悪魔、サイコパス、母への偏愛…弁護団をも翻弄した片山被告の“心の闇”とは
産経新聞 5月26日(月)12時30分配信
「悪魔」の本心はどこにあるのか-。4人が誤認逮捕された遠隔操作ウイルス事件で、威力業務妨害などの罪に問われたIT関連会社元社員、片山祐輔被告(32)は捜査当局に「真犯人」メールが自作自演と見破られた途端、すべての事件への関与をあっさりと認めた。か細い声で謝罪の言葉を並べ、残された母親の健康を心配する一方、無罪を勝ち取るために団結してきた弁護団のことを「操ってきた」と喜々として語る。自らを「サイコパス(反社会性人格障害)」と分析する心のうちには、底知れぬ闇が見え隠れする。(中村翔樹、宇都宮想)
■「平気で嘘を付ける」…自ら「真実」を暴露
「すがすがしい気持ちだ」
弁護団に一連の事件への関与を認めてから3日後の22日。片山被告は東京地裁での公判で、これまでの無罪主張から一転、すべての罪を認め、弁護団にこう心境を吐露した。
「傍聴人の視線が怖かった」とも漏らしたが、表情は安堵(あんど)感に満ちていた。これまでの公判で「徹頭徹尾、事実無根」「第5の冤罪被害者」と声高に潔白を訴えてきた強気な姿勢は消えうせていた。
「初めて接見したとき、よどみない話しぶりに無実を信じた」。主任弁護人の佐藤博史弁護士は、片山被告の第一印象をこう振り返る。だが、白旗をあげてからの片山被告は「平気で嘘を付ける」といい、味方だったはずの弁護団を裏切るような「真実」を次々に明らかにしていった。
例えば、遠隔操作ウイルスの設計図が入った記録媒体が見つかり、片山被告の逮捕の決め手になった神奈川・江の島の猫の首輪。捜査当局は江の島近くのスーパーで首輪を2個購入したとみていたが、弁護団の調べで購入記録がなかったことが分かり、無罪の心証を強めていた。
だが、片山被告は「あれは万引したんです」と暴露。佐藤弁護士は「こうやって、弁護団のことを操っていたと言った。困ったことに、私たちをどのようにだましたかを話しているときは、楽しそうにしている」と打ち明ける。
4人が誤認逮捕されたことについても、「非常に不謹慎だが、『やったー』という気持ちになったそうだ。自分の行いで他人を社会から抹殺しかけたという重大性を十分に認識しておらず、悪魔のような部分が潜んでいる」と困惑を隠さない。
■「演技性の人格障害」…勝ち目なくなり、負けを認める
一連の事件では、今月16日の真犯人メールを含め、片山被告が作成、送信したとみられる計5通のメールが報道機関や弁護士などに届いた。
平成24年10月の最初の犯行声明メールでは、「私の目的」として「警察・検察を嵌(は)めてやりたかった、醜態を晒(さら)させたかったという動機が100%です」と書き込み、「今回はこのぐらいにしておくけれど、またいつか遊びましょうね」と締めくくっていた。
2通目からは、徐々に愉快犯的な度合いを強め、同11月のメールでは事件を「ゲーム」と表現し、「捕まるのが嫌なので今から首吊(つ)り自殺します」と“ゲームオーバー”を示唆。25年1月1日に「謹賀新年」のタイトルで送られたメールでは「さて新しいゲームのご案内ですよ」「マスメディアの方は独占スクープのチャンスです」などと、報道機関の競争心をあおるような内容に変遷した。
4日後の1月5日の「延長戦」メールでは、東京・奥多摩の雲取山に埋めたとする記録媒体が警視庁などの合同捜査本部の捜索で見つからなかったことを引き合いに、「ちゃんと登頂したのにオオカミ少年みたいに思われているのが不本意」とあった。
「演技性の人格障害。知らず知らずのうちに嘘を重ね、自分を大きく見せるような演技をしてきた」。片山被告の人物像について、こう指摘するのは臨床心理士の長谷川博一氏。「嘘が心理的な負担になり、『すがすがしい』という率直な感想が口に出た。すべてを勝ち負けで考えており、どう転んでも勝ち目がなくなったので負けを認めた」
それでも、弁護団が今月21日、精神鑑定の結果によっては無罪の可能性もあると伝えたところ、片山被告は「この事件は知的に考えぬかれた事件だから自分が無罪になることはない」と、自らの行為へのプライドをのぞかせたという。
■ピーターパン…強い「自己愛」「優越意識」
片山被告は父親を早くに亡くし、母親に女手一つで育てられた。都内の名門私立の中高一貫校を卒業後、理工系大学を中退。だが、専門学校でパソコンを学んでいた17年、大手レコード会社社員への殺害予告事件で逮捕される。
「『のまネコ』の使用を即時中止しろ。さもなくば社員を刃物で殺害する」。レコード会社のネコを模したキャラクターが、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に登場するネコのイラストに似ているとしてネット上でそう要求した。
「自分は企業が求める人物像と違う。社会に必要ない人間だと感じ、むしゃくしゃしていた。ネットで注目されたかった」。片山被告は当時の犯行動機をこう語っていた。
精神科医の日(ひ)向(が)野(の)春(はる)総(ふさ)氏は、片山被告を「自己愛型の人格障害」と分析。犯行動機について、「『一般人はクズだ』という強い優越意識があり、自分と同じくらい知能の高い人間に注目されたいと思っている」とみる。
母親は当時の裁判で「(片山被告は)中学に入ると学校での出来事を話さなくなり、表情もなくなった。逮捕後、初めていじめられていたことを明かされた」と証言。片山被告も「殴られたり蹴られたり、のこぎりで頭を切られたりした」といじめの詳細を打ち明け、母親に心配をかけたくない気持ちがあったことを示唆している。
最後に真犯人メールを送った理由についても、片山被告は「母親が口癖のように『早く平穏な生活が送りたい』と言っていたから」と、母親への偏愛ぶりを示している。
「友達付き合いが下手で、殻に閉じこもり、気が付いたら周りに母親しかいなかった。母親との幼稚な関係性から脱却できずにいるピーターパンのような精神状態」。日向野氏はこう推測している。
佐藤弁護士は22日の公判後の会見で、涙ぐみながら、片山被告にこう語りかけた。「ありのままの姿を見せることです」。今後も弁護を続けるという佐藤弁護士の訴えは片山被告の胸に届くのか。裁判の行方が注目される。
最終更新:5月26日(月)13時33分
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