
『イエスの実像』日暮晩夏著 幻冬舎刊
p255
「いいな、私が口づけする者が、その者だ、けっして間違うな」
ユダはそう言い放って、イエスに近づいた。
「師よ」
そう言いつつ、ユダはイエスに近づき接吻した。イエスは、ユダの問いかけに、
p256
「友よ」
と答え、その接吻を静かに受け入れた。二人の呼吸に一分の隙も乱れもなかった。
(中略)
「師よ」
と問いかけるユダに、イエスははっきりと、おそらくは万感の思いを託してユダに対し、
「友よ」
と答えているのである。おそらくこの言葉の背後には、イエスのユダに対する万感の(p257~)思いが込められていたはずである。私はそう思っている。考えてもみるがよい。一体全体この、
「友よ」
という言葉を、イエスはその人生において、ユダ以外のどの弟子に対して使用しただろうか。イエスがその生涯で、
「友よ」
と呼んだのはユダだけだった。そのことを考えれば、この言葉はある意味、イエスとユダの人間関係のすべてを白日の下にさらけだしている。そう言っていいと思う。
◎上記事は[『イエスの実像』日暮晩夏著 幻冬舎刊]からの書き写し(=来栖)
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