
中日新聞2009年1月4日
廃業したモーテルで新年を迎えたブラジル人の父親と子ども=3日、愛知県岡崎市山綱町で
景気悪化で職と住まいを失ったブラジル人家族が昨年末から、数年前に廃業した愛知県岡崎市山綱町のモーテルで生活している。「人命のかかった緊急事態」と無償で受け入れを決めたモーテル所有者は再使用の法手続きを先送り。市側は強い行政指導に踏み切っていないが「違法状態」とする中、入居者は「ほかに行くあてがない」と不安を抱えたまま新年を迎えた。
モーテルの建物提供は、所有者で愛知県西三河地方の日本人女性(41)が、知人の日系二世のブラジル人女性に打診して話が進んだ。愛知や岐阜、長野県などから希望が相次ぎ、審査をへて5家族19人が入居。「派遣切り」に遭った日本人の家族も近く入る予定だ。
モーテルは3階建てで、近隣のブラジル人支援者らが傷んでいた壁や床を修理。水道や電気を通し、家具を運び込んで、14部屋を確保。支援物資も次々と届いている。
愛知県内の大手電機メーカーの工場で派遣社員として働いていた日系二世のセルジオ・シバタさん(22)は昨年11月末に解雇され、妻と長女(3つ)の3人で移り住んだ。「娘にさみしい思いをさせまいとクリスマスだけは祝ったが、内心は年末年始の気分でない」と話し、週明けに求職活動を再開するつもりだが「まったく先が見えない」と語る。
市によると、モーテルは、開発に制限がかかる市街化調整区域にある。再使用には都市計画法に基づき審査を受ける必要があるが、数カ月かかり、防火や耐震設備など改造費も必要。市建築指導課は「手続きをしてほしいと伝えているが、人道上、是正指導はしにくい」と見て見ぬふり。
一方、ブラジル人の支援者らは、生活困窮者向けの福祉施設に用途変更して使用許可を得るため、NPO法人の設立も考えている。
地元住民からは「モーテルは小さな集落の一角にある。大勢の人が押し寄せ、事故や火事が起きたら誰が責任を取るのか。法を守った上で取り組むべきではないか」と困惑の声が上がっている。