暗雲いまも 地下鉄サリン20年(5) 社会不信、閉鎖世界へ

2015-03-22 | オウム真理教事件

 2015年3月22日 中日新聞 朝刊
<暗雲いまも 地下鉄サリン20年>(5) 社会不信、閉鎖世界へ
 オウム真理教に入信した若者たちは、社会への不信から閉鎖的な世界に足を踏み入れた面がある。
 「せっかく東大に入ったのに、コンパばかり」
 オウム真理教元幹部の野田成人(なるひと)さん(48)が兵庫県から上京して赤門をくぐったのは、バブル景気が兆した一九八五年。合コンに恋愛、軽い話題ばかりの同年代。マスコミは連日、株価や地価の高騰を報じた。「人間、このままで幸福になれるのか?」と疎外感を募らせた。
 精神世界に興味を抱き、書店で麻原彰晃死刑囚(60)=本名・松本智津夫=の著書を手にした。人が生死を繰り返す「輪廻(りんね)転生」と、そこから抜け出す「解脱」という言葉に、「生きていることの意味を正面から問われた気がした」。麻原死刑囚のヨガ道場に通い、大学三年で入信。「すべての人類を救済する」壮大な理念にひかれ、「物質的豊かさを追う社会」に疑問を持つ仲間と出会った。
 オウムの主要事件では刑事責任を問われず、二〇〇七年に後継団体アレフの代表に。〇九年に除名され、いまはNPOでホームレスの自立支援などに取り組んでいる。
 特殊な世界に身を投じ、自分や社会を変えようとする。そんな発想を持つ若者は今も昔もいる。
 昨年十月、二十代の大学生が「イスラム国」(IS)に参加しようとして、警察の事情聴取を受けた。
 元自衛官の鵜沢佳史(うざわよしふみ)さん(26)=東京都=は二年前、ISと敵対するシリアの反政府組織に加わった。小学生の時にいじめを受け、「自分をぶっ壊したい」「戦場に行きたい」と思うように。中学卒業後に自衛隊に入り、さらに農業大に入り直し有機野菜の販売を始めたが、いずれも「手応えをつかめなかった」。
 シリアに渡ったのは「戦地で自分を突き詰めたい」と考えたから。砲撃で重傷を負い、二カ月後に帰国した。自ら戦闘に参加したことを非難する声にも、「戦地の実情を知ることができた」と後悔はない。さらに、日本の社会を「異質なものを受け入れようとしない。予定調和的で閉鎖的」と批判する。
 オウム取材を続けるジャーナリスト藤田庄市さん(67)は言う。「個人が孤立化を深め、閉塞(へいそく)感は強まっている。社会に受容力がなく、いじめや自殺もなくならない。オウムを生んだ土壌は残っているのではないか」 =おわり
(この連載は東京社会部の瀬口晴義、加藤文、北川成史、土門哲雄、清水祐樹、大平樹、中山岳が担当しました)
 ◎上記事の著作権は[中日新聞]に帰属します
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