名張毒ぶどう酒事件 「ずば抜けて不当」事実調べなく再審棄却 名古屋高裁 山口裕之裁判長 2017/12/8

2017-12-08 | 死刑/重刑/生命犯

名張毒ぶどう酒  「ずば抜けて不当」事実調べなく再審棄却
毎日新聞2017年12月8日 22時20分(最終更新 12月8日 22時36分)
 三重県名張市で1961年に女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件で、名古屋高裁刑事1部(山口裕之裁判長)は8日、収監先で2015年に89歳で病死した奥西勝・元死刑囚の妹、岡美代子さん(88)による第10次再審請求を棄却する決定を出した。弁護団が提出した新証拠28点全てを「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない」と退けた。【斎川瞳、野村阿悠子、横田伸治】
 奥西元死刑囚の死後初めての再審請求に対する判断は、証人尋問など事実調べがないまま出された。弁護団は来週に異議申し立てをする方針で、同高裁刑事2部で改めて再審の可否が審理される。
 弁護団は第10次請求の新証拠として、ぶどう酒瓶の王冠の封かん紙から、製造段階と異なるのりの成分が検出されたとの鑑定結果を提出し「奥西元死刑囚以外の真犯人が一度開栓して毒物を混入した後、貼り直した可能性がある」と主張した。混入毒物は確定判決が認定した農薬「ニッカリンT」ではないとの主張を補強するデータ、奥西元死刑囚の自白に基づく犯行再現実験で30人全員が失敗した結果なども出した。
 高裁決定はまず、犯行機会は奥西元死刑囚が現場に1人でいた約10分間のみ▽捜査段階の自白は十分信用できる--として、犯人性は揺るがないとした。
 その上で新証拠を検討した。封かん紙ののりの鑑定結果については「2種類ののりが存在したとは考えがたい」と退け、「事件から長い時間が経過し(弁護団の)実験で結論を導き出すのは合理的でない」と指摘した。
 毒物のデータは「事件当時の器具は入手不可能で条件の詳細も分からず、実験は何の意味も持たない」、犯行再現実験は「客観的な意味を持つとは考え難い」と判断した。
 岡さんは奥西元死刑囚が死亡した翌月の15年11月、第10次請求をした。決定を受けて記者会見し「裁判所はあまり調べずに悪い決定を出し、本当に残念でたまらない。兄はやっていません。皆さん助けてください」と訴えた。
 奥西元死刑囚にどう報告するか尋ねられ「やっていないのに悔しいなって話したい」と声を詰まらせた。
 鈴木泉弁護団長は「今までになく特異で、ずば抜けて不当な決定。証拠を無視し真実に向き合わない姿勢は明らか」と憤った。
 この事件に関する著作があるジャーナリストの江川紹子さんは「『本人も死亡しており、これ以上、手を煩わせるな』という裁判所の拒絶的な態度を感じる。重大事件の再審請求の判断は、裁判員裁判と同様に市民の目を取り入れる制度改正が必要」と指摘した。
 奥西元死刑囚の支援者らは8日午後、名古屋市中心部で支援署名を集めた。名古屋市中区の近藤洋史さん(54)は「裁判所はころころ判断を変えるから信用できない。奥西さんの気持ちを無駄にしない」と署名していた。
*「当然の判断」当時の捜査員
 事件発生直後に三重県警捜査1課の巡査部長として捜査に携わった菊池武さん(88)=津市=は名古屋高裁の決定について「当然の判断。奥西元死刑囚以外に犯人となり得る人物はいない。何を証拠に無罪を証明するのか知りたい」と語った。
 検視係として遺体や現場の状況を調べた菊池さんは「女性だけが倒れている凄惨(せいさん)な状況だった。懇親会に参加した男女が食べた物は同じだったため、毒物が盛られたのは飲み物だとすぐに確信した」と振り返る。事件の2~3日後、現場の公民館から、ぶどう酒瓶の王冠を自ら発見したという。【井口慎太郎】
*結論ありきの決定
 初の死後再審となった徳島ラジオ商事件の再審開始決定に関わった元裁判官の秋山賢三弁護士の話
 最初に結論ありきの不十分な決定だ。この事件は明確な証拠がそろった事件ではなく、無罪判決から死刑判決に変遷した経緯もある。裁判官は、それほど不安定な確定判決であることをよく認識し、もっと真摯(しんし)に新証拠と向き合うべきだった。
*請求棄却は妥当
 元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士の話
 再審開始には自白の核心部分を完全に否定するような客観的証拠がなければならない。封かん紙から異なるのりの成分が出たからといって自白の核心部分の信用性の否定にはつながらず、30人による再現実験も何ら意味をなさない。弁護側の主張は確定判決を揺るがすものではなく、請求棄却は妥当だ。
【ことば】名張毒ぶどう酒事件
 1961年3月、三重県名張市の公民館で開かれた住民の懇親会で、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒症状を起こした。奥西勝・元死刑囚が殺害を自供したとして逮捕されたが、起訴前に否認に転じた。1審は無罪としたものの、2審が逆転死刑判決を出し最高裁で72年に確定した。第7次再審請求で2005年に一度は再審開始決定が出たが、取り消された。第9次再審請求中の15年10月、奥西元死刑囚は収監先の八王子医療刑務所で89歳で病死した。

 ◎上記事は[毎日新聞]からの転載・引用です
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