<アキバの傷痕>無差別殺傷から10年 <2>格差 不満の矛先は社会へ 中日新聞 2018/6/4

2018-06-08 | 秋葉原無差別殺傷事件

<アキバの傷痕>無差別殺傷から10年 <2>格差 不満の矛先は社会へ
2018/6/4 朝刊
 画像;非正規雇用で長く働いた男性。事件を起こした加藤智大に「共感を抱く」という=JR名古屋駅前で
 夕暮れ時の名古屋駅前。高層ビル群から、仕事を終えた正社員たちが次々と出てくる。「一度はこういう場所でスーツを着て働いてみたい。自分には無理だろうけれど」。アルバイトなどの非正規労働を長く続けてきた名古屋市南区の男性(32)は、行き交う人々をうらやましそうに見つめた。
 秋葉原無差別殺傷事件が起きた2008年は22歳で、派遣社員だった犯人の加藤智宏(35)と同世代。当時は「アニメが好きで、他人とのコミュニケーションが苦手。自分と似ている」と思う程度だった。翌年、職場の人間関係に悩み、正社員だったパチンコ店を辞めて非正規雇用に転じると、加藤に強く惹かれ、共感するようになった。
 「『ちょっとしたことでキレる』幸せな人がよう言う。ギリギリいっぱいだから、ちょっとしたことが引き金になるんだろ」
 犯行前に加藤がインターネットに書き込んだ言葉が、自分の境遇と重なった。居酒屋や派遣のバイト。時給は八百円台で、一ヶ月で10万円を稼げれば良い方だ。港湾作業のバイトに転じて時給は千円を超えたが、朝から夕方まで延々と、荷物を載せていた板を片付ける単純作業の繰り返し。こんな生活が9年も続いた。貯金も結婚もできない。
 正社員になろうと50社近くを受験したが、不採用の連続。面接のためにバイトを休めば少ない収入がさらに減るから、就職活動も満足にできない悪循環で、心の余裕を失った。見知らぬ人が禁煙スペースで喫煙している姿になぜか我慢ができなくなり、いきなり指先からたばこを取り上げて、けんかになりかけた。
 加藤は事件前、派遣社員として、自動車の組立工場で働いていた。ある日、自分の作業着が見つからず、職場の誰かに隠されたと勘違いした。その「ちょっとしたこと」が、事件の伏線になった。
 「辞めろってか、わかったよ」。こう書き込んだ3日後、犯行に走った。
 「加藤は社会で活躍できない人の象徴」と男性。「僕も彼のように『そろそろ反乱を起そうか』って考えていた。車を借りて群衆に突っ込んだりとか」
 事件のあった08年度、赤字に陥ったトヨタ自動車はそこからV字回復を果たし、17年度決算で最高益を更新。いま、大企業の業績は好調で、人手不足が伝えられる。
 一方、早稲田大教授の橋本健二(格差社会論)は格差拡大の結果、日本を支えてきた中間層が崩壊し、非正規を中心に、生活水準が極端に低い「アンダークラス」という巨大な固まりの「階級」が出現したと指摘する。
 6万5千部を売り上げた新書「新・日本の階級社会」によると、新・旧の「中間階級」や「正規労働者」からアンダークラスに転落すると、故人の努力では抜け出せず、次世代に貧困が連鎖する。週40時間以上、働いても、平均年収は186万円。しかも、この階級だけが激増して12年に929万人となり、就業人口の15%に達した。当然、社会への不満は鬱積している。
 「格差が進めば治安は悪化し、社会は不安定化する。事件はそれを極端な形で知らせてくれた。ガス漏れを検知するカナリアのように」と橋本。「背後に膨大な数の貧困層がいる。この社会は、実は危機的状態なんです」(敬称略)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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