【プラスチックごみ問題】海から消えゆく生き物の「嘆き」 G20で解決の道筋は 2019/6/27

2019-06-27 | いのち 環境

【プラスチックごみ問題】写真が語る海から消えゆく生き物の「嘆き」
G20で解決の道筋は見つかるのか

 2019/6/27  野見山 桂  愛媛大准教授 写真家

 大阪で今月28、29両日に開かれる20ヵ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)。米中貿易摩擦問題など、さまざまな議論が交わされる予定の中、連日取り沙汰されている議題の一つが、近年深刻化が指摘されている「海洋プラスチックごみ問題」だ。この地球規模の課題に対し、安倍晋三首相も「G20大阪サミットの最大のテーマの1つ」と宣言するなど、議長国として各国の言行一致を図る狙いがうかがい知れる。
 では具体的に、海は今どのような状態にあるのか。そして海に暮らす多様な生き物たち、そしてわれわれ人類に、プラスチックごみはどのような影響を及ぼすのか。
 サミット開始直前に際し、愛媛大学沿岸環境科学研究センターの准教授として、野生生物を対象とした環境汚染問題の研究に取り組みつつ、世界最大のフォトコンテスト「ソニーワールドフォトグラフィーアワード」で日本人初となる最優秀賞に輝くなど、写真家としても活躍する野見山桂氏が迫る。

■何もかもがいびつな光景
 私には忘れられない海の光景があります。10年前の2009年5月、私はインドネシアのスラウェシ島に滞在しており、ブナケン海洋国立公園へダイビングに出かけました。このブナケン海洋国立公園は世界的に著名なスキューバダイビングスポットとして知られています。ブナケン島とスラウェシ島の間に数百メートルに渡ってダイナミックなドロップオフ(サンゴ礁の急斜面)があり、 潮が当たるその斜面には、色とりどりのサンゴや、そのサンゴを棲家とする数千種にもおよぶ多種多様な生物たちを観察することができます。
 当時の私はダイビングポイントへの期待でいっぱいでした。また、これが初めての東南アジア諸国でのダイビングでもあったのです。しかし、いざ潜ってみるとそこには、想像できない驚愕の景色が広がっていました。
 美しいサンゴ礁の海の中に、見渡す限り白いクラゲのような浮遊物が漂っていたのです。それらはすべて買い物用のポリ袋やインスタントラーメンの包装袋。いわゆる「プラスチックごみ」でした。私は世界有数の美しいドロップオフの景色よりも、その無数に漂うプラスチックごみの光景に文字通り圧倒されました。それまで潜ってきた日本のダイビングスポットでは、そのような景色など見たこともなかったのですから。
 海そのものは南の島らしく、とても美しく青く透明なのに、そこに漂う無数のポリ袋、そしてそれを気にも止めない現地の人々……何もかもがいびつな光景でした。白く美しい砂浜にも大量のプラスチックごみが流れ着き、小さな子どもたちが楽しそうに海水浴をしていました。
 現地の人に話しを聞くと、これらのゴミの多くは近郊の大きな都市を持つ島から潮に乗って流れ着くそうですが、現地の人々はこの海の状況に慣れきっていました。既にこのかなり前から“プラスチックの海”状態になっていたのでしょう。私はその当時、「この現状を写真に写すまい、できるだけ綺麗な南国の海の写真に仕上げよう」と、ごみが写り込まないような撮影を心がけておりましたが、今となって思えば、あの現実を写真で記録しておくべきだったと後悔しています。

■深海に浮かぶポリ袋は「〇〇」そっくり
 ブナケン海洋国立公園に限らず、写真撮影のためフィールドへ、とくに船で海に出ると、時に潮目に沿って海に浮かぶ沢山のごみに遭遇します。ペットボトルやポリ袋、発泡スチロール、漁具……多くのプラスチックごみの存在に気が付きます。世界経済フォーラムによる推測によると、このままプラスチックの海洋投棄が続けば、2050年には海洋中に存在するプラスチックの量が魚介類の量を超過するとも言われています。
 そもそも、プラスチックが誕生したのは今から約150年前のこと。丈夫で軽く、安価の素材として、医療機器やジェット機の材料など、今やわれわれの生活に欠かせない存在といえます。
 ただ、“極めて使いやすい素材”であるがために、世界のプラスチック生産量は急激に肥大しました。とくに近年のプラスチック生産量は凄まじく、過去15年間の生産量はこれまでの累計生産量のほぼ半分になるそうで、2016年の生産量は年間4億トンにもなりました。そしてこの4割以上が一度使われただけで捨てられる“使い捨て”の状態であるとされ、年間800万トンのプラスチックごみが海洋に流出していると推測されています。  私が考える海洋プラスチック汚染最大の問題、それは野生動物よる誤飲です。プラスチックで胃などの消化管が詰まることによる栄養失調、尖ったプラスチックによる消化管の内側の損傷など、様々な物理的障害が起こります。
 近年、大量のプラスチックごみを誤飲したクジラが世界各国で打ち上げられている話は皆さんもご存知でしょう。フィリピンに打ち上がったアカボウクジラの胃からは、実に40キロものプラスチックが見つかりました。タイの運河で見つかった衰弱したゴンドウクジラの胃の中からは80枚のレジ袋が見つかり、これが胃に詰まって餌を食べることができなかったことが死因と見られています。
 これらの鯨類の特徴は、ハクジラ類と呼ばれる歯を持つイルカ・クジラの仲間で、魚類や頭足類(イカ・タコの仲間)を主食としている点です。とくに上記のマッコウクジラやアカボウクジラは、深海へ潜って頭足類などを主食としていることが知られています。
 数々の報道から想像されることは、深海には多量のプラスチックごみが沈み込んで、それらをクジラがイカなどの餌と間違えて飲み込んでしまっている現状が見えてきます。確かにわれわれの目から見ても、深海に浮かぶポリ袋はイカなどにそっくりです。
 以前、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が撮影した深海の映像には多量のプラスチックごみが沈み、海底に堆積している様子が写っていました。これらは微生物などで分解され自然に帰ることもなく、その場に溜まり続けます。そしてわれわれ人類は、このような深海に沈んでいる大量のプラスチックごみを未だ回収する技術を持ち合わせていないのです。
 ハクジラ類だけでなく、ヒゲクジラ類へのプラスチック汚染も気がかりです。ヒゲクジラの仲間の採餌方法は、オキアミや小型魚類を海水と一緒に丸呑みし、ヒゲ板とよばれる部位で海水から餌を濾し取ります。
 昨年、高知沖でヒゲクジラ類のニタリクジラの採餌行動を運良く目の前で見ることができました。彼らは餌であるイワシの群れを見つけると我々には目もくれず、周りの海水ごと大きな口で丸呑みを始めました。その量たるや、凄まじいの一言です。
 けれど、その際にプラスチックをはじめとする多くのゴミも取り込んでしまうのではないかという懸念が生まれました。その後、色々と文献を調べてみたのですが、現在、ヒゲクジラへのプラスチックの影響は限定的な報告しかなく、今後の調査が待たれます。プラスチックによるイルカ・クジラへの汚染とその影響は、まだわからない事が多いのです。

 ■あまりにも深刻な海鳥の「胃の中」
 また、クジラより深刻な影響を受けている動物は、海鳥の仲間かもしれません。彼らは海に漂うプラスチックを餌と区別できずに誤飲します。プラスチック摂取の影響が深刻だと考えられているのがアホウドリ、ウミツバメ、ミズナギドリの仲間です
 ミズナギドリを対象とした研究では、1960年代、胃の中からプラスチックが見つかった海鳥は5%未満でした。ところが、1980年にはその割合が80%に、近年では90%を超えているそうです。このまま改善が見られなければ、2050年までにはミズナギドリだけでなく、すべての海鳥から100%検出される予想が出ています。

■プラスチックは人にも牙を剝く
 さらに最近の研究で、これら動物のプラスチック摂取が新たな問題を引き起こす可能性が明らかになりつつあります。それが、プラスチックを媒体とした有害物質の摂取です。
 プラスチックには、様々な化学的な性質を与えるための「可塑剤(かそざい)」と呼ばれる化学物質が添加されています。それはプラスチックに硬さや柔軟性、あるいは耐光性をもたせるためなど様々な理由で多量に添加されています。この可塑剤の中には、生物の内分泌系の機能(生体の恒常性、ホメオスタシス)、生殖,発生,行動等)を撹乱させ、野生生物やヒトへ危害を及ぼす物質(いわゆる環境ホルモン)も含まれるのです。
 また、問題はこれだけに留まりません。東京農工大学の高田秀重先生の研究によると、海に漂うプラスチックは、海水中に含まれる生物蓄積性の残留性有機汚染物質(POPs)を吸着し、周りの海水の100万倍も濃縮することが示されました。つまり、1グラムのプラスチックは、濃縮された海水1トン分の汚染物質を吸着できることになります。
 もしプラスチックを含んだ魚を食べたらどうなるか……。プラスチック内のPOPsは、生物の胃の中で溶け出し、摂取した生物の体内へ移動し、発がん性や生殖毒性、内分泌撹乱作用など、有害な影響を及ぼしかねないのです。
 間もなくG20大阪サミットが開催されます。今回のサミットで、議長国である日本はリーダーシップを発揮し、「海洋プラスチックごみ問題」解決に向けた具体的な提案を示せるのでしょうか。
 G20のメンバー国の多くは、使い捨てプラスチックの削減や使用禁止など、既にプラスチックごみを減らすための厳しい姿勢を宣言しています。それに比べると日本の出方は、どうしても遅いと言わざるを得ません。日本はレジ袋を使用する事業者について2020年4月にも有料化を義務付けるとしていますが、使用禁止まで踏み込んだ宣言をできていません。
 すでにEU各国では、食器などの使い捨てプラスチック製品を2021年までに原則禁止する宣言をしています。他のプラスチック製品をみれば規制には遠い及び腰で、G20の開催国としては大きな遅れをとっています。日本もプラスチック削減問題に本気で取り組む姿勢を見せる時でしょう。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です

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◇ リサイクル困難な「汚れた廃プラ」 輸出入規制へ国際ルール 2019/5/11 … 日米は対応に苦慮
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100万種 絶滅の危機 「生態系喪失 かつてない速度」国連警告 2019/5/6 

 

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またもプラゴミがクジラの命奪う 胃に40Kgのゴミ飲み込み餓死 2019/3/20

   

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海洋に投棄されたプラスチックのごみ…死んだ鯨の胃から大量に 生物の生態系に深刻な影響 2018/11/22

   

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モンゴルの牧畜の死骸はプラスチックまみれ…腸もプラスチックで詰まって、死んでいった牛は何頭もいた NewsweekJapan 2019/2/9 

     

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