世界の流れに逆行する日本
川崎 哲(あきら)国際交流NGO「ピースボート」共同代表
「日本は核廃絶と言っているけれど、実際には核兵器が大好きじゃないですか。これでは、世界で真剣には受け止められませんよ」
これは、オーストラリアのエバンズ元外相が6月に来日した際に語った言葉だ。エバンズ氏は、日豪両政府が昨年立ち上げた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の共同議長を日本の川口順子元外相とともに担っている。日本のNGOが東京に招待したのだが、その際にエバンズ氏は日本の核政策を手厳しく批判したのだ。
批判のポイントは、日本政府が生物・化学兵器や通常兵器など「核以外の脅威」に対しても核兵器による抑止が必要と主張している点である。
オバマ米大統領は4月、「核のない世界」に向けて行動すると宣言した。「安全保障における核兵器の役割を減らす」とも述べた。政権周辺の専門家たちは、「核戦争に打ち勝つ」ことを想定した冷戦時代の核戦略は時代遅れであり、今後は核使用のシナリオを減らし、核の役割は「最小限の抑止」に限定すればよいと考えている。
しかし、それに待ったをかけているのが日本なのだ。安全保障を米国の「核の傘」に依存する日本は、「核兵器の役割を限定するような政策がとられると、日本の安全が脅かされるので困る」というメッセージを米国に対して送り続けている。
被爆国として核廃絶を訴えているはずの日本が、実は核軍縮の足を引っ張っている。米国では、「核の傘」がなければ日本は核武装するのではないかと心配する政治学者が少なくない。ワシントンの保守派は、日本が「核の傘」に固執していることを口実に「性急な核軍縮は進めるべきでない」と主張している。
私自身は平和運動家として、日本は「核の傘」から脱却し、平和憲法にのっとり予防外交を基礎とする非軍事の安保メカニズムを構築すべきだと考えている。「核の傘」が当面は必要だという考え方の人も多いだろう。だが、「核以外の脅威に対しても核が必要だ」などという主張に正当性があるかどうか、考えていただきたい。このような主張をしている限り、日本がいくら北朝鮮やイランなどの核疑惑国に対して核放棄を求めても、何ら説得力はない。
また、強大な米核戦力に依存し続けることは隣国中国に軍拡の口実を与え、日本の安全にはむしろマイナスではないか。そもそも、このような核政策を、国民はいつ政府に依頼したというのだろうか。
核廃絶への世界的な潮流が生まれている今、日本が議論すべき課題は「安全保障における核兵器への依存度をいかに減らすか」である。新しい政権には、この課題に真剣に取り組んでもらいたい。2009/09/02Wed.朝日新聞「オピニオン」
川崎 哲(あきら)国際交流NGO「ピースボート」共同代表
「日本は核廃絶と言っているけれど、実際には核兵器が大好きじゃないですか。これでは、世界で真剣には受け止められませんよ」
これは、オーストラリアのエバンズ元外相が6月に来日した際に語った言葉だ。エバンズ氏は、日豪両政府が昨年立ち上げた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の共同議長を日本の川口順子元外相とともに担っている。日本のNGOが東京に招待したのだが、その際にエバンズ氏は日本の核政策を手厳しく批判したのだ。
批判のポイントは、日本政府が生物・化学兵器や通常兵器など「核以外の脅威」に対しても核兵器による抑止が必要と主張している点である。
オバマ米大統領は4月、「核のない世界」に向けて行動すると宣言した。「安全保障における核兵器の役割を減らす」とも述べた。政権周辺の専門家たちは、「核戦争に打ち勝つ」ことを想定した冷戦時代の核戦略は時代遅れであり、今後は核使用のシナリオを減らし、核の役割は「最小限の抑止」に限定すればよいと考えている。
しかし、それに待ったをかけているのが日本なのだ。安全保障を米国の「核の傘」に依存する日本は、「核兵器の役割を限定するような政策がとられると、日本の安全が脅かされるので困る」というメッセージを米国に対して送り続けている。
被爆国として核廃絶を訴えているはずの日本が、実は核軍縮の足を引っ張っている。米国では、「核の傘」がなければ日本は核武装するのではないかと心配する政治学者が少なくない。ワシントンの保守派は、日本が「核の傘」に固執していることを口実に「性急な核軍縮は進めるべきでない」と主張している。
私自身は平和運動家として、日本は「核の傘」から脱却し、平和憲法にのっとり予防外交を基礎とする非軍事の安保メカニズムを構築すべきだと考えている。「核の傘」が当面は必要だという考え方の人も多いだろう。だが、「核以外の脅威に対しても核が必要だ」などという主張に正当性があるかどうか、考えていただきたい。このような主張をしている限り、日本がいくら北朝鮮やイランなどの核疑惑国に対して核放棄を求めても、何ら説得力はない。
また、強大な米核戦力に依存し続けることは隣国中国に軍拡の口実を与え、日本の安全にはむしろマイナスではないか。そもそも、このような核政策を、国民はいつ政府に依頼したというのだろうか。
核廃絶への世界的な潮流が生まれている今、日本が議論すべき課題は「安全保障における核兵器への依存度をいかに減らすか」である。新しい政権には、この課題に真剣に取り組んでもらいたい。2009/09/02Wed.朝日新聞「オピニオン」