検証・裁判員制度:判決100件を超えて/6止 対象の是非、議論を

2009-12-24 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴
検証・裁判員制度:判決100件を超えて/6止 対象の是非、議論を
 ◇覚せい剤事件、性犯罪… 難しい量刑判断、重い被害者負担
 秋、西日本の裁判所。評議室の議論は覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)に問われた被告の量刑に絞られた。
 「覚せい剤は人を廃人にする。放射能をまくのと同じで無期懲役でも良いのでは」
 裁判員の一人は検察側求刑を超えた法定刑の上限を口にした。さまざまな意見が出たが、多数決で10年を下回る懲役刑が決まった。
 覚せい剤事件をめぐっては量刑判断の難しさが浮かぶ。大阪地裁は9月、約1キロを密輸したとして無職の男性(57)に懲役5年、罰金350万円を言い渡した。約1カ月後、大阪地裁はほぼ同量を密輸したとされるポーランド人男性(24)に懲役7年、罰金300万円を宣告。検察の求刑はともに懲役10年、罰金500万円だった。
 裁判員の記者会見では「覚せい剤の怖さが分かった」(9月、福岡地裁)と、身近な問題としてとらえ直す機会になったと評価する声がある一方、「(判断するには)日常生活から遠すぎる」(9月、大阪地裁)との戸惑いも少なくない。
    ◇
 今月1日の名古屋地裁。4人の女性を襲ったとして強姦(ごうかん)致傷などの罪に問われた少年(19)の初公判で被害者の調書を朗読していた女性検事が、暴行の場面にさしかかると「黙読してください」と口を結んだ。静まり返った法廷で裁判員の目は手元の書面を追った。
 事件の詳細と現場写真の数々。検察側が悪質性を印象付けようとしたとみられるが、判決後の記者会見で40代の男性裁判員は「証拠には目を覆いたくなった」と述べた。
 被害者の負担を懸念する意見は根強い。
 「性犯罪は心の殺人。許される限りの重い刑をお願いします」。今月、熊本地裁の裁判員裁判で審理された強制わいせつ致傷などの事件で被害者の女性はモニターを通じて別室から意見陳述した。廷内に響く声は涙声になった。2日後の判決で被告には求刑通り懲役10年が言い渡された。判決後、女性は代理人弁護士に「参加して良かった」と伝えた。
 だが、弁護士は慎重だ。「(市民を前にした)裁判への参加をちゅうちょしたり、告訴の段階でためらう被害者も出ると思う。性犯罪を裁判の対象とすべきかどうかは、検討した方がいいと思う」
 裁判員裁判の対象となる強姦致死傷罪と強制わいせつ致死傷罪の起訴件数は、裁判員制度が始まった5月から11月末で計124件。昨年6~11月の起訴件数(191件)の65%にとどまる。原因は分からないが「裁判員を意識し事件化を嫌がる被害者もいるようだ」と推測する捜査関係者もいる。犯罪の認知件数も減少傾向にあるが、性犯罪の起訴件数の減少は事件が潜在化しかねないとの懸念にもつながる。
    ◇
 裁判員制度は公判の「質」だけでなく「量」も課題だ。11月末現在の起訴件数は999件で、判決が言い渡されたのはわずか138件。初公判前に争点を絞り込む公判前整理手続きに時間がかかったためとみられる。ある地検幹部は不安を口にした。「(地元の)地裁が5000人以上の県民に裁判員候補者の通知を送りながら、今年あった裁判は1件だけ。来年は『裁判ラッシュ』になる。難しい否認事件は、どんどん遅れていくだろう」=おわり
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 この連載は武本光政、松本光央、北村和巳、石川淳一、山田麻未、牧野宏美、高瀬浩平、松井豊、和田武士、遠山和宏が担当しました。
 ◇今年の審理138件、無罪ゼロ
 毎日新聞の集計では、裁判員裁判は12月18日に年内すべての審理を終え、50地裁(8支部含む)で、142人(138件)に判決が言い渡された。実刑は110人、執行猶予付きの有罪は32人で、無罪はゼロ。執行猶予のうち20人に保護観察が付けられ、その割合は62.5%だった。裁判員法は、スタートから3年で政府が施行状況を検討するとの見直し規定を設けており、法務省は法律家や有識者でつくる「裁判員制度に関する検討会」を既に発足させた。課題を洗い出し、必要に応じて制度改正を提言する。
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 ◇実刑となった被告数◇
 (12月18日現在)
無期懲役        1人
20年超25年以下   3人
15年超20年以下   7人
10年超15年以下   8人
5年超10年以下*  59人
3年超5年以下    24人
2年以上3年以下    8人
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       計  110人
 (毎日新聞まとめ。懲役刑のみを集計し、*には5年以上10年以下の不定期刑の少年1人を含む)毎日新聞 2009年12月24日 東京朝刊

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