暗雲いまも 地下鉄サリン20年 (4)変身願望、付け入るすき

2015-03-22 | オウム真理教事件

2015年3月21日 中日新聞 朝刊
<暗雲いまも 地下鉄サリン20年>(4) 変身願望、付け入るすき
 このままではいけない、と焦っていた。「マインドコントロールでもかけて、自分を変えてほしい」。埼玉県の男性(25)は、そう思い詰めて一昨年、オウム真理教の元幹部が設立した団体「ひかりの輪」に入会した。
 二〇〇八年春に大学に入学。すると一カ月もたたないうちに突然、大学や街で動悸(どうき)が激しくなり、涙が止まらなくなった。人前に出るのが怖い。医師の診断はパニック障害。原因が分からないまま、夏に退学した。
 同居していた父親から「働いた方がいい」と言われ、アルバイトを始めた。でも、症状が出て数カ月しかもたない。職を転々とするうち五年が過ぎた。
 地下鉄サリン事件があったのは小学校に入学する前で、生の記憶はほとんどない。インターネットで、ひかりの輪とオウムの名は知っていた。ただ、同一団体と思っていた。
 サリン事件の詳細を知っても「あれだけの事件を起こした団体なら、自分を変えてくれるんじゃないか」としか考えられなかった。
 週一回の勉強会と、寺院やパワースポットを訪ねる「聖地巡り」に参加した。求めていたマインドコントロールはなく、パニック障害は薬で治癒に向かっている。友人ができ、前向きな気持ちになれた。定職も見つかったいま、こう言う。
 「人生が順風満帆だったら、ひかりの輪には参加しなかった」
 オウムの流れをくむ団体はもう一つある。公安当局によると、後継団体「アレフ」に一昨年入信にした北日本の二十代の男性は、最初、繁華街で一組の男女から「ヨガサークルの無料モニターになりませんか」と声を掛けられた。
 興味を引かれ、参加すると伝えると、入会の手続きとして十回の講習を受けるよう求められた。ファミリーレストランで受けた講習では「ヨガの先生」を名乗る男が「ヨガは人生を変える」と説いた。
 そのうち「地下鉄サリン事件はオウム(の仕業)ではない」「マスコミを信じるな」といった主張を始めた。一連の講習の後で「実はアレフです」と明かしたが、男性は「先生が勧めるなら」と入信したという。
 サリン事件の前から信者の脱会活動をしてきた滝本太郎弁護士(58)は、両団体の勧誘活動を「誰にでもある変身願望に付け込んでいる」と批判する。二月にアレフから脱会させた元信者は、オウム真理教元代表の麻原彰晃死刑囚(60)=本名・松本智津夫=の写真を持ち歩いていたという。
 「サリン事件を起こしたのは極悪人集団ではなく、まじめな信者たちだった。事件が起きた背景を社会で共有し続けなければ、カルト宗教はまた少しずつ広がってしまう」。滝本弁護士は警告する。
 ◎上記事の著作権は[中日新聞]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
暗雲いまも 地下鉄サリン20年(5)社会不信、閉鎖世界へ
暗雲いまも 地下鉄サリン20年(4)変身願望、付け入るすき
暗雲いまも 地下鉄サリン20年(3)異例の判決 林郁夫受刑者に無期懲役判決を言い渡した山室恵さん
暗雲いまも 地下鉄サリン20年(2)後遺症に目を向けて
暗雲いまも 地下鉄サリン20年(1)事件の教訓得たか サリン製造した中川智正・土谷正実死刑囚らに面会
............


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。