中日春秋 2023・6・7
ロッキーという名の不良少年が罪を重ねて、やがてはギャングの顔役になっていく
▼悪の道での成功とはいえ、貧しい町の少年たちには、カネを手にしたロッキーが崇拝すべき英雄に映ってしまう
▼ジェームズ・キャグニー主演の米映画『汚れた顔の天使』(一九三八年)を思い出した。その容疑者も誰かにとってのロッキーなのか。著名人の裏話を暴露するユーチューバーとなって名と大金をつかみ、参院議員にも当選。芸能人らを脅迫したとして逮捕されたガーシーこと、東谷義和容疑者である
▼報道によるとユーチューブのチャンネル登録者数は一時、百万人を超え、広告収入は一億円以上あったそうだ。再生回数を増やすため人の弱みや隠し事を世間に公表するとはおよそ気分の悪いやり方だが、そこにひかれ、あるいは支持した人もかなりいたということか
▼大物への階段を駆け上がる様に驚きや小気味よさを覚えた人も少なからずいたはずだ。とすれば、である。言いにくいが、醜い華を産み、育てる土壌や空気がこの世間にもあったということなのだろう
▼ロッキーは逮捕され、死刑宣告を受ける。幼なじみの神父がロッキーに頼む。死刑の時は「泣き叫び、臆病者になってくれ」。ロッキーを崇拝する少年たちに幻滅させ、同じ道を歩ませないためである。逮捕で容疑者への一部の「あこがれ」がなくなればよいが…。
◎上記事は[中日新聞 朝刊]からの転載・引用です