口蹄疫:宮崎・都城で感染疑い 陽性、肥育牛208頭を殺処分 鹿児島、県境道を封鎖
農林水産省と宮崎県は10日、都城市高崎町の農家で家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)特有の症状を示していた肥育牛の遺伝子検査の結果が陽性を示し、感染疑いを確認したと発表した。日本最大級の畜産地帯である都城市での感染疑いの確認は初めて。県と都城市は同日未明、農家が飼育する208頭すべての殺処分を約2時間で終了、隣接地への埋却を進めている。一方、隣接する鹿児島県は10日、伊藤祐一郎知事が「準非常事態」を宣言。宮崎県境の一般道路を封鎖して車両通行を幹線道路に限定し、徹底的に検疫を集中させる意向を示した。
県と市は10日夕、この農家を中心に、家畜を動かせない移動制限区域(半径10キロ)、運び出せない搬出制限区域(同10~20キロ)を設定する。既にJA組織を通じて周辺農家には移動自粛を求めている。周辺道路を封鎖し、消毒ポイントも増設する。移動制限区域内にあるJA系列の食肉処理場も稼働を停止した。
県によると、半径5キロ以内の畜産農家の家畜には現時点で異常は見られないという。
発生農家で診察した獣医師から9日、よだれを垂らしている牛がいると県に届け出があり、県が立ち入り検査。3頭に舌のただれなど口蹄疫特有の症状がみられた。農水省も写真で確認し、同じ部屋で飼育されている9頭の殺処分を決定した。
県は当初、この農家の飼育頭数を250頭としたが、精査の結果、208頭だった。県央部を中心に拡大した口蹄疫は感染またはワクチン接種済みの約27万頭が殺処分対象となっている。
鹿児島県が開いた対策本部会議では宮崎県都城市に隣接する鹿児島県曽於(そお)市財部町の一部が搬出制限(発生地から20キロ圏内)に入ることが報告された。県によると、区域内の畜産農家は約30戸。飼育頭数は牛約200頭、豚約1400頭。【石田宗久、川島紘一】毎日新聞2010年6月10日 東京夕刊
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口蹄疫:「自衛しかない」 最大の畜産地・都城、悲嘆
感染拡大もようやく収まるのかと思っていた矢先に--。日本有数の畜産地、宮崎県都城市にも9日、拡大した口蹄疫(こうていえき)疑い。市は発生覚知から約2時間後に現地対策本部を設置。埋却地や獣医師の確保、さらには発生農家周辺の道路封鎖、消毒などの作業を迅速にこなした。一方、地元や県境を越えた鹿児島県の畜産農家からは驚きと「自衛するしかない」など悲嘆の声が聞かれた。【小原擁、木元六男、新開良一】
現場に近い都城市高崎総合支所。10日午前5時20分過ぎ、埋却作業に向かう白い防護服姿の職員100人を前に、長峯誠市長は「市内で口蹄疫が発生したことは残念。畜産王国のプライドにかけて封じ込める」と激励した。ワクチン接種については「するつもりはない。えびの市のように接種をせずに封じ込めたい」と述べた。
市によると、殺処分は10日午前2時40分に終了。農家敷地に隣接する畑での埋却作業が進んでいる。
一方、同日午前6時過ぎ、殺処分などの作業を終えた市職員らがバスで支所へ帰ってきた。市職員の関孝さん(55)は畜舎の周りに青いシートを張り、消石灰などをまく作業を夜通し行った。関さんは「農場主の奥さんが泣き崩れている姿を見た時、とうとう自分の町にもとんでもないことが起きたんだということを実感した。とにかく早く封じ込めなければ」と話した。
JA都城の和牛生産部会長で、自らも約200頭を飼育する井ノ上廣實さん(71)は疑い例発生に息をのんだ。「ヘリで地域全体に消毒薬を散布するなど、思い切ったことを考えないといけない。金の問題ではない」と訴えた。
都城市に隣接し、半径20キロの搬出制限区域に入る三股町で280頭の和牛を肥育する福永広文さん(58)も「えびの市の終息で一段落したと思っていた。まさか、という思いだ」。希釈酢による牛舎の全面消毒を2回に増やした。「それぞれが自分の牛舎を防衛するしかない」
一方、県境を挟んだ鹿児島県曽於(そお)市にも衝撃は広がった。市とJAは9日夜、幹線道路に設置する独自の消毒ポイントを2カ所増やした。全国一の子牛の取扱頭数(年間2万4000頭)を誇る曽於中央家畜市場は、4月下旬から競りは延期されたまま。外園孝男・肉用牛課長(52)は10日、「終息に向けかすかに先が見え出している時期に都城で発生しショックだ。農家からの不安の声も多く寄せられているが感染を避けるため巡回はできず電話しかできない」と厳しい表情で話した。毎日新聞 2010年6月10日11時53分(最終更新6月10日17時37分)