中日新聞 2021年6月2日 水曜日
うつ告白 会見拒否は「自分まもるため」
大坂 全仏棄権
【パリ=共同】 女子テニスの大坂なおみ選手(23)=日清食品=が5月31日、四大大会第2戦の全仏オープン(パリ)のシングルス2回戦を棄権すると自身のツイッターで表明し「2018年の全米オープン以降、長い間うつに悩まされてきた」と告白した。金メダルが目標の東京五輪が約50日後に迫る中「少しの間、コートを離れる」とし、復帰時期には触れなかった。
同選手の関係者は1日、「ウインブルドン選手権(6~7月・英国)は五分五分だが、五輪には必ず出る」と強調し「その(五輪出場の)ために日本国籍を選んだんだから」と説明した。父がハイチ出身、母が日本人で米国在住の大坂選手は日本代表として五輪に出場するため、日本の法律で定められた国籍の選択に踏み切った経緯がある。
大坂選手は全仏開幕日の5月31日の第1回戦で勝利後、記者会見を拒否し、4大大会主催者側から大会追放の厳罰もあり得ると警告を受けていた。「パリでは既に弱気になり、不安を感じていて、自分を守るために会見をやめたほうがいいと考えた」と説明した。
大坂選手は選手の精神状態が軽視されていると訴え、大会前に全仏では会見に応じない意向を表明。一回戦後に罰金1万5千㌦(約165万円)を課され、違反が続けば他の4大大会でも出場停止となる可能性があった。「ルールの一部がかなり時代遅れだと感じたためで、それを強調したかった」と会見の義務には改めて反論し、「時期が来たらツアー(大会運営側)と協力して選手、報道機関、ファンにとって事態を改善するための方法を話し合いたい」とした。
アスリートも抱える心の悩み
核心
大坂なおみ選手が衝撃的な「うつ」の告白とともに四大大会の全仏オープンから姿を消した。同大会での記者会見拒否が物議を醸すと、シングルス二回戦をあっさり棄権。復帰時期も明らかにしておらず、体も心も屈強なイメージがあるアスリートも精神面での悩みと無縁ではないことが浮き彫りとなった。
■対話なし
「大会や他の選手、自分の健康にとっての最善はみんながテニスに集中できるように私が棄権すること。邪魔になりたいと思っていない」。大坂選手は五月三十一日、会見拒否の宣言と同じくツイッターでの投稿で、パリでの戦いに自ら幕を下ろした。
黒人差別反対運動で注目を集めた昨年の全米オープンでは「みんなが議論を始めてくれたら」と、根深い差別の解消に向けて自らの声で対話を呼びかけた。コート上の力強さに加え、優しい口調に秘めた言葉の力が大坂選手の魅力でもあった。だが今回は対照的に、大会側が求めた対話も拒否。大坂選手の関係者は「問題提起の仕方も良くなく、振り上げた拳を下ろすにはこれ(棄権)しかなかったのかも」と、おもんぱかった。
元NHKアナウンサーの山本浩・法政大教授は「(従来の)ルールに合わないことが今の時代はたくさんある。中立的に状況を聞く人を立てたほうがいい」と語り、4大大会の出場停止をちらつかせた主催者側の姿勢では解決にいたらないとした。
■光と影
華やかな活躍の影で、精神面で苦しむトップアスリートは多い。競泳男子で5個の五輪金メダルを獲得したイアン・ソープさん(オーストラリア)は10代からうつに悩まされ、引退後の2014年にはアルコール乱用の治療で入院も経験した。女子テニスで天才少女と騒がれた元世界ランキング1位のジェニファー・カブリアティさん(米国)のように、燃え尽き症候群に陥り、万引やマリフアナ所持などトラブルを起こした例もある。
国立精神・神経医療研究センターの小塩靖崇氏は競泳男子でスターだったマイケル・フェルブスさん(米国)がうつなどに苦しんだ経験を語ったことが、海外でのアスリート実態調査につながったと指摘。「影響力が大きい大坂選手が『自分の弱さ』を告白したことにより、日本でも調査が進むんじゃないかと思う」と述べ、選手が抱える心の問題をサポートしていく必要性を訴えた。
会見出席は選手の義務
📝 テニス4大大会の会見義務
4大大会(全豪、全仏、全米各オープンとウィンブルドン選手権)のルールブックによると、選手は負傷や身体的に不可能な場合を除き、勝敗にかかわらず試合後の記者会見に出席しなければならない。本戦出場選手は要請があれば開幕2日前の会見出席も求められる。違反すれば罰金は最大2万㌦(約220万円)。違反の場合はレフェリーが4大大会の監督責任者と協議し失格処分を科せること、繰り返しの違反は4大大会出場停止の可能性があることが、いずれも明記されている。(共同)
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
................
〈来栖の独白 2021.6.2 Wednes〉
「選手は試合だけ頑張っていればよい」というものではないのか。いや、「試合だけでよい」と私は思う。