光市最高裁判決と弁護人バッシング報道〔3〕自白調書から見える検察の意図 事件は少年法改悪に利用された

2007-07-20 | 光市母子殺害事件
光市最高裁判決と弁護人バッシング報道 安田好弘


〔1〕なぜ弁論に欠席したか  メディアによる殺せの大合唱  嫌がらせ電話にみる民衆意識
〔2〕検察が「凶悪」事件を作り上げた  裁判から疎外された被告人  鑑定書の示す事実
〔3〕自白調書から見える検察の意図  この事件は少年法改悪に利用された
〔4〕重罰化に向けて一気に踏み出した最高裁判決 メルトダウンする司法
〔5〕被告人を守るシステムの崩壊
〔3〕

自白調書から見える検察の意図

 彼の自白調書を見ていくと、最初は検察官の言うような自白などはしていないんですね。「片手
で首の辺りを絞めていたら奥さんは息をしなくなった」という言い方しかしていないんです。片手な
んです。鑑定書も片手としか書いていない。事件が起きたのは4月14日で、彼が逮捕されたのは
18日ですが、18日は、私は大声でわめき叫ばれたから、もう何とかやめさせようと思って片手で
首を絞めたら、相手が息をしなくなっちゃたと供述しているにとどまるのです。ところがその2日後
に警察調書ができるんですが、そこでは、両手で絞めたという話にいきなり変わるんです。そし
て、6日後に検察調書が出来るんですけど、そこでは、まず両親指で喉仏付近を指が白くなるほど
力一杯押さえたが殺害できなかったので、両手で全体重をかけて思いっきりしかも長時間絞め続
けたという話に発展させたわけです。
 もうおわかりいただけると思うんですけど、この殺害方法について警察と検察官が確定的殺意
の下に殺害行為を執拗に行ったという事実、凶悪な事実を作り上げたわけです。片手だけで首を
絞めたとなると、もう一本の手はどこにあって何をしていたのか、そして、両手ならまだしも片手し
か使っていないというのは、果たして殺意があると言えるのかどうか問題となるはずだったので
す。
 鑑定書には片手による扼頸の痕跡と書いてありますから、彼らは、鑑定書さえ無視したわけで
す。殺害方法からしてすでに事実と違うわけですから、彼の自白調書に出てきているその他のこ
と、つまり強姦目的で被害者宅に入り込んだとかいう話も、本当の話かどうか疑わしいわけです。
 同じことが子どもさんについても起こってきます。子どもさんの体重は約8キロです。彼は両手を
上げればその高さは1メーター80から90ぐらいになります。検察官の主張によれば、殺そうと思っ
て頭上から逆さまにカーペットの上に全力で叩きつけたとされていますから、子どもさんにはたい
へんな傷が残っているはずですが、頭に4つの皮下出血があるだけなんです。それ以外に傷が
ないのです。次いで、被告人は子どもさんの首を両手で絞めたとなっているんですが、その痕跡も
ないのです。さらに、首に紐を2重巻きにして交差させ、その両端を持って思い切り絞めたとされて
いるのですが、確かに子どもさんの首には紐が2重に巻かれて蝶々結びされていましたが、強く
絞めた痕跡は残っていないのです。
 逮捕時は、紐で縛ったという行為だけだったのが、8日後の検察官が作成した調書の中で、紐
で縛る前に、泣きやませるために子どもさんをカーペットに叩きつけ、その後、殺害しようとして両
手で首を絞めたという話が突然出てきて、さらに17日後にはカーペットに叩きつけたのは殺害す
るためであったと話を拡大しているのです。検察官の捏造以外の何物でもありません。
 面白いことが一つありまして、警察は被告人に、犯行の再現実験というのをさせるわけです。
どうやったのか、お前のやったとおりやってみろと言われて、動作で示させられる。そしてそれを
一つ一つ写真に撮られるんです。そこには、彼が投げ下ろしたといわれている写真もあるんです
けれども、その様子は、立っているんではなくて、片膝を立てて跪いており、その姿勢で、膝頭あ
たりの高さから子どもさんを床に落とすような形にしかなっていないのです。つまりその再現をした
後に、じつは頭上から投げ落とそうとしたという話が検察官によって作られた。従来の紐を首に巻
いたというだけでは残虐性が足りなかったため、頭上から床に投げつけて殺そうとした、そしてさ
らに両手で首を絞めたという話をねつ造したのですが、検察官は大胆というか杜撰というか、そう
いう矛盾した写真があることさえ見落としているんですね。法医の鑑定書もそうですね。完全に検
察官らがねつ造した事実と違っているのに、平然と出してきてるんですね。
 先ほども言いましたが、子どもさんについては、最初は、首を手で絞めたという話はなかったん
ですね。どうして、検察官はそのような話をねつ造したんでしょうか。彼は、たまたま紐をポケット
に入れて持っていたのですから、紐を使って子どもさんの首をl絞めたのであれば、当然、これに
先だって奥さんの首を絞めるとしても紐を使っているはずです。逆に言えば、奥さんの首は両手で
絞めたとされているのですから、当然に子どもさんも両手で絞めるのが当然でして、わざわざ子ど
もさんについてだけポケットから紐を取り出して絞める必要はないわけです。この不合理・不自然
の辻褄合わせをするには、子どもさんの首も最初は両手で絞めたとせざるを得なかったんです
ね。しかし、それなら、どうしてそのまま子どもさんを殺すことができなかったのかという疑問が生
じることになります。それで、検察官は、一旦、子どもさんの首が細かったものだから両手で絞め
ることができなかったという、理由付けをしたんです。しかし、髪の毛ならばいざ知らず、鉛筆だっ
て両手で絞めることができるわけですから、さすがに検察官も後にそれが不自然であることに気
付いたんですね。それで、さらに、被告人に、奥さんの首を力一杯両手で絞めたことによって指先
が固まってしまって、子どもさんの首を両手で絞めることができなかったと供述させて、さらなる辻
褄合わせをしたんですね。これが、事件が家庭裁判所から逆送されてきた後の最後の調書なん
ですね。逮捕から実に約1ヵ月半も経っているんです。でも、ほかの自白調書では、奥さんの首を
両手で絞めて殺してから、ガムテープを持って来て、それで奥さんの両手を縛り、口を封じたと供
述させられて、現実に奥さんの手と口にはガムテープが巻かれそして貼られていたわけですか
ら、もし指先が固まってしまっていたなら、このような作業ができるわけありません。結局、検察官
がねつ造した物語は、どこまで行っても破綻しているんですね。
 また別の視点からすれば、子どもさんは、11ヵ月なんですから、殺すつもりなら、わざわざ首を絞
めたり、紐で首を絞めたりしなくても、手で口と鼻を押さえればすむ話なんです。にもかかわらず
紐で首を絞めている、それは本当に殺す行為だったのだろうかという疑問が生じてきます。先ほ
ども言いましたとおり、子どもさんの首には紐が2重に巻かれ、しかも最後は蝶々結びで結ばれて
いました。ですから、彼がそうしたのは確かでしょう。ところで、子どもさんの首には2本の紐の痕、
つまり索条痕が残っていました。皆さんも、検察官が主張するとおり、紐を2重巻きにしてその両
端を思い切り引っ張ってみてください。腿であれば自分でできますから。すると、紐の両端を強く
引っ張れば引っ張るほど、索条痕は一重にしかつかないのです。なぜなら、2重目の紐だけが強
く引っ張られて皮膚を押しつけるものですから、一重目の紐が緩くなって皮膚から浮いてしまうん
ですね。つまり、2重の紐で2本の索条痕が残るには緩やかに紐を結ぶことが必要なんですね。
つまり、被告人は、子どもさんの首に紐を巻いたものの、その絞め方は実は緩やかだったんです
ね。彼は、現在、殺すために紐を巻いたのではない、泣きやませようとして紐を巻いたと言ってい
るんですね。紐を緩やかに首に巻き、しかもその両端を蝶々結びにしていることからすれば、彼が
言っていることは決して不合理ではないことがお分かりいただけると思います。
 ガムテープを使ったことも吟味する必要があります。検察官は、首を絞めてバタッと手が床に落
ちた後も完全に殺すためになおかつ首を絞め続けたと言っているわけです。普通首を絞めて人を
殺害するのには5分間は絞め続けないと駄目なんですが、それでも絞め続けたというわけですか
らおそらく5分以上締め続けたんでしょう。にもかかわらず、被告人がその後、ガムテープで手を
結び、口を塞いだというんです。これは一体どういうことなんでしょう。完全に殺すまで絞め続けた
と言いながら、その後、どうしてわざわざガムテープで手を縛り、口を塞いだのかという問題です。
誰だって、おかしいと気がつくはずです。彼が、ガムテープで手を縛った、あるいは口をガムテープ
で塞いだということは、彼は、殺害したとは思っていなかったからではないでしょうか。あるいは、
気絶しているだけだと思ったのかもしれない。いずれにしても、殺したというふうには確実に認識
していなかったことは確かじゃないですか。検察官がねつ造した筋書きはここでも破綻しているん
です。
 この事件は、検察官らによってねつ造されて、凶悪にして極悪非道、鬼畜にもまさる事件にした
て上げられ、マスコミを含めた一大キャンペーンが張られたわけですけれども、実はそういう証拠
というのは、これほど杜撰なものだったわけです。
 これらの検察官らによってねつ造された事実はどうなったのでしょう。驚くことに、第1審も控訴
審も、何の躊躇もなく、検察官の主張通りの事実を認めたんです。もちろん、弁護人も争いもしま
せんでした。弁護人が唯一争ったのは、強姦目的を持って被害者宅に行ったのではない、家に
入った後、強姦の故意を抱いて、被害者を襲ったんだと主張したんです。しかし、それでさえ、事
実と違っていたのです。彼が法廷で事実について聞かれたのは、1審、2審を通じて、1審の10分
間くらいのことです。その質問の中で聞かれたことは、問と答えで約20分間程度ですから、ほん
のわずかです。その中で、彼は、奥さんに対しても子どもさんに対しても殺すつもりはなかったん
だ、わけのわからないうちに相手の人が亡くなっちゃったんだというような言い方をして、殺意を
否認しているんです。しかし、被告人がそのように供述しているにもかかわらず、検察官も弁護人
も裁判官も、全員が、彼の供述に反応しなかったんです。その鈍感さは一体何なんでしょうね。
もっとも、最高裁の段階になって、そのことに検察官が気がつきました。検察官はこのように言っ
ているんです。控訴審の判決は、被告人が反省していると認定しているが、現に被告人は1審の
法廷で、否認しているじゃないかと。つまり否認しているということは反省していないことの何より
の証左ではないかと言っているんです。しかし、1審の論告あるいは控訴審では全然そこに触れ
ていないんです。つまり本人が法廷で否認したのが全部無視されてしまったわけですね。
 このように検察官の杜撰な捜査と事実のねつ造がはっきりしているにもかかわらず、弁護人も
裁判所も見落としてきた、というのが現実です。弁護人も裁判所もまったくあてにならない、という
のが今の司法の現実です。そういう前提の上で、彼に死刑がいいか悪いかを議論しているのが
今の実情なんです。 

この事件は少年法改悪に利用された

 検察官はこの子を死刑にしてやろうと思って事実をねつ造しました。この事件は1999年に起こり
ましたが、2000年に少年法は戦後最大の「改正」をやっています。16歳未満の子どもたちについ
ては基本的には刑罰で臨まないとしていたのを14歳に引き下げたのです。しかも、重大事件に
ついては、原則として子どもを刑事処罰するとしたのです。従来、少年に対しては「処罰」ではなく
「保護・援助・教育」であるとしていたのを、大きく転換したのです。そして、この事件は、その「改
正」の真っ只中であったわけです。検察はこの事件を凶悪な事件とすることによって、少年法の
「改正」を後押ししようとしたんです。それを1、2審とも全く見破れないまま、ここまできてしまった
のです。1審の裁判所、2審の裁判所が言っているのは、検察官が言うのはもっともだけれども、
しかし彼はやっぱり大人とは言えないではないか、この幼い子どもを死刑にするのはやっぱり忍
びないではないかと。彼は中学校1年生のときにお母さんを亡くし、そして母親の愛情や教育を
受ける機会を十分に得ることもなかった、少年に同情すべき事情もあるとして、1審は無期を宣告
したわけです。これに対して、死刑にせよという強い反発があったのも確かです。しかし、過去の
量刑基準からすれば、死刑になるはずのない事件でしたから、1審の結論は当然のことでした。
 控訴審でも、ともかく死刑にしなければならないというので検察がやったのが、彼の例の手紙で
す。ひどい内容の手紙であることは確かです。しかし、それは隣の房にいた子どもが、小説家に
なりたいという希望を持っていて、彼からすれば、死刑を求刑されるような事件をやった被告人は
関心の的であったわけです。文通の相手は被告人を偽悪的にもてはやします。そして、そのもて
はやし、挑発といってもいいのですが、それに乗せられて書いたのが例の手紙であったわけで
す。しかし、そういう個人的なてがみのやりとりが、そっくりそのまま検察の手に渡って、検察が
証拠請求してきたんです。検察官は、その手紙を盾にとり、裁判官と弁護士だけでなく被害者や
被害者遺族も被告人に愚弄されている、絶対に許すわけにいかないと声高に主張を続けたので
す。
 私からすると、どうしてあの手紙が検察官の手に入ったかというだけはでなく、どうしてあんな手
紙を発信することができたのか、ということが不思議でならないわけです。普通、手紙というのは
拘置所の職員が全部検閲しますから。彼らは非常に教育者的な気概を持っているというか、そう
いう役割を自負していますから、変なものはチェックして、口を挟んでくるんです。ときには郵送を
禁止したり、ここを削除しろ、書き直せと平気で干渉してくる。普通だったらあんな手紙を出せる
はずがないんです。被告人に対して、「何を書いているんだ」と、叱るのが当たり前なわけです。
ところが、それが一切ないまま手紙が通って、今度は堂々と法廷に証拠として出てきて、これほ
どひどい奴だという証拠になってくる。信書そのものが犯罪を構成しているわけではないのに、
刑事事件の証拠として採用されてしまうんですね。通信の秘密、通信の自由はどうなっているん
でしょうね。
 それでも、控訴審は、1審の無期懲役を維持しました。控訴審は事実関係については1審と同じ
く見落としをしてしまいました。あの手紙については、とんでもない手紙だけれども、しかし挑発さ
れて書かされた面がある、彼は更生の可能性があると判示するわけです。これも、死刑の量刑
基準からすれば当然のことでした。
2007,7,12up

2 コメント

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初カキコですm(__)m (mash)
2007-07-23 20:05:22
>PIさん

貴重な資料ありがとうございました。
もっともまともな指摘がなされているのは最後の100レス前後あたりからで、それまでは被害者のYさんの誹謗中傷ばかりでしたが…。

ちなみにこのスレは現在事実上スレスト状態になっていますが、いったいどうしたことなのでしょうか…。

>このサーバでは駄目らしいのだ。どうすべか、
返信する
2ちゃんねるですが (PI)
2007-07-21 08:12:41
光市の事件、裁判についてまともな指摘がされています。
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/wmotenai/1183144473/l50x
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