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ひとみなひとり ひとりには ひとつの命

2010-05-07 | いのち 環境
中日春秋 2010年5月3日 
 三年前に亡くなった作家の城山三郎さんがつくった「旗」という詩がある。<旗振るな 旗振らすな 旗伏せよ 旗たため 社旗も 校旗も 国々の旗も 国策なる旗も 運動という名の旗も ひとみなひとり ひとりには ひとつの命…>▼神奈川近代文学館(横浜市)で開催中の「城山三郎展 昭和の旅人」の会場に詩の全文が掲げられている。足を止めじっと読む人が多い▼海軍に志願した軍国少年が体験したのは、理由のない体罰、そして、兵を飢えさせ士官自らは十分腹を満たす軍隊の腐敗だ。「旗」は、人を虫けらのように押しつぶすすべての組織の象徴なのだろう▼次女の井上紀子さんは「父はとにかく理不尽が許せなかった。その最たるものが戦争。大義という名のもとで裏切られる個人の心、命。そういうことへの怒りが、書くということの一番大きな動機だった」と自著「城山三郎が娘に語った戦争」に書いている▼城山さんは「日本は先の戦争で、ほとんどすべてを失ってしまった。唯一、得られたのは、憲法九条だけだ」と語っていた。戦争体験と憲法が強く結びついた世代は減っている。憲法への思い入れの少ない若い世代に城山さんの言葉はどう伝わるのだろうか▼あの戦争で新聞は「旗」を振り、国民を熱狂させ国を破滅に導いた。憲法記念日のきょう、新聞の責任にも思いをめぐらせたい。

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