公営住宅で増える孤独死 遺品放置、部屋貸せず 名古屋市営住宅、独居高齢者が3割(中日新聞2016/9/23)

2016-09-23 | Life 死と隣合わせ

 中日新聞 2016年9月23日 朝刊
公営住宅で増える孤独死 遺品放置、部屋貸せず

   

  市営住宅の入居者の遺産相続人が名古屋市に家財道具などの処分を依頼する委任状
■10年超の例も、悩む自治体
 公営住宅で独居の高齢者などが死亡した後、家財道具などの遺品が相続人に引き取られず、長期にわたって入居募集が停止になる部屋が出ている。身寄りがなかったり、引き取りを拒まれたりするためで、十年以上放置されている事例もある。相続人全員の同意を得ずに処分する自治体もあるが、「完全に合法か自信がない」との声も。国の指針はなく、東海地方では自治体によって対応が分かれている。
 七十代の男性が孤独死した愛知県岡崎市の県営住宅の一室。たんすやテレビ台、衣類などが残されたままになっている。
 民法上、家財道具は相続人に所有権があり、処分は全員の同意が必要だ。死亡後、県は男性の親族と連絡を取り、処分の委任を受けた。ただ、ほかに相続人がいる可能性もあり、処分に踏み切れていない。
 愛知県営住宅では、独居の高齢者などが孤独死し募集停止になっている部屋が百四十五戸あり、うち約七割に家財道具が残っている。死亡後十年以上が経過している部屋や、外国籍の入居者が死亡し、戸籍などから親族をたどることすらできない事例もある。
 名古屋市は、一部の相続人の委任で処分を進めている。孤独死などがあった「事故部屋」でも単身者向けの倍率は十二倍に達する。担当者は「入居を希望する市民がいる以上、放置しておくわけにはいかない。費用や手間を考えれば、現実に即した対応だ」と話す。
 別の相続人が引き取りを申し出るか見極めるため、委任を受けてから処分するまで数カ月間を空けるなど、個別の事案ごとに進める。残った家財道具が原因で募集停止になっている部屋は約四十戸で最長で四年にとどまる。
 岐阜県は二〇一四年十月に死亡した六十代女性の部屋で今年二月に家財道具を処分した。戸籍などから三人の相続人の住所を特定し手紙を送付。返事があった一人の同意しか得ていない。担当者は「家族関係を加味し、全員の同意は不要と判断した」と説明する。
 トラブルを避けるため事前に対策を講じる自治体もある。三重県は、六十歳以上と外国人の単身者には、入居時に保証人とは別に家財道具を引き取る代理人の選任を求めている。ただ代理人の住居地、年齢などに制限はなく、担当者は「代理人が先に死亡するなどの問題が今後起きる可能性はある」と話す。
 残された遺品が理由で、未返還の部屋が増えている大阪府の要望を受け、国土交通省は八月、全国の自治体に家財道具が残った場合の対応を聞くアンケートを始めた。部屋から遺品を移動させ、別の場所で保管する自治体もある。集計を進めており、実態を把握した上で処分の指針を示すかどうか検討する。
■名古屋市営住宅、独居高齢者が3割
 名古屋市港区の約八十戸の市営住宅。一九六六年の建設で、入居者のほとんどが単身の高齢者だ。
 入居十五年近くになる男性(72)は三十年ほど前に離婚した。死亡後の家財の引き取りは、元妻と一緒に市外で暮らす二人の娘に頼んでいるが、「本当にやってくれるのか」と不安をのぞかせる。
 区内の別の市営住宅の男性(72)は老犬と暮らす。「死後に迷惑をかけたくない」と部屋になるべく物はためないようにしている。生涯独身で頼れる身寄りはいずれも六十代後半の妹二人。「順番通りに逝けると良いが…」と漏らす。
 市によると、三月末時点で市営住宅の六十五歳以上の単身世帯は一万五千戸。全体の三割近くを占める。市営住宅での孤独死は年八十件前後で、増加傾向にある。
 残された家財を倉庫などに移して保管する方法も考えられるが、移動の際に壊したり紛失したりする恐れがあるほか、保管料の問題も出てくる。市住宅管理課は「身寄りのない高齢者は増えている。法律と現実のはざまで、どこの自治体も悩んでいるはずだ」と話す。
■解決には法改正必要
 <日本相続学会副会長の吉田修平弁護士の話> 相続人は所有権だけでなく、引き取りの義務を負う。ただ自治体が相続人全員の同意なしに家財道具を処分すれば、所有権の侵害とみなされる恐れがある。入居時に相続関係を明らかにしてもらい、死後の処分をあらかじめ契約に盛り込む対策が考えられるが、単身の高齢者だけに特別な条件を設ければ「差別だ」との批判を招く可能性がある。抜本的な解決を求めるなら民法の改正や特別立法が必要だ。
 (社会部・立石智保)

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です


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