死刑と無期の境〔上〕私の死刑執行をビデオに撮り、死刑とはどんなものか、司法に係わる人に見てほしい

2010-02-19 | 死刑/重刑/生命犯

朝日新聞2010/2/16Tue.~18
死刑と無期の境〔上〕 更生か命の償いか
生きて「刑務所の星」に
 刑法が定める最も重い刑は命を絶つ「死刑」だ。無期限に刑務所で懲役を続けさせる「無期懲役」が次に重い。
 その差は大きい。
 《○○さんの活躍が、私の励みです》。今年の正月、京都府に住む調理師の男性(63)の自宅に1枚のはがきが届いた。差出人の住所は千葉刑務所。自分と同じ無期懲役囚で、ともに刑務所で過ごした仲間からの年賀状だった。
 男性は30歳の時、借金を断られてカッとなり、知人の妻の首を絞めるなどして強盗殺人罪で服役した。「無期」と言っても、改悛が認められれば仮釈放となる可能性はある。男性が仮釈放を許されたのは2008年6月。刑務所生活は31年に及んだ。
 弁護人に「15年もすれば仮釈放だ」と言われて刑務所に入ったが、20年、25年と過ぎていく。「いつ出られるのか」ということしか考えられなくなった時期もあった。
 だが、死刑を求刑されながら無期懲役となった服役囚仲間から「判決で無期懲役と言われたときは涙が出るほどうれしかった」という話を聞き、気づかされた。「被害者は亡くなったのに、私は生きることを許されている」。命を奪った罪の重さを改めて認識させられ、仮釈放を求め続ける自分の姿を「みっともない」と感じた。
 仮釈放に向けた面接に呼ばれたのはそんなころだった。
 社会に戻ってからは母親と暮らし、ほぼとぎれることなく調理の仕事がある。しばらくは携帯電話の使い方にも四苦八苦した。「ぼろが出ないようにとびくびくし、首を縄でつながれているという気分は変わらない」が、生活は自由だ。休みの日には街に映画を見に行くこともある。
 仮釈放で刑務所を離れるとき、門の前で職員に背中をたたかれ、励まされた。「お前は千葉刑務所の星だ。残された無期懲役の者は、お前を目標にして生きている」
   ■   ■
「人を裁くなら、執行見て」
 死刑囚は、刑務所ではなく拘置所で死刑執行を待つ。刑の確定から執行までは、最近では平均で4年ほどだ。
 「私の執行は、いつごろになるんでしょうか・・・」。名古屋拘置所に入っていた川村幸也・元死刑囚(当時44)は08年12月、面会に訪れた三浦和人弁護士に静かに尋ねた。執行されたのは翌月。これが最後の面会になった。
 川村元死刑囚は共犯者とともに名古屋市で女性2人をドラム缶で焼き殺した罪で06年7月に死刑が確定した。1審から弁護人を務めた三浦弁護士によると、確定前にカトリックの洗礼を受けたことで落ち着き、「被害者や遺族のことを考えれば死刑は仕方がない」と納得していた。
 ただその一方で「自分たちは指示されただけで、首謀者は捕まっていない」と訴え続けていた。共犯者のうち2人は同じ死刑を求刑されながら無期懲役が確定していた。「命令されてやったことを裁判長に分かってもらえば、同じ無期懲役にできたのではないか」。三浦弁護士には悔いが残る。
 執行の2週間ほど前、川村元死刑囚は市民団体が実施したアンケートに、こんな一文を残していた。
《わたしの死刑執行をビデオに撮り、司法にかかわる人に、死刑とはどんなものなのか、みて、考えてほしいと思います。司法は人を裁くのです。最後まで知っているべきなのです》
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 死刑か、無期か。それを決めるのは裁判の場だ。昨年8月から始まった裁判員裁判で、市民がその選択を迫られた事例は、まだない。今月28日~3月2日に鳥取地裁で実施される強盗殺人事件の裁判員裁判では、犠牲者が2人であることなどから、検察側が裁判員裁判で初めて被告に死刑を求刑する可能性がある。
 「死刑判決が出てから執行されるまで、どのくらいかかるのか」「仮釈放された無期懲役囚は何年くらい刑務所にいたのか」。裁判員制度の施行前、最高裁は想定問答集を各地の裁判所に配布した。評議の場で裁判員から質問が出たときに裁判官が説明するためだ。裁判員はそれらを踏まえ、判断を下すことになる。
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 裁判員裁判は2年目に入り、市民がより難しい判断を求められるケースが増えていく。その前に、改めて「死刑と無期懲役の境」を考える。
■無期懲役囚の仮釈放
 受刑者に認められる仮釈放は、無期懲役囚の場合は服役後10年を経過すると可能性が出てくる。ただ、仮釈放者による「再犯」への社会の厳しい視線などを背景に、1980年代半ばごろまでは年間50人に上った無期懲役囚の仮釈放者は90年代は10~20人前後にとどまっている。
 全国の無期懲役囚は2008年末現在で1700人を超えたが、同年に新たに仮釈放されたのは4人。前年は1人だけで、極めてまれになっている。
 最近の仮釈放者の平均在所期間は30年程度だ。

 ◎上記事は[朝日新聞]からの転載・引用です
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◇ 死刑と無期の境〔上〕私の死刑執行をビデオに撮り、死刑とはどんなものか、司法に係わる人に見てほしい
◇ 死刑と無期の境〔中〕死刑かどうかの審理に、時間を惜しんではいけない
◇ 死刑と無期の境〔下〕「仮釈放がほぼ認められない現状から絶望し、自殺したのでは」
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