案件についてはお答えを差し控えさせていただきます」と答えるべきだった。
仙谷官房長官の発言は、憲政史に残る司法干渉発言である。かたや、支援団体での軽率な失言である。
国会の追及の仕方、メディアの追及の仕方の落差の大きさに、僕は立ちすくむ。
多分、仙石官房長官の発言を批判することは、小沢一郎の肩を持つことにつながるとの打算から皆、口をつぐんだのだろう。
国会やメディアだけではない。憲法学者すら、だれ一人としてこの問題を司法の独立を蹂躙する問題として取り上げない。
つい、僕が間違っているのかとすら思ってしまう。いや、やはり間違っているのは世間の方だ。
この国の憲法のあり方は、一気に崩壊してしまうのだろうか。先行きが不安である。
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珍答弁連発の揚げ句「法相は2つ覚えておけばいい」と国会軽視発言
【政治・経済】
ゲンダイネット2010年11月17日 掲載
柳田法相 こんな男はとっととクビにしろ!
珍答弁、問題発言しか話題にならない困った閣僚がいる。柳田稔法相(56)である。
16日の衆院法務委員会で、柳田が地元で行った“国会軽視発言”が取り上げられ、謝罪に追い込まれた。
問題の発言は14日、広島市で開かれた「法相就任を祝う会」で飛び出した。あいさつに立った柳田は「法相は2つ覚えておけばいい。『個別の事案については答えを差し控える』と『法と証拠に基づいて適切にやっている』。これはいい文句だ。分からなかったら、これを使う」と言い放ったのだ。国会を、国民をなめているとしか思えない暴言である。
さっそく、自民党議員が法務委員会で「歴代法相への冒涜(ぼうとく)だ」と噛みついた。答えに窮したのか柳田は「仲間内の話だ」と逃げる。これに野党席から激しい野次が飛び交い、最後は「誤解を与える発言をしたことをお詫びする」(柳田)と陳謝する羽目に。
これでまたひとつ攻撃材料ができた自民はニンマリだ。「首相の任命責任は重い」(石原幹事長)、「これだけでも問責に値する。予算委でも追及していきたい」(脇参院国対委員長)と息巻いてみせた。あまりにも低次元の攻防ではないか。
しかも、「分からなかったらこれを使う」とか言いながら、余計なことを言ってしまう。柳田は過去の答弁で、こんなチョンボをしでかしているのだ。
「中国船衝突事件で、中国人船長の釈放の経緯を聞かれた法相は、いったんは『政治介入はなかった』と答弁した。ところが、繰り返し追及されると思わず『私が(釈放を)決める前に……』と口走ってしまい、『緊張して言い間違えた』と釈明したのです。その後も珍答弁の連続で、野党議員もあきれていました」(政界関係者)
要するに何も分かっちゃいないのである。この程度の人物が法務行政のトップだから、検察がやりたい放題なのだ。政治評論家の浅川博忠氏が言う。
「前任の千葉さんもそうでしたが、実行力もなければ答弁も満足にできない。菅政権は法相ポストを軽視しすぎですよ。2代続けてこんな人物が大臣では法務官僚にナメられるだけです。政治主導は完全に空回りです」
いつまでこんな無能男を法相にしておくのか。
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◆無名にして無能 柳田稔が法務大臣/この人が死刑執行命令を下す(のか)