死刑が消える世界 米国もボランティアだけに (JB PRESS 2018.7.17)

2018-07-17 | 死刑/重刑(国際)

アメリカ時事・社会
死刑が消える世界、米国もボランティアだけに
世界の潮流からオウム真理教の死刑囚7人の執行を考える
2018.7.17(火) profile 堀田 佳男 
 オウム真理教の麻原彰晃元死刑囚ら7人の死刑が執行された翌週、米アリゾナ州で1人の死刑囚が処刑される予定だった。
 「予定だった」と記したのは、スコット・レイモンド・ドジィエ死刑囚(47:以下ドジィエ)は死刑執行を免れたからである。
 日本とは違い、本人だけでなくメディアにも7月11日の死刑執行日が事前に告げられていたが、突然11月に延期された。
 ドジィエにいったい何があったのか。本件を追いながら、日米の死刑制度の違いや米国の現状を探る。
*麻薬売買にからみバラバラ殺人
 まずドジィエがどんな罪を犯したかというところから始めたい。ネバダ州で生まれたドジィエは5歳から7歳まで性的虐待を受け、10代の頃から麻薬の売買を行っていた。
 2001年7月に麻薬の売買にからむ人間関係のもつれから、1人の仲間を殺害。プラスチック製容器に遺体を入れて、アリゾナ州の砂漠に埋めた。
 翌2002年4月にも麻薬売買の仲間を殺害し、バラバラに切断した後、スーツケースに入れてネバダ州ラスベガス市郊外に遺棄した。
 最初の殺人事件では、2005年に懲役22年の有罪判決が下り、2件目は2007年に死刑判決が出された。
 上訴したものの2012年、ネバダ州最高裁は死刑判決を確定する。そして今年7月11日が死刑執行の日だったのだが延期されたというわけだ。
 ドジィエのことが米メディアの話題になったのは、オウム真理教の死刑関連ニュースが影響したからではない。
 第1の理由は、米国内にもEU(ヨーロッパ連合)が定めている基本権憲章「何人も死刑に処されてはならない」という反死刑の波が押し寄せているためである。
*反死刑に傾きつつある米社会
 また製薬会社が薬殺刑で使用される薬物を刑務所に販売しなくなっていることもある。米国内の流れは確実に反死刑に傾いているのだ。
 さらに米国では1976年以来、1418人が死刑に処されているが、ドジィエの処刑が行われる予定のネバダ州では過去12年間、死刑は行われていない。
 死刑が司法にとって最良の選択なのかの疑問は以前よりも強くなっている。
 米国は地方自治権が確立されているため、死刑という重要判断でも州ごとに捉え方が違う。
 2018年1月現在、死刑を認めている州はテキサス州やフロリダ州を含めて30州。認めていないのはミシガン州やイリノイ州など20州と首都ワシントン特別区である。
 認めている州でも、ネバダ州などは死刑囚が処刑を容認している場合に執行するという動きがある。「死刑を容認している」との表現は奇異に感じるかもしれないが、実際に処刑を求めるケースもある。
 「ボランティア」という単語が使われるが、死刑囚が自らの罪に向き合い、死刑を前向きに受け入れているのだ。
 首都ワシントンにある非営利団体「死刑情報センター」によると、約10%の死刑囚が死刑という司法判断に納得し、自らの死を受け入れているという。
*自らの死を受け入れる死刑囚
 実はドジィエの場合がまさにそうなのだ。
 日本では死刑囚にメディアの人間がインタビューすることはほとんどないが、ネバダ州の地元紙「リノ・ガゼット・ジャーナル」の記者が多くの質問をドジィエにぶつけている。
 「朝起きて、コーヒーを飲んでから絵を描いて、中庭に出るまで音楽を聴いています。中庭では受刑者たちとバスケットボールをしますし、体を鍛えてもいます」
 ドジィエは死刑囚としては例外と言えるほどの肉体美を誇る。刑務所内でのウェイトトレーニングの成果だ。死刑囚とは思えないほどの充実した生活のようにも思える。
 「私の人生はずっとアウトロー(無法者)だったから。いまは『あなたが殺したいというのなら、どうぞ殺してください』という心持ちです」
 すべてを達観したかのような言葉が紡ぎ出される。
 日本では死刑囚は刑務所ではなく拘置所に収監されるが、米国ではセキュリティの厳しい刑務所に入る。ドジィエがいるのはネバダ州にあるエリー州立刑務所だ。
 1日1時間、中庭に出る以外は横1.8メートル、縦3.6メートルの独房で過ごす。壁には友人や家族の写真が飾られ、自分が描いた絵も貼られている。棚の上には小さなテレビもある。そして小さな窓がベッドの横にある。
 「とにかく刑務所は退屈です。退屈と思うことがもうすでに精神が弱っている証拠ですね」
 そんなドジィエが「ボランティア」で死刑を受け入れるまでには長い時間が必要だった。
*生きていることが家族を不幸に
 「最初の頃は心の準備ができませんでした。自分を納得させるまでに、ずいぶん時間がかかりました。いまでは心が落ち着いています」
 「もう一つ、容認している理由は子どや家族のことを思うと、(罪人が)刑務所にいるのは決していいことではないからです。それが死刑を受け入れる理由になりました」
 ドジィエの処刑が延期された理由がある。それは薬殺刑が行われる際の薬物を製薬会社が販売しなくなっているからだ。
 これまでは鎮静睡眠薬であるペントバルビタールという安楽死に使用される薬物が使用されてきたが、刑務所が入手できないことで他の薬物を使うことになった。
 ドジィエの場合、疼痛緩和剤で麻薬指定もされているフェンタニルという薬物の使用が予定されていたが、これまで死刑執行で使われたことはない。
 つまりドジィエはフェンタニルによる動物実験的な意味合いで処刑されるという運命になったわけだ。
 「いくら死刑囚であっても実験的に使用すべきではない。それではモルモットだ」という人権団体からの批判を受けて、裁判所が死刑執行の延期を決めた。
*死ぬまで刑務所という懲罰
 米国の場合、少女の強姦殺人事件などでは被告に懲罰的な量刑として、終身刑ではなく数百年から千年超の刑期を言い渡されることがある。
 恩赦が与えられない場合がほとんどなので、死ぬまで刑務所にいることになる。司法の立場としては、こうした人間を社会復帰させることは極めて危険との判断がある。
 さらに一般的な刑罰だけでは不十分で、懲らしめる意味で長期間の量刑を与えてしかるべきとの考えが背後にある。
 ドジィエは再審請求をしていない。多くの死刑囚は再審を求めているが、ドジィエのように、自ら進んで死刑を選択する受刑者もいる。
 「ボランティア」として死を前向きに選ぶべきなのか、それとも倫理的に死刑が本当に市民社会に相応しいものなのか、疑問は残ったままである。

 ◎上記事は[JB PRESS]からの転載・引用です
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