【「強いアメリカ」志向は米国の閉塞感の表れ 日本独自の防衛を構想するよいチャンス】佐伯啓思2016/5/9 

2016-05-09 | 国際

産経ニュース 2016.5.9 08:00更新
【日の蔭りの中で】「強いアメリカ」は米国の閉塞感の表れにすぎない 京都大名誉教授・佐伯啓思
 民主政治というものにさして信頼を置いていないものからすれば、米大統領選にからむトランプ現象はさして驚くほどのものではないであろう。とはいっても、かくも平然かつ公然と民主政治の大衆化あるいはデマゴーグ化が現前で繰り広げられると、あまり心中穏やかというわけにもいくまい。トランプ氏の勢いは止まらず、共和党大統領候補の指名獲得は確実になった。民主党はヒラリー・クリントン氏が選出されるであろうから、実際にトランプ氏が大統領に就任するかどうかは不明であるものの、このかくも盛大な騒動は、それ自体が重要な意味をもっている。それはただトランプ氏の強烈な個性によるというだけではなく、それを生み出し、支える米社会の深い混迷を示唆しているからである。しかもそのことは日本にとっても決して無縁ではないからだ。
 人によっては、トランプ氏は大変に頭のよい現実感覚をもった人物であり、あの物議をかもす物言いも、実は計算ずくだ、という。その真偽は私にはわからないが、この人物の一貫したメッセージは明白で、米経済を立て直して「強いアメリカ」を再現する。そのためにはアメリカの得にならないことはしないというものである。移民政策やアジアへの関与はアメリカの得にならないならやめよという。
 ここには、これまで米大統領が曲がりなりにも掲げてきた、自由や民主主義の理想、世界秩序の牽引者という理想はない。世界秩序の構築や、世界を民主化するなどという理想などかなぐり捨てて、アメリカの現実的利益を優先するというむき出しの「アメリカ中心主義」である。もはや、自由主義の理想も民主主義の理念も多民族の共存という理想も語られない。そして、トランプ氏への支持とは、そのパフォーマンスは別にしても、この「アメリカ中心主義」への共感であろう。
 そこまで米社会の閉塞感が強まったともいえるし、この20年ほどのアメリカの世界への関与がもはやアメリカの利益には直結しない、という事情もある。確かに、自由・民主主義の世界化、安定した世界秩序の形成といった「理念」を取り払って、いわば本音をむき出しにすれば、米国内が不調なのに、なぜアメリカはアジアや中東に関与し、自由貿易の擁護者でなければならないのか、ということにもなろう。なぜ、アメリカがわざわざ日本を守る必要があるのか。いったい、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は誰の得になるのか、という本音が出てくる。この本音が公然と政治的公開性を帯びて語られることとなったのである。
 誰が大統領になるにせよ、米社会の混迷の深さをわれわれは知るべきである。日米同盟さえ維持すれば、日本の安全は保障される、という時代ではなくなりつつある。また、良好な対米関係を維持するためにTPPを実現するなどというわけにもいかない。不安定なアメリカの民主政治に攪乱されることのない日本独自の防衛や経済の循環構造を構想するよいチャンスでもあるのだ。
(京都大名誉教授・佐伯啓思 さえき けいし)

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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